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第15話 決着

2度も未知なる襲撃を受け、心臓の鼓動すらろくに帰ってきないジオは、それでもなお立ち上がった。

むしろ今の方が、純粋に勝利を渇望する目をしている。


手を前方にかざしたかと思うと、突如目の前を鉄で覆い始めた。

最初に銃弾を防いだ分厚い板ではなく、細い糸で編み込まれた(まゆ)のようだった。


その鉄線の糸の壁は先んじてランスとジオの間を(へだ)てた。

2人の間の石を次々と砕きながら、あまりの速さで形成され、ランスは壁の出現を見守ることしかできなかった。


その壁が4、5メートルほどの高さに達し、完全に2人の領土を二分すると、今度は厚みを増していき、ランスの領域を狭め始めた。


ジオは魔法を使って、全てを切り裂く鉄の糸で、闘技場の中を全て満たしてしまおうと考えていた。

膨大な鉄魔法の強みを活かして、ランスの理解不能な攻撃を丸ごと飲み込んでしまう算段だった。


目の前で形成される鉄の繭をじっと見つめるランスは、(はた)から見たら成すすべなく途方に暮れているように見えた。


先ほどジオの勝利を疑い始めた観客は、また都合良くジオの勝利を確信し出した。

ユートリアはもう何も言わず、ガラスのぎりぎりに(ひたい)をよせ、顛末(てんまつ)を見守っていた。

ずっと学長の後方で、遠慮がちに決闘を見ていた3年首席も、いつの間にかユートリアのすぐ隣で戦いの様子に引き込まれている。


ランスは目の前に現れた鉄の壁の上部を見つめていた。どんどん居場所を失っているのが見てとれた。


戦いの中でランスが移動したことにより、今観客たちは彼の背後に密集している状態になっていた。

そのためほとんどの観客が、ランスと同じ方向から暴力的に迫り来る鉄の壁を眺めた。観客席から見ている生徒ですら、迫り来る壁の圧迫感に思わず呼吸が浅くなった。


だからこそランスの視線が、無慈悲に迫り来る壁ではなく、その上の空に向かっていたことに、誰も気づいていなかった。


次の瞬間ユートリアが見たのは、ランスが(おもむろ)に上着から何かを取り出す姿だった。

目の前に迫る壁なんて視界に入っていないかのように、ゆったりと余裕を持った仕草で、その片手に掴み上げられたものは、何やら灰色の塊だった。

それに何かカチャカチャと細工をしたかと思えば、不意に高く高く放り投げ、鉄の城壁の向こう側に送り込んだ。


ジオのすぐ背後にそれは落ちた。

彼がその存在に気づくか否かの瞬間に、風塵(ふうじん)が舞い、その姿を隠してしまった。



ランスが放ったプラスチック爆弾が爆発した。



ユートリアは最初、窓のガラスがカタカタと震えるのを感じた。

このガラスは特別製で、魔法を無効化する特殊な鉱石が練り込まれ、魔法であれば、どんな衝撃をも吸収してしまうはずだった。


言葉にできない悪寒に襲われ、隣に立っていた3年首席をグイッと後ろに押しのけた。

そんなことをされるとは夢にも思っておらず、その生徒はほぼ無抵抗のまま後方の壁際までよろけた。


突如、地盤を底から(すく)い上げるような轟音が響いた。


かと思えばユートリアの眼前のガラスが、バリンと音を立てて一挙に割れた。

ガラスの破片がユートリアに降りかかり、顔や肩を切り裂いた。


しかし彼はそんな痛みも構わずに、窓枠に張り付いた割れ残りのガラスを蹴散らして、(ふち)に足をかけ、前のめりになって闘技場を見まわした。

砂埃が巻き起こり、何もかもが飲み込まれてしまっていた。


鉄の網目が衝撃を吸収し、ランスへは爆風も爆熱もプラスチック爆弾の破片もほとんど届かなかった。

運良くランスの後方にまとまっていた観客たちにも怪我はなかった。

ただ一部の生徒は爆発音に耳を痛め、手で押さえていた。何が起きたのか誰もわからず、視界が晴れるのを息を呑んで見守っていた。


ユートリアはじっと視線を動かさず、塵芥(ちりあくた)に目を痛めながら闘技場の中を見つめていた。

やっと見つけた粉塵(ふんじん)の切れ目から、ジオの魔法が、サラサラと解かれていくのを見つけた。


「医療班!! 入って! 早く!!」


突然声を張り上げた学長に驚き、やっと教員や生徒も我に帰った。審判が叫び返した。


「しかし、まだ決着がついていません! どちらかの勝ち負けが決まらないと、医療班が入ることは……」


「ジオの負けだ!! 早く宣言しろ! 早く!!」


あまりの剣幕に気圧(けお)され、審判は言われた通りの宣言をした。闘技場全体がざわついた。


ユートリアの判断は正しかった。医療班はまず、ジオの肉片をかき集めなければならなかった。



会場のほとんどの視線がまだ土埃の中のジオを探していた時、ユートリアはランスを見た。


周りの喧騒を気にも留めず、一人でポツンと手元を(いじ)っている。

手中には、最初にジオに傷を与えた拳銃があった。視線を上げ、ユートリアと目を合わすと、ゆっくりと拳銃を持ち上げ、引き金を引いた。


銃弾がユートリアの右側を通過し、後ろの壁を砕いた。

あまりの威力にユートリアは後方をすぐに確認することもできなかった。


「あいつ、今攻撃を……⁉︎」


3年首席が口を開いた。ランスの意図が分からず、魔法で応戦しようとしていた。


「大丈夫、気にしないで」


ユートリアは殺気立った隣の生徒を柔らかい声で制止する。


「彼は教えてくれたんだよ。魔法は使っていないって。ほら、これが飛んで来たんだ」


そう言いながらユートリアは後ろの壁に鉛玉が食い込んでいるのを確認した。

引っ張り出せるか試してみようと思い、手を伸ばした。


「熱っ」


思わず手を引っ込めてしまった。


「……一体何なんだろうね。これだけ見たら、普通の鉄塊みたいだけど」


たくさんの情報に触れすぎたのか、あるいはガラスに裂かれた傷からの出血が思いの(ほか)多いのか、ユートリアは少しくらっとした。


隣の生徒に(うなが)され、傷を塞いでもらうため下に降りた。

ジオの無事を確認してからランスを探した。しかしどこにもおらず、審判に確認すると、「勝ったから帰る」と言って出ていってしまったらしい。

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