第27話 移動
ジオも後から続いてくじを引いた。
全員に紙が行き渡ったのを見ると、ユートリアは黒板に教室の大まかな見取り図と番号を書いた。
「じゃあ、みんな中身を見て、番号ごとに班員で集まって。
挨拶が一通り終わったら、代表者が訓練班名簿に名前を書きにきてね」
一斉に封筒を開ける音が聞こえた。ランスは番号を確認する必要がなく、移動も要らなかったので、クラスの表情一喜一憂を眺めていた。
「あ、やった! 俺ら一緒だ」
そう言ってサンは後ろを振り返りランスにカードを見せた。10と書かれていた。
「俺も一緒だ」
ジオも続いてつぶやいた。手に持っていた番号は10だった。
「まじ!? やったな。すげぇ運いいじゃん俺ら」
確かにランスの近くのこの2人が同じ班になったのは、ランスにとっても運が良かった。
できすぎているような気もしたが、くじに小細工が仕込まれている訳でもなく、単純に確率を掻い潜っただけのようだ。
「あっでも、この班後1人いるんだっけ。誰だろうな」
サンは辺りを見回した。10番は教室の後方に集まるように書かれているので、待っていれば誰か来るはずだった。
「あの……」
緊張の混じった声がした。そちらを向くと、ミオンが「10」と書かれた紙を持って立っていた。
「ここ、10番の班……?」
「あぁ、さっきの治癒魔法の人だ。よろしく!」
サンがパッと明るく出迎えた。ミオンは少しびっくりし身体をこわばらせたが、なんとかニコッと笑いかけた。ランスと目が合うと、小さな声で
「よかった。知っている人いて」
と囁いた。
ジオが代表として名簿に名前を書きに行った。その時にユートリアが何やら声をかけたのが見えた。
ジオがランス達のところに戻る前に、ユートリアが教室に呼びかけた。
「じゃあ、次の時間はさっそくこの班で『模擬戦』をするよ。
大体みんな小中学校とかの体育の授業でやったよね。
11時に自然公園区の第2エリアで開始するから、5分前までにはそこに集まっておいて。
その前にお互いの魔法の使い方とか、作戦とか考える時間を設けるから、班ごとに色々と話し合ってみて。
教室にいる必要はないよ。中庭でも図書室でもカフェテリアでも、どこでも移動して大丈夫だから」
ユートリアがそう言い終わると、教室の生徒がパラパラと立ち上がり始めた。
ジオが戻ってきたので、サンが口を開いた。
「……て訳で、とりあえずどっか移動するか。どこ行く? 中庭とかカフェテリアとか、他の班がもう行ってるかな」
「……俺の寮来るか? 応接間があるから、落ち着いて話せると思う」
ジオは少し考えるふりをして、そう言った。
ランスはジオの提案が少し唐突なように感じた。
話し合いなら他に場所があるし、ジオが積極的に人を招きたがる性格とは思えなかったのだ。
そういえば昨日、ランスはユートリアの入寮の誘いを頑なに断った。
そして先ほどジオはユートリアに何か声をかけられていた。もしかしたら、「寮がどんなところか見せてあげてよ」とでも言われたんじゃないだろうか。
とは言ってもこんなことは推測の範囲をでない。そのため半分本気で、半分冗談のつもりで
「ユートリアの差金か?」
と独り言のようにつぶやいてみた。
しかしジオは、心の準備ができていれば滑らかに虚偽を振る舞えるが、唐突に嘘を吐くことができない性格らしい。
「え」と思わず驚いてから、数秒経ってから取り繕うように否定したが、一瞬間の沈黙は図らずも肯定してしまっているようだった。
「ジオの寮って、応接間あんのか? そこ、身分高い奴がいくとこなんじゃねぇの?」
サンが驚いて尋ねた。
ジオが公爵家の人間であることは、入学初日にノートンが大袈裟に騒いだので周知の事実となっており、クラスで知らないのはその日休んだサンだけだった。
「ジオ君、公爵家の人だよ」
とミオンが補足すると、
「まじかよ!!!」
と大きな声で驚き、驚いたサンにジオは驚いていた。
「まじかぁ、全然わからんかった。
俺のいた町田舎すぎて、貴族に会うのも初めてなんだけど、なんか態度改めた方がいい?」
「そんなわけねえだろ。気にするなよ」
「じゃあこのままいくわ。よろしく」
受け入れの速さはサンの長所だった。
「てか、じゃあ、ジオの所行ってみるか。貴族の寮見てみたいし」
「……私も行ってみたい。急にお邪魔して迷惑じゃなければ」
好奇心で目を少し輝かせながら、ミオンも続いて同意した。
ミオンの周りにも貴族寮に入った人がいないらしく、純粋な興味に満ちていた。
2人の同意があるとなると、ランスは拒否する訳にもいかなかった。
4人は席を立った。教室を出る直前、「行ってらっしゃい」とこちらに手を振ってきたユートリアが妙に腹立たしかった。




