第26話 班決め
ギイッと教室のドアが開いた。
と同時に、ランスにとっては聞き飽きた声が響いた。
「おはよう。今日の最初の授業は僕が担当するよ。よろしくね」
案の定ユートリアだった。教室内の誰もが驚いた。
学長が代理として現れたからではなかった。
ユートリアはここ数日新入生との関わりを最優先業務としていたので、新入生の間では「案外どこにでも現れる人」という印象を持たれている。
それでも彼がクラス中をざわつかせたのは、左頬になんとも痛々しい青痣を携えていたからだった。
ジオに殴られた跡だった。
結局昨日、ユートリアは自分を殴るまでジオを解放しなかった。
その上、威力が弱いと納得せず、2回ほどやり直させた。
ランスはその怪我を呆れるような顔で見ていたが、ジオはとても直視できないらしく、具合が悪そうに目を逸らしている。
「え、あの人学長だろ? なんで怪我してんの?」
何も知らないサンが小声で尋ねたが、「さあ」とランスに流された。
当のユートリアは教室のざわめきなんて一切気にする素振りを見せず、今日の業務をこなしにかかった。
「さて今日はまず、みんな待ちに待っていたかもしれないけど、『学習班』を決めていくよ」
その言葉に教室の空気がまた少し変わったのをランスは感じた。
ユートリアは説明を続けた。
「『学習班』は3人1組で、基本的に卒業までずっと変わらないチームになるよ。
この班分けの目的は、魔法や個性を活かしあったり、切磋琢磨しあったりして、一人で学ぶよりも多く成長すること。
授業とか行事とか、事あるごとにこの班で活動してもらうから、みんな仲良くしてね」
つまり、今から始まる班分けは、学校生活を大きく左右することになる。
ランスは教室の空気が期待と緊張に満たされていっているのだと気づいた。
「そして班分けは、完全にランダムなくじで行われるよ。一人一つ、この中から封筒引いていって」
そう言ってユートリアは持参した箱をガサガサと振った。
特に引く順番が指定されなかったので、大体前の方の席から順に引き始めた。
一通りクラス全員が引き終わった後、俺らも行こうぜとサンに呼びかけられ、ジオと共に教卓に向かった。
ランス達より先に、ミオンがくじを引いていた。
ただミオンは自分の手中の封筒よりも、ユートリアの青痣がとにかく気になるようだった。
「あの……怪我、大丈夫ですか?」
ミオンは恐る恐る尋ねてみた。
「あぁこれ? 転んだんだ。心配かけて悪いね」
ユートリアはずいぶん滑らかに嘘をついた。
転んで作るわけがない傷だったので、ミオンはさらに困惑した。
「……治しましょうか?」
「大丈夫。このままで」
ミオンの提案にユートリアは首を横に振った。
怪我を治したがらない人がいるなんて思っていなかったミオンは、断られたのに驚いて固まった。
能力不足だと思われたかな、失礼なことを言ったのかな、といらない心配をしているのが表情だけでわかった。
「……治してもらったらどうだ? 見ていて痛々しい」
思わずランスが横から口を出した。
「んー……そっか。君がそういうなら治してもらおうかな」
それを聞いてミオンはパッと笑った。
頬に手をかざし、オレンジ色のオーラに包まれたかと思うとユートリアの腫れはみるみる引いた。
「ありがと」
そう笑いかけるユートリアを見て、やっとミオンは安心したようだった。
ランスの後方ではジオがもっと安心していた。
サンの方が先にくじへ向かっていたが、ランスが口を挟んだことでなんとなく順番が入れ替わっていた。
お互い別段気にしなかったので、そのままランスが箱に向かった。
「あぁ待って。ランス君のくじは別だよ。はいこれ」
ユートリアはそういうとランスを制止し、その代わりポケットからカードを取り出した。
「10」と書いてあった。
「くじには番号が振られていて、同じ番号の人が同じチームなんだけど、ほら、このクラス31人いるでしょ?
1つだけ4人班になるんだ。
で、君は魔法が使えないから、4人の班に入ってもらおうと思ってさ。その方が君にも他の人にも色々と都合がいいだろうし」
「そっか、わかった」
とランスは素直にそれを受け取ったが、後ろで見ていたサンが尋ねた。
「……魔法が使えないってどういうこと?」
一瞬間沈黙が流れた。あっとユートリアが小さく声を漏らしたのが聞こえた。
ランスはそれを聞いて、さっきサンとの会話で感じた違和感の正体に気づいた。
名前を聞いて、二言目には大抵魔法が聞かれるこの世界で、さっきサンは魔法を聞いてこなかったのだ。
ランスとしてもどこか身構えていたので、魔法を使えないことが、初対面の時にばれなかったことがむしろ不思議だった。
「言葉の通りだよ。俺は魔法が使えないんだ」
ランスはまっすぐサンを見て答えた。
「へぇ、あれだな。都会には、色んな人がいるんだな」
サンはそう言って、その後特に気にせず、箱に手を突っ込んだ。
ランスは想定外の反応に言葉を失い、後ろで一連のやり取りを見ていたジオが思わず口を挟んだ。
「いや、滅多にいないぞ…………」
「まじ? 俺、出身めっちゃ田舎だからさ。わかんねぇや」
サンはそう言って笑いながら、箱から取り出した封筒をひらひらと振った。




