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第30話 話し合い

「そもそも『模擬戦(モックバトル)』って何すんだ?」


ランスは大体の概要やルールはわかっていたが、やったことはなかったので、一般認識を確認する目的でそう聞いた。

改めて説明がなかったところを見ると、他の生徒はある程度共通の認識があるのだろう。


「あれ、小中学校の体育とかでやってないのか?」


「俺、今まで学校通ってない」


マジかぁ、とサンは呼応するように反応したが、それほど大きな衝撃は受けていない様子だった。

相変わらず「都会にはいろんな人がいるな」と思っているみたいだ。


ランスの言葉を受けてジオが説明した。


「与えられた範囲の中で、自分に魔法が当てられないように逃げながら、相手に自分の魔法を当てる単純なゲームだよな。


魔法が当たった人は脱落する。最後まで残っていたら勝利」


「魔法当てたら危ないんじゃないのか?」


「?? ……あぁ」


そう言えば、魔法が使えないのかと思い出したような間が生まれた。


「傷つけようと思って魔法使わなければ、相手が怪我することはないよ。

敵意がなければ、炎魔法にあたっても火傷はしない」


魔法ってこういうもんなんだと言われると、ランスは受け入れるしかなかった。

科学であれば、扱う者の敵意だか友情だとかに関係なく、火を押し付けられれば火傷するし、氷を押し当てられれば凍傷を起こす。

しかし魔法はどうやら違うらしい。

そうであるものに不平を言うつもりもないので、シンプルに「そうなのか」と返した。ただその時、何故かサンの顔が曇ったように見えた。


「とにかく、魔法が使えないと戦力にならないんだな。俺、休んでいていいのかもな」


「え、何でだよ。一緒にやろうよ」


サンがさも当然のように疑問を呈した。


「だから俺、魔法が使えないんだよ。足手まといになるだけだろうし」


「そんなん言ったら、俺だって、俺の方が、足手まといになるかもしれないだろ」


ランスはサンの真意を解しきれず、聞き返すような表情をした。サンが付け足すように言った。


「俺、多分、学年で一番魔力低いよ。それに……」


まだ何か言いたそうだったが、それ以上何も言わなかった。決まりが悪そうに髪をかきあげながら視線を逸らしてしまった。


「魔力低いって、いくつなんだよ」


ジオが口を挟んだ。


「受験の時は、3033……」


それは決して低い数値ではなく、むしろその年齢の魔力としては極めて高かった。

努力に努力を重ねても、3000の壁を越えられない人間はごまんといる。


しかし上澄も上澄の生徒が集まりきった学校内では、確かにその数値は見劣った。

ランスが記憶している限りでも、入学してすぐの魔力測定で一番低い数値だった。


「別に、低くないだろ」


ジオが口を挟んだが、サンは怪訝な顔をした。


「首席がなんか言いおる……低いだろ。多分俺、合格最低点で入学してるわ」


「合格してるわけだろ? それくらい、魔法の相性とか状況次第でどうにでもなる。魔力の数値もこれからも成長するだろうし」


ジオの発言には相手を慰めるような感じは一切なく、ただの本心だった。


「いやでも、魔力が低いのは低いとして、それだけじゃないんだよ。

……実践向きの魔法でもない、というか、そもそも使える魔法じゃないんだ」


サンはそう言うと、今度はミオンが割って入った。


「私の魔法も、戦う魔法じゃない……」


それを聞いたサンは、ジオに向かって呑気に言い放った。


「そういえば、ミオンの魔法も〈治癒〉だから、うちの班で戦える奴、ジオしかいねぇな。がんばれ」


ジオはそういえばという顔をして、あっと呟いて止まった。

ジオの代わりにランスが尋ねた。


「じゃあ、サンの魔法は何なんだよ」


サンはそう聞かれて、一瞬肩を強張らせた。

目を泳がせ、誤魔化すように「ええと」と繰り返しながら、意を決したように言葉を次いだ。



「……まじで役にたたない魔法だよ。まず俺、自分の魔法嫌いなんだ」


ランスはサンの物言いに驚いた。


豊かな人間関係を育んできたわけではなかったが、「自分の魔法が嫌い」と宣言した人間に初めて出会った。


それと同時に、出会った時、魔法を聞かれなかったことも合点がいった。

相手に魔法を尋ねたら、自分も魔法を白状することになるから、聞けなかったのだ。


「……どの道、この学校で魔法が隠し通せるわけないんだし、言えよ」


ジオは落ち着いてそう言った。彼も自身の魔法を嫌う人に会ったのは初めてだったが、「家庭の事情」で魔法を隠したがる人がいるのは知っていた。

だからこそ少し慎重になっていたが、班員の魔法を知らずに済ませられるわけもないので、開示を促した。


ミオンは静かに様子を伺っていた。心の中では、言いたくなければ言わなくていいんじゃないかとも思っていた。

しかしジオの言っていることも正しかった。


サンはなお少し躊躇ってから、ポツリと呟くように自分の魔法を答えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……別に、全然変な魔法じゃなくないか?」


ジオは拍子抜けをしたように言った。サンが言いたがらない理由も嫌う理由もわからなかった。

ミオンもランスも聞いただけでは、問題のある魔法だとは思えなかった。


ジオはさらに実直な意見を述べた。


「それに、模擬戦でも役に立ちそうだ。相手の隙を作るとか、使いようがありそうだけど」


「それは、できるかもしれないけど…………」


サンは一旦ジオに同意してから、難しい顔をし、続けた。


「この班、すごく嫌われるぞ」

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― 新着の感想 ―
おぉ⁈ 何かな、サンの魔法は⁇
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