第14話 一矢
ランスは拳銃を向けたまま、目の前の相手を静観していた。
ジオが分厚い鉄の盾を作り、銃弾が通らなくなってしまった。
本当は心臓を貫いて試合を終わらせてしまいたかったのだが、地下室で数回試してみただけの拳銃を、寸分違わず当てるのはやはり難しかった。
会場は未だ、生徒たちの的外れな考察があふれていた。
しかしそれらはどれも、ランスの指を離れた鉛玉が、高速でジオを貫いた説明はできなかった。
彼らの魔法の思考ではどう頑張ったって現状は把握できない。ユートリアだけがそのことを直感していた。
「やっぱり、魔法でジオ君の身体を貫こうとしたら、長身の槍が貫いたみたいに『見える』はずだよ。魔法は手から離れないんだ。
ランス君は魔法も使わずあの距離からジオ君に傷をつけたんだ。どうやったんだろ」
「……そんなことがあり得ますか? 魔法を使わず、あの距離から攻撃を仕掛けるなんて、非現実的じゃないですか?」
「現実がそうなっているんだよ」
今だ受け止められない後ろの生徒をよそに、ユートリアは熱心に現実を解そうとしていた。
そうこうしているうちに会場がまたざわついた。
ジオが立ち上がり、目の前の敵を真剣な眼差しで見据えていた。
先ほどまでとは違い、少しの油断も余裕もなく、ただ必要十分な警戒を持って相手に向かっていた。
シャツには手のひらほどの赤いシミが痛々しく広がっていたが、もう出血は止まっているようだった。
「あいつ、立ち上がりましたね」
「《身体魔法》を使ったんだ。彼、得意なんだよ」
身体魔法は自分自身の身体の一部分にかける魔法のことだ。
一般的に、人は自分の魔法で自分が傷つくことはない。親和性があるとされている。
だから自分の皮膚や臓器を自分の魔法に変えてしまっても問題ないのだ。
ジオは腹部から背中にかけて穴が空いていたが、その周りを全て鉄にした。
応急処置にしかならないが、これにより流血と痛みが止まった。
「今の攻撃で仕留められなかったのは、ちょっともったいなかったね。ジオ君も本気で殺りにいくみたいだ」
ユートリアはまた面白そうに笑った。
ジオは左腕を目の前に差し出し、銀色の針葉樹のように鉄を放射させた。
その枝々がジオに重なり、身体を守り、ランスは鉄の剣山の隙間から、ジオの断片を視認することしかできなくなった。
その針がジオに十分覆い被さると、幾本かの枝がレーザー光のように直線に伸び、折れ曲がり、獣のような速さでランスに向かって襲いかかってきた。
ランスがとっさにかわすと、すぐ後ろの壁に勢いよく突き刺さり、石造りの壁を抉った。
魔法の刀身はすぐにたち消え、かと思うと、また新しい刃がいくつもランスを追いかけた。
それは鉄でできた八頭大蛇のように、各々の道でランスを捕食しようとした。
ランスは逃げながら数発ジオを撃った。しかし周りの鉄針が砕けるだけで、銃弾の勢いは殺されてしまった。
「……相手が悪かったでしょうか。他の生徒だったら、腹貫かれた時点で決着がついていたでしょうね」
3年首席は少し気の毒そうに呟いた。
「そうだね。でもランス君は気に入ったな。ジオ君は退学を望んだけど、後でまぁ、どうにかするよ」
ユートリアはもう満足していた。どうやったのかは知らないが、学年首席に一矢報いた。
それだけでもうこの学校に在籍する価値があるだろう。
そう思いながら端へ、端へと追いやられるランスを目で追うと、なぜか手袋をつけていた。
見慣れない素材で異常に大きく不格好だった。そして手にはまた何か持っている。
ランスはついに逃げ場がなくなって、襲いかかる切先を正面から迎えた。
手に持っていたスタンガンを鉄の蛇の頭に勢いよく叩きつけた。
電流の上限を引き上げた特別性のスタンガンから流れた電流は、ジオの魔法を逆走し、電撃となって左腕から身体を駆け巡った。
ジオはうっと呻いてその場に崩れ落ちた。突如として腕から広がる激痛に困惑している暇もなく、吐き気に襲われ、肺が呼吸を拒否するのを感じ、魔法を保つこともできなかった。
電流は心臓にまで干渉して、数瞬の間、脈がもつれた歩みのように壊れかかった。
痛みを解釈することもできないまま、咳き込んでも吸い込めない空気を求めてさらに咳き込み、嗚咽のような声を途切れ途切れに吐き出した。
「……今度は何が起きたの?」
ユートリアの声は疑問だけでなく、困惑や、少しばかりは恐怖も混ざっていた。
ランスが追い込まれたかと思うと、いつの間にかジオが倒れ込んでいた。苦しそうに喘ぐジオは身体の内側から攻撃されているようだった。
しかし、またしても何も見えなかった。
会場はもう静まり返っていた。目の前で起きている展開の読めない戦闘に、誰も頭がついて行っていなかった。




