第25話 初対面
ジオとの決闘の後、2回目の登校日がきた。
昨日のノアの留守番は特に問題なかったので、ランスはまた家を任せ、まだ空が明けきらないうちに家を出た。
3時間かけて学校に到着し、教室の扉を開き、自席へと向かった。
しかしランスは、自分の席のところに、もうすでに1人の生徒が座っているのに気づいた。
少し癖の入った短髪で、頬杖をつきながら砕けた姿勢で、隣に座っているジオに体を向け、親しげに話している様子だった。
ランスが近づくと、まずジオが気づいた。席の持ち主が到着したと、話し相手に伝える素振りをした。
その生徒はくるっと振り返り、ランスと目を合わせた。
「あぁ、わり。椅子借りてた」
そう言って立ち上がり、ランスに席を返した。
それでもランスはすぐ座ろうとせず、目の前の生徒をじっと見つめ、心の中で呟いた。
(…………誰だ?)
ランスは同じ教室の生徒だけではなく、校内ですれ違った生徒の顔も、受験時に視界の端に一瞬映った顔ですら、一度見たら忘れはしない。
それなのに今目の前にいるクラスメイトの顔は、ランスの記憶のどこを辿ってもいなかった。
まるでランスの心の声にに答えるかのように、相手はスッと右手を差し出し笑いかけた。
「俺、サン。よろしく」
よろしく、とランスも右手を差し出し、無意識的に呼応した。
「……悪いけど、同じクラスか? 今までいなかっただろ」
ランスが冷静に尋ねると、サンは一瞬驚いた顔をして固まった。
かと思うと、ジオの方を振り向いて言った。
「やっぱ今日まで一度も学校来れてないの、すぐバレるんだな。もう少し誤魔化しとか効くと思ったんだけど」
「そんなことねぇよ。ランスが特殊なだけだ」
ジオが答えた。
ランスはうまく状況が飲み込めず、問いかけるような目でそのやりとりを見つめていた。
「悪い悪い。俺、入学式当日に熱出して、今まで学校来れてなかったんだ。
そうは言ってもまだ学校始まって1週間も経ってないし、さりげなく『いたけど?』って顔して馴染もうかと思ってたんだけど、さすがに無理だったな」
サンはヘラヘラと笑って、冗談まじりに肩をすくめた。
ランスはそれを聞いて、なるほどな、そう言うことかと、 2つのことに納得した。
1つはランスが彼の顔を知らなかったことと、サンが何の躊躇いもなく笑顔でランスに手を差し出したことだった。
この1週間の間に、魔力測定で不気味な数値を叩き出し、学年首席を決闘でバラバラにし、担任を辞めさせる遠因を作り出したランスに対して、クラスのほとんどの生徒は一定の距離を置いている。
サンは今までずっと空席だったランスの前の席に座り、聞かれてもないのにまた話し始めた。
「だから俺、最初教室の場所もわからなくて、途方に暮れてたんだけど、そしたらジオが声かけてくれたんだ」
「みんなが教室向かっている中で、一人だけ流れに逆らって佇んでたからな。困っているのが見ただけでわかった」
「まじかぁ」
サンはまた呑気そうに笑った。
「えぇっと、名前ランスって言ったっけ。
俺、多分まだわからないこといっぱいあるから、なんかあったら教えてくれ」
「俺にわかることなら」
ランスの返事を聞いてサンは純粋に喜んだ。
「……ランスにわからないことは、みんなわからないんじゃないか?」
ジオはランスの筆記試験の結果を思い浮かべて独り言のように言った。
「てか、このクラスの担任辞めたってマジ? 俺、顔すら見てねぇんだけど」
「……らしいな」
始業時刻が迫り、いつ教師がドアを開けてもおかしくない状況だったが、サンはなお喋り続けた。
ランスは適度に相槌を打ちながらそのとりとめのない話を聞いていたが、未だに1つ違和感が残っていた。




