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第22話 追求

ランスを食事に誘ったユートリアは、じっと返事を待っていた。


ランスはゆっくりと立ち上がると、学長を無視して校舎の方にまっすぐ歩いた。正直あまり関わりたくはなかった。


「え、ちょっと待ってよ。待ってって、ねぇ。待って、待ってください」


呼び止めても止まらないランスに若干困惑しながら、ユートリアは彼の裾をはしっと掴んだ。

その力が思いの外強く、やっとランスは立ち止まった。


「…………何?」


「僕さ、本当に驚いたんだよ。君の強さも、能力も、度胸も全部」


「話があるならまた違う日にしてくれ、飯食ったらすぐ帰りたいんだ」


学長に対するランスのそっけない態度に、ジオが一番ハラハラしていた。

ユートリア本人は微塵も気にせず、呼び止めるために掴んだ裾を逆に引っ張って先導した。


「そんなこと言わないで、僕は色々聞きたいんだ。一緒にご飯食べようよ」


「いやだよ、一人で行くよ」


「そんなこと言わずに、ほら、ジオ君も」


「俺もですか」

 

学長に巻き込まれることに慣れていたジオは、特に不平を言わず着いてきた。

その後もずっとランスは拒否し続けたが、ユートリアは食堂まで勝手についてきた。



「ここのご飯美味しいでしょ。色んな階級の学生が集まるから、シェフも一流の人がやっているんだ」


そう言って笑うユートリアを、ランスはうんざりした目で眺めた。

結局抵抗の甲斐(かい)なく同じテーブルに座らされていた。ジオまで連れてこられていた。

その後も当たり障りない学校の説明が続いたが、ランスはさほど興味もなさそうに相槌を打った。


「でさ、ランス君。君がジオ君との決闘で使った道具の仕組み、どうなっているのか教えて欲しいんだけど」


適当に返事をしていたら、いつの間にか本題に入ったみたいだった。


「魔法じゃなかったよね。何か道具を使ってた。筆記試験の時も、何かの道具で高得点取ったの?」


「いや、試験では何も使ってない」


「あれ? そうなの?」


ランスの返答はユートリアには想定外だったらしい。

一昨日の試合で、ランスには不思議な道具で未知の現象を起こすとわかったから、あのあり得ない筆記試験も、そういった類の道具を使ったと早合点していた。


「じゃあ試験はどうやって受かったの」


「別に、普通に受けたよ」


「ふーん……?」


ユートリアはランスの答えに納得できていなかった。徐にジオの鞄を探り、授業で使う歴史の教科書を取り出した。


「じゃあさ」


と言いながら適当なページをランスに向けた。


ランスが一瞬向けられた本を覗き込むと、次の瞬間パタッと閉じられてしまった。


「今のページ、なんて書いてあった?」


そう言ってユートリアは閉じられたままの本を持って揶揄(からか)うように笑った。


ランスはポカンとしているように静止していて、それまで黙って聞いていたジオが


「ユリア様、さすがにそれは……」


と口を挟んだ。


「だって、これくらい覚えられるようでなきゃ、あの筆記試験は無理なんだもん」


「だからと言って、あの一瞬では何が書いてあるのかも分かりませんよ」


「あはは、まぁ、さすがに冗談だけど」


「………『であり、この時の』」


「え?」


ランスは食事を続けながら、呟くように口を開いた。


「『カリグラリア王家のアンドラにより提唱された貿易協定にアルトバート、バルデラ、ドローリニア、エルレアの4国が同意し』」


「えっと、ちょっと待って」


ユートリアはパラパラと本をめくった。


「『この協定はこれ以後アルトバートの農産に大きな影響を与えた。中でも、名産であるワイン事業の需要が高まった。国酒でもあるルヴァン・ド・セーラは国家の勅命のもと量産体制が敷かれ、これによりリトア川近辺、現プロヴァ地方の一体には、原材料のぶどう畑が10年で13倍にも広がった。また』」


「えぇっと、待って、何ページだったか忘れた」


「46」


「ひぇ」


ランスの即答にユートリアは恐怖すら感じた。

言われた数字のところを開くと、ユートリアはその冒頭に一言一句同じ文言を見つけてしまった。

ジオは本の中を確認していないが、ユートリアの表情で内容が一致していることを察することができて、同じく引いた。

二人の表情が変わりきった後もランスはそのページを(そらん)じていた。


「ランス、もういい、もう、わかったから」


やっとジオが制止したので、ランスは食事を再開した。

顔を上げると、ユートリアが今まで見たことないくらい顔が強張っている。


「なんで仕掛けたお前が引いてんだよ」


「え……だって……いや……ごめん…………」


ユートリアはそれ以上言葉が出てこないようだった。ランスは気にせずパンを口に運んだ。


一瞬場が静まったが、少しずつ事態を飲み込んだ学長は衝撃を興味に変換した。


「君は本当にすごいね。記憶力もとんでもないけど、多分普通に頭も良いんだね。試験結果も納得だよ。

……ジオ君を倒せる道具も、君が考えて作ったんだ」


ユートリアは仕切り直すように初めの話題に戻った。


いつか来ると思っていたその質問に、ランスはまだどう答えれば良いか迷っていた。


「……あんまり他人に言いたくないんだけど」


「じゃあ、僕にだけ教えてよ。内緒にするからさ」


「人の住所教えたやつがそう言っても信じられないだろ」


ユートリアは一瞬何のことかわからなかった様子だが、あぁ、あのことかと思い出したように手を合わせた。


「それはまぁ、ジオ君だし、いいかって。別に迷惑も被らなかったでしょ?」


「そういう話じゃないだろ。情報漏らされて良い気はしない」


「そっか、それは申し訳ないね」


そうは言ったが顔は全く反省しているように見えなかった。ランスが顔を(しか)めたので、ジオが口を開いた。


「俺がだいぶ無理を言ったんだよ。決闘のこと謝りたかったから」


「そもそもこいついなかったら、決闘やってないだろ」


ランスの一言を否定できず、かといって肯定もできずジオは黙ってしまった。


「え? 何のこと?」


ユートリアは何も知らない顔をして、ジオの方を向いて問いかけた。


「……さぁ、俺は自分の意思で決闘申し込みましたよ」


ジオは努めて自然な声を出したが、じっと見つめるユートリアに目を合わせようとしなかった。

ランスはこれ以上この話題を追求するのは無駄だと感じ、最後の一口を食べ終え、席を立とうとした。

ユートリアは手を伸ばして静止した。


「待ってよ、とにかく、ランス君が言って欲しくないなら言わないよ。だから僕には教えてよ」


そう言ってランスの目をじっと見た。納得させてくれないと帰せない、と念を押しているようだった。


「科学の力を使ったんだ」


ランスは少し投げやりな態度で、簡潔に、一言で説明してみた。

その言葉にジオの顔は強張り、ユートリアも少し目を見開いて固まった。

その後しばらく考え込むような素振りを見せて、辺りを見回し、澄んだ目に少し口角だけ上げて言った。


「ねぇ、場所を変えない? ここは人が多すぎる」


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