第29話 保留
ミオンはひとしきり部屋を眺めた後、近くにいたランスに小声で
「本当に広くて綺麗だね。一般寮の1部屋よりもこの部屋の方が広いね」
と言った。
ランスが3時間かけて通っているのを知らないミオンは、同じ一般寮の寮生だと思って話しかけた。
「あぁ、俺寮入ってないんだ」
とランスが伝えると、ミオンは小声にするのを忘れて「えっ」と驚いた。
その声はサンの耳にも入ったので、どうしたと関心をひいてしまった。
「なーんで片道3時間かけてまで家から通っているんだよ」
サンは呆れた声で尋ねた。ミオンも同意するようにじっと見た。
ランスはどう答えたものかと考えたが、はぐらかすのも何だか面倒だった。
「寮、入らないの? 楽しいよ。今からだって、頼めばきっと入れるよ」
ミオンが懸命に会話に入って勧めた。
適当にあしらうこともできず、ランスは話を逸らすつもりで質問を返した。
「一般寮ってどんな感じなんだ?」
えぇっと、とミオンは懸命に生活を思い出した。
「個室になってて、各部屋にベッドと机と椅子があって、ここほどじゃないけど、十分広くてゆったりできるよ。
担当の寮母さんが棟ごとにいて、ご飯作ってくれたり、洗濯とか掃除とか手伝ってくれるよ。だから家のことで大変になることはないよ。
それで、友達がすぐそばに住んでいるから。ちょっと退屈な時遊びに行ったり、お菓子作ったら持ってきてくれたり。女子の方は、部屋にリボンをかけておいたら声かけて良いよの合図なんだ。1人が良かったらそう過ごすこともできるし、えぇっと、すごく楽しいよ」
ミオンが描き出す寮生活は、生活と結びついている分活き活きとしていた。
そんな生活が好きな人は、本当に楽しいんだろうなとランスも納得することができた。
「でも、男子寮だとまた違うのかな。サン君の所はどんなところ?」
「あれ、言ってないか。俺も一般寮じゃないよ」
「え、違うのか」
ジオは思わず口を挟んだ。貴族寮に驚いていたくらいだから、一般寮だと思っていた。
ランスはユートリアが貴族寮と一般寮の他にも、特殊な寮がいくつもあると語っていたのを思い出した。
「違うよ。俺の寮は……」
サンはそう言うと、言葉を次ぐのが止まってしまった。何から説明したら良いのかわからないようだった。
感覚的に話すタイプであるらしく、まとまった内容を組み立てるのに骨を折っていた。
「説明するのめんどいな。放課後ひま? 見に来ないか? 教室から歩いて20分くらいかかるけど」
ランスは正直、放課後はすぐ帰りたかった。自然な断りの文句を探っていると、先にジオが言葉を発した。
「行っていいなら、見てみたい。なぁ、興味ないか?」
そういうと、ミオンの方を見て同意を求めた。
ミオンはうんと頷いた。ほとんどの生徒は一般寮に住むので、例外的な寮にまた純粋な興味を抱いていた。
「おっしゃ、決まりだな。じゃあ放課後また声かけるわ」
過半数の賛成を受け、サンは早々に投票を切り上げてしまった。
ランスが言うのより先に、ジオが話題を振った。
ランスは完全に口を挟んで断るタイミングを失った。ジオに流れを作られたように感じて、あまり良い気はしなかった。
ジオの方を見ると、誤魔化すように視線を泳がせてから
「ところで、この時間、戦闘訓練の作戦立てとか少しくらいしたほうがいいんじゃないか?」
と口に出した。
サンもミオンもすっかり忘れていたようで、あぁ、そうだったと言葉を続けた。




