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第21話 登校

「……じゃあ、俺は学校に行くから。何かあったら連絡くれ」


ノアはこくっと頷いた。

決闘を終え、休日が明けたのでランスは学校に行かなければいけなかった。


さすがにノアも連れていくわけには行かなかったので、一人で留守番をさせる必要があった。

ランスは自分がいない間、この人型機械(アンドロイド)には社会や科学のことを学習してもらうことにし、読む本や出かけて良い範囲を簡単に指定しておいた。

ゆくゆくはランスが学校に行っている間の代理研究を任せたいが、それはまだ先になりそうだった。


ノアは窓に近づいて手を振りながら見送った。人工知能が学習を重ね、昨日ジオと別れた後よりもさらに人間味が増しているように見えた。


ランスは馬車と魔法列車を乗り継ぎ、3時間かけて学校に着いた。


教室のドアを開けた途端、明らかにそれまで騒がしかった教室が一瞬静まり返り、それを誤魔化すようにまた話し声がポツポツと生まれた。

それでもどこかクラス全体がぎこちなく、平然を装いながらも視線の端でランスを追っているのがわかった。


決闘前まではランスへの視線は軽蔑であったり疑念であったり困惑であったり同情であったりしたが、学年主席を打ち負かしてからはそれらが全て畏怖の念にまとまったように思われる。


「……おはよう!」


ランスが自席に向かっていると、どこかから聞こえた。

声のした方に顔を向けると、耳を真っ赤にしたミオンがいた。

思ったより声を張り過ぎてしまったらしく、パッと口を手で覆っていた。


「……おはよう」


ランスも少し驚いていたが、自然な挨拶は返せた。

すれ違いざま、ミオンは声量を落として囁くように言った。


「おととい、決闘勝ったんだね。本当に良かった、びっくりしちゃった。見に行けなくてごめんね」


「いや、良いよ別に。面白いもんでもなかったし」


ランスがそう返すとミオンは、そうなんだ、と言ってえへへと笑った。


授業開始までまだ数分時間があったので、ランスは机に突っ伏した。

なるべく存在感を消して、いるのかいないのかわからないように過ごすのが、自分にもクラスにも良いような気がした。


「……はよ」


自分に語られているとは思わず、ランスは机に伏したままでいた。


「おい、寝てるのか?」


そう言われやっと自分が話しかけられていると気づき、ランスは顔を上げた。そこにいたのはジオだった。


「おはよう……」


ランスはまた驚きながら返事をした。自分に挨拶をする人間がクラスに2人もいるとは思わなかった。


クラスのみんなも、ジオがランスに声をかけるとは思わなかったようで、教室内が少しざわついた。

ジオ当人はそんなこと微塵も気にせず、見事なまでの自然体で会話を続けた。


「ゾフィ先生、学校辞めたらしいぞ」


「は? 何で?」


ジオに語られた内容ががあまりに想定外で、ランスはつい掘り下げてしまった。


「なんか、一身上の都合で」


ジオの声が届いた生徒が驚いて、その内容を近くの生徒に伝え、先ほどとは違うざわめきが波紋のように広がっているのがわかった。

教室の反応を見るに、ジオが最初にこの事実を知ったみたいだった。


「……なんでお前がそれ知ってんだ?」


「そこでユリア様に会って、聞いた」


またそれか、とランスは心の中でつぶやいた。

相変わらず、学長との関係は不気味なほど良好みたいだった。


「……そうか、残念だったな。入学早々担任が辞めるなんて」


ランスは無難な回答を探し、思ってもいないことを他人事(ひとごと)のように言った。

どう考えても原因はランスにあるのだろうが、正直知ったことではなかった。


「別に。俺あの人そんなに好きじゃなかったし」


ジオがそう言うとは思わなかったので、ランスはまた驚いてジオの顔を見た。

落ち着いた表情のジオと目があった。


「……今朝は、あいつら絡んできたりしなかったか?」


「あいつら?」


ランスは一瞬何のことだかわからなかったが、その後のジオの視線の動きから、「あいつら」がノートンとその取り巻きたちだと気づいた。


そういえば今朝から視界に入って来なかった。

ノートンの方に目をやると、教室の端の方でなるべくランスと目を合わせないように背中を丸めていた。


「別に、何もないな」


ランスにとって、さして興味のある話題でもなかった。それで会話は終わった。

 

しばらくすると見慣れない教員が教室に入ってきて、ゾフィ退職の正式な発表をした。


「しばらくは他のクラスや他学年の先生が交代で授業をします。

新しい担任の先生は、目下学長が選定されているので、少しだけ待っていてください」


そう説明してから講義を始めた。午前中は魔法知識や一般教養、数学、魔法実技の授業があったが、全て別の先生が教えた。

座学の授業は退屈で、実技の授業は参加のしようがなかったので、ランスは自由に寝たり読書をしたりしていた。

教員は何も言わなかったので、初めて平和な学校生活が訪れた。


――――――――――――――――――――――――――――――――



「おい、授業終わってるぞ」


ランスはジオの声で目を覚ました。


魔法実技の授業の間、校庭の隅の木陰で見学をしていた。

ここ数日ろくに眠っていなかったため、いつの間にか寝てしまっていた。


終業のチャイムがなり、生徒が各々校舎に帰っていっても起きなかったので、ジオはわざわざ人波から離れてランスの様子を見に来たのだった。

ランスが気づくと、クラスの生徒はほとんどいなくなってしまっていた。


「……寝てた」


「だろうな。今日はもう帰るのか?」


入学して1ヶ月ほどの間、1年生は校内探検や寮父母、寮生同士での交流、サークル見学、学校の外の街探索など、やらなければいけないことが多いため、必須授業は午前で終了する。当然ランスは授業以外やることがないので、もう帰ってしまって構わなかった。


「あぁ、うん、いや……昼飯食って帰る」


すぐ帰ろうか悩んだが、時計を見たらちょうど昼食の時間だった。

家までかなり遠いから、ここで食べないと食べ損ねる。


「お昼食べるの? だったら僕も一緒に行って良い?」


唐突に自分の背後から、3人目の声が聞こえた。

その声に聞き覚えのあったランスは振り向こうとしなかった。ジオもその声を聞いて驚いていた。


ランスが返事をせず黙ったままいると、声の主はランスの前方に周ってかがみ込み、座っていたランスと目を合わせた。


「やぁ、2日ぶりだね。お昼食べるんなら、一緒に食堂行こうよ」


そこにいたのはやはりユートリアだった。友達のように気さくに誘い、ランスの返事を待っていた。

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