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第17話 縁の下

ランスは先ほど少し寝て、だいぶ疲れが取れた。ここ数日休まらなかった心がやっと休まった気がした。


久しぶりに研究がしたいと思い、地下室に降りた。

ここ数日、研究は異様に滞り、ほとんど進められていなかった。それは当然、学校のことでかなりゴタゴタしていたことが理由だが、それだけではなかった。


博士が亡くなった後、研究の速度が極端に遅くなった。


博士の魔法は〈浮遊〉だった。物体を触れずに動かすことができた。

博士の指先から細い糸のようなオーラが出て、それに触れたものは重力を無視し、自由自在に動かせた。


しかし博士の魔法は〈浮遊〉の度を超していた。

本来は物を浮かせるだけのはずだったが、博士はそれを細かく操り、物を浮かせ、組み合わせ、変形させ、混ぜ合わせることができた。


材料さえ用意されれば、どんなに複雑な形の実験器具でも、精密機械でも、博士が設計図を理解できていさえすれば作りだせた。


細かい作業もできるようで、鉱石や溶液から不純物を取り出し、容易に加工・形成した。

魔法の力で化合物の分解までしてしまった時は、流石にやりすぎだと思ったが、


「原子の構造とか、理解したらできた。いやまぁ、俺が天才すぎるんだけどな」


と面白くない冗談混じりに、あっけらかんとやってのけた。


また、大掛かりな作業も難なくやってのけてしまった。

世界中の海底にケーブルを沈めて、人気のないところに通信基地局を作って、地球の裏側から会話ができるか試してみたいと話したら、数日中に全ての準備が整っていた。


新しい機器を生み出すとき、新しい物質の特性を調べるとき、何よりも難しく、時間がかかるのはそれを実現するための道具の加工や物質を取り出す準備だ。

技術的な不可能性が、真理の探究を邪魔することがおおいにあり得る。


しかし博士は、科学と魔法を厳密により分けながら、魔法を科学の発展の強力な推進力にしてしまっていた。

よく博士はランスの学習速度と発想力を誉めたが、博士の魔法を無くしてはこの速度の科学の発展なぞ到底実現し得なかった。


とにかく、そんな博士の魔法の助けを借りており、今の今まで、ランスの思考の速さに周りの設備が追いついていた。滞りなく科学を発展させられた。


しかし今では、精密機械を作るにしても、世界規模の実験をするにしても、必要な物質を用意するにしても、その一つ一つに膨大な時間と労力をかけなければいけなくなっていた。

博士がいなくなって研究のスピードが凄まじく落ちたことは、否応なく認めなければならなかった。


ランスは実験をする材料を作るための、材料を作るための、材料を作るための、材料を作る作業に取り掛かっていた。


すると突然、アラームが鳴り響いた。


ランスがセットしたものではない。

驚いたランスは、その場であちこちを見回した。困惑しながら音源を探すと、大きな本棚に行き着いた。

本棚の奥から聞こえているみたいだったが、本を取り除いても何もなかった。


裏側に何か入り込んでいるのかと思い、棚を動かせるか試そうとしたところ、ある方向にだけスムーズに動かせることが判明した。


動かせるだけ動かしてしまうと、人一人分通れる穴が空いており、アラームの音源であるクマのぬいぐるみが横たわっていた。

ぬいぐるみの手には見覚えのある便箋が縫い付けられていた。表面にわかりやすくこう書いてあった。


『この手紙は、魔法学校への入学可否に関係なく読むこと』


大音量のアラームをなんとか止めると、ランスは穴の奥を見据えた。

こんな空間があったことなんて今まで全く知らなかった。博士が作ったことは確かだろうが、いつから、何のために作られたのか見当もつかなかった。


「なんだここ……」


ランスはぬいぐるみを抱えながら歩みを進め、奥に一つの扉を認めた。

意を決してドアノブを回すと、うっすらと差し込む光に照らされたあらゆる機材と、いくつかの電子機器が見えた。


ランスは生前の博士がコンピューターに大きな関心を抱いていたことを思い出した。

その構想をランスが博士に伝えた時から、ほとんどの時間をコンピューターの研究に没頭し、ことあるごとにランスに質問を浴びせかけ、発展を促し、環境を整えた。

それは当時の科学技術の最高傑作とも言える代物で、博士が理解するには何段階にも思考に革命をもたらさなければいけなかったが、それでも博士は食らいつこうとしていた。

だからこの辺りの発展は他の分野よりも少し進んでいる。


この部屋は確かに博士が死ぬ直前まで使っていた部屋に思われた。

手探りで壁面のスイッチを見つけ、明かりをつけると、ランスは思わず「うわっ」と声を上げた。

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