第28話 貴族寮
「うわぁすげぇ! 広!」
サンは興奮して両手を広げた。ミオンもわぁと驚いて口元を覆った。
教室から10分も歩かずたどり着いたその部屋の中は、一言で表すと落ち着くカフェスペースだった。
机と椅子が数個並び、右の壁には低めのキャビネットが置かれ、何冊かの本や、チェス•トランプなどのテーブルゲームのセットがある。
一つ一つが繊細な技術で作り上げられたものだったので、ただそこにあるだけでも十分空間を映えさせた。
キャビネットの上部には大きな枠の窓が二つあり、カーテンに透かされ、和やかな日の光を誘い込んでいる。
透明な食器棚には繊細な装飾が施されたティーカップやグラスが並べられ、壁の空いている部分に嵌め込まれた大きな窓は。枠を植物で装飾されていた。
部屋を見渡せば見渡すほど、身分の高さを証明する小道具を見つけることができた。
それでもそれらは全て驚くべき計算の中で調和しており、全体として華美すぎず、落ち着いた印象に仕上がっていた。
これが1人の生徒のプラーベートスペースだなんてとても信じられなかった。
「本当にすごいな、教室からもめっちゃ近いし、最高じゃん、ここ」
少し興奮気味のサンが言った。
「そうか。気に入ったんなら、いつ来ても構わないよ」
「まじ!? そんなん言われたら入り浸るぞ?」
「いいよ別に」
サンは冗談のつもりで言ったが、ジオの許容は本気だった。
「あの奥何があるの?」
ミオンは入り口の反対側にあるドアを指して言った。
「あの奥は応接室。そのさらに奥が食堂で、その奥が……」
「ちょっと待て、何部屋あるんだ」
「全部で5部屋」
そういうとジオは手元にあったペンと紙をテーブルに置き、簡単な間取り図を描いた。
┏━━━┯━━━┯━━━┯━━━┯━━━┓
┃ 寝室 ┃書斎 ┃食堂 ┃応接室┃休憩室┃入口
┗━━━┷━━━┷━━━┷━━━┷━━━┛
「まじか、この大きさの部屋5部屋もあんのか。やっぱ貴族の寮すげぇな」
「面白い間取りだね。縦に全部繋がっているんだ」
ミオンは自分でも無意識のうちに、純粋な感想が口をついた。
実際面白い間取りだった。
「……俺はこんなに部屋いらないんだけどな」
とジオは一回前置きを置いて話した。
「貴族のほとんどは、複数の部屋が無いと生活できないみたいだから。
要件を満たしつつ、なるべく簡易的にしようとするとこうなるんだろうな」
確かにそれは、ある意味では妥当な話なのだろう、とランスは思った。
貴族はそれまで大きな屋敷に、それこそ用途に合わせた部屋をいくつも使い分けて生きてきたはずだ。
それが国1番の魔法学校に入るために、貴族・平民の平等の下に生活水準をあわせられ、
1人住むのに必要十分な部屋しかあてがわれなくなるのでは、不満を募らすに違いない。
かといって貴族に合わせた生活を生徒全員にさせるのはまた別の問題が出てくるから、
貴族が最低限それまでの生活を維持できるように、部屋を提供した結果こうなったのだろう。
昨日ユートリアは、貴族寮は有料だと言っていた。
貴族に広い部屋を渡す代わりに金を集め、その利益を学校の運営費に回すのが全員の立場を考えた最適案なのかもしれない。
「てことは、これが貴族の暮らす最小スペースなのか。えげつねぇな。俺ここ20人で住めるわ」
冗談混じりにサンが言った。
「俺だって、本当にこんなにいらない。両親が勝手に決めてたんだ」
ジオがそう答えた後、扉をノックする音がした。
見ると、ジオの使用人がコーヒーの入ったポットを持ってきたところだった。
ジオはコーヒーを受け取り、使用人はドアの前で返した。
キッチンスペースに進んで四人分のカップを準備しだしたので、近くにいたミオンがそれを手伝った。
ランスも様子を見に席を立とうとすると、サンがランスにしか聞こえない声で
「なぁ」
囁くように呼び止めた。
それまでにない、真剣な面持ちだったので、ランスは思わず身構えて聞いた。
「さっきの間取り図見た時さ、『仲良くなればなるほど、奥の部屋行ける仕様じゃん』って言おうとしたけど、
1番奥の部屋が寝室なの生々しくてやめといたわ」
「やめとけてねぇよ」
ランスは身構えて損したと思った。




