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第32話 荒技

「この辺りでいいか」


模擬戦(モックバトル)が行われる訓練場を少し進み、ジオが立ち止まった。

木々が立ち並ぶ森のような自然公園区の中央あたりで、そこだけ低木や草花が目立つ、少し開けた場所だった。


「ここって見晴らしがいいけど、狙われやすいんじゃねぇの? 大丈夫か?」


サンがあたりを見回して言った。


「狙われたところで防げばいいから」


とジオは至極当然な返答をした。


ランスが上方を見上げると、試合エリアのぎりぎり外側にある高台が目に入った。

よく見ると中にユートリアがいて、腕には鷹が一匹止まっていた。ずいぶん懐いているようで、和やかな目で頭を撫でている。


ユートリアは訓練場に目を向け、あたりをぐるりと見回す素振りをした。そして腕を掲げ、鷹を飛び立たせた。


鷹はぐるりと自然公園区を旋回してから、高台の上に着地した。


これが試合開始の合図だった。生徒が一斉に動き出したのがわかった。


開始の合図がなされるや否や、まるで示しを合わせたように、各班がみんなランスの班を狙いだし、四方から魔法が飛んできた。


当然と言えば当然で、この班には学年主席のジオも学年次席のミオンもいる。人数が少なくなってからまともにやり合うくらいなら、人数が多い時に畳み掛けて落とした方が良い、というのがクラス全体の総意だった。


その上こんな開けた場所で待ち受けていれば、狙ってくださいと言っているようなものだった。


「うわ、やば!」


とサンは思わず声に出し、集中する魔法の量に圧倒されていた。

ミオンも少し気圧されて思わずランスの袖を掴んでいたが、ランス自身はそれに気づかないほど興味深く攻撃を眺めてしまった。


数珠繋(じゅずつな)ぎの岩石が、荊棘(いばら)の鞭が、篠突(しのつ)く雨のような蜘蛛の糸がそれぞれの軌道を描きながら集中している。

模擬戦とはいえ、この班全員を葬り去ろうとする幾多の非科学の閃光は、魔法に慣れていないランスにとってあまりに目新しかった。


魔法の集中砲火を受けながら、ジオはそれでも冷静だった。

手を前に掲げると、そこから渦を巻くように鉄魔法を発動させた。


魔法は瞬く間に広がり、台風が急速に発達するように、周囲をどんどん取り囲んだ。

ランスたちに向かって放たれた魔法は、ジオの魔法に触れるやいなや軒並(のきな)蹴散(けち)らされた。

あんなにたくさん群れ集まって来た魔法は、一つまた一つと砕かれていった。


全ての魔法を(さば)き切っても、ジオの魔法はなお膨張した。

木々の隙間を縫いながら、死角に隠れた生徒たちを飲み込み、全員()(すべ)もなく鉄の渦の中に消えていった。

うわあ、と叫ぶ驚嘆の声がランスまで聞こえた。


近くにいた生徒達を巻き込み切ってしまうと、ジオはパッと魔法を解消した。

クラスの約半数の生徒が訓練用の上着を真っ青にし、呆然と立ち尽くしていた。無作法なまでの力技だった。


ランスは思わずジオを凝視した。魔力の差というものを初めて実感を持って教えられ、学年首席はちゃんと強かったんだなと気付かされた。

台風の目の中で一緒に見ていたサンとミオンも言葉を失っていた。


高台の中でその様子を見ていたユートリアは、


「まあ、最初の授業はこんなもんか」


と小さく呟いた。


ユートリアにとっては意外でもなんでもない結果だった。

この学校に来る生徒は、そもそも模擬戦で作戦を立てることに慣れていない。それまで魔力で圧倒する側の人間だったから。


だから初回の模擬戦で作戦のないまま試合の序盤で主席に挑み、返り討ちにあうところまでがいつもの流れとして出来上がっていた。


「……それにしても、班員全員、余裕で守り切っちゃうのは、少し強すぎるけど」


ユートリアはそういうと、また試合の続きに集中した。


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