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第133話 忠義

「まずお前が、お前の落とした物を拾って来い。その後に、俺がお前を拾ってやる」


その時グレンは14歳だったはずだが、年下とは思えない野生の肉食獣のような威圧感に伯爵子息は思わず言葉を詰まらせた。

しかし何とか、本能的な潜在的恐怖を振り払い、


「お前、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? 俺は伯爵の息子で、もうすぐ王族ともお近づきになるんだぞ!?」


と声を戦慄(わなな)かせながら叫んだ。

それでもグレンは表情ひとつ変えず、むしろ先ほどよりずっと苛立ちの色を目に浮かび上がらせて言った。


「だから何だ? 俺は父親とは違う。心から敬意を持てない相手に、忠誠なんか誓わない。

お前に平伏して安住するくらいなら、理不尽な馬鹿1人でも水底に沈めて、首()っ切って死んでやる」


伯爵子息はそこで初めて、戦いの中で命を賭ける覚悟がある者には、将来的な損害や揺るがされる権力を使った脅しが通用しないことを知った。

グレンの剣幕に圧倒された伯爵子息は、何度も池に潜らされ、自分の落としたペンダントを探すまでは上がることができなかった。


その後その息子は、自分に都合の悪い事実を隠しながら律儀に親に泣きついたので、伯爵家は当然のように大抗議した。

しかしグレンが大事(おおごと)にした一連の事件は、伯爵家が声を上げれば上げるほど、事実確認が綿密になされ、本来声が通りにくい下級貴族の証言も集められた。

結局伯爵子息の愚行が王家への報告書にも並べられる結果になっただけで、グレンへのお咎めはそこまで大きなものにならなかった。



 その次の年、ジオは似たような社交の場でまたグレンを見かけた。

よりによってあの時の伯爵子息も参加していて、相変わらず取り巻きたちとつるんでいた。


「そういえば、国立魔法学校の学長、最初は王子か王女の魔力が強い方がなるって話だったから、てっきりフレーシア王女がなると思っていたんだけど……

なぜかユートリア王子がやることになったんだよな。


正直がっかりだわ。弱い方が来るってことだろ? ハズレじゃん。なんで王子なんだか。


まぁ大方(おおかた)、王子がわがまま言って泣きついたんだろうな。王子の方が社交の場とかでは、頑張っているみたいだし?


でもフレーシア王女が良かったなぁ。可愛いし。あと胸でかくね?」


近くに王族がいなかったからか、調子に乗ってそんな軽口を叩いたらしい。

突如、偶然近くにいたグレンが伯爵子息の胸ぐらを掴み、身体が浮くほど持ち上げた。1年前のトラウマが体に染み付いていた伯爵子息は、すぐさま顔面を蒼白させた。


「あぇ!? グレン……さんじゃないですか。どうして……」


「撤回しろ」


1年前よりもさらに押し殺した怒りで言葉に重みをつけながら、グレンが発した。

伯爵子息は、その次の年、グレンも魔法学校に入学するという噂が流れていたことを思い出した。


「いや、あの、グレンさんの悪口を言ってたんじゃないですよ。ただ魔法学校の学長がですね、なんかこう、パッとしない方になるみたいで……


グレンさんも来年、魔法学校に入ると聞きましたが、正直、嫌じゃないですか?」


グレンはその言葉を聞くと、額の血管を浮かび上がらせ、グッと伯爵子息の身体をさらに持ち上げた。伯爵子息は喉が詰まり、うっと小さく唸った。


「いい加減にしろ、お前は自分の言っていることの重大さをわかっていない。ユリア様を判断して良い立場にお前はいない。


俺はユートリア王子に忠誠を誓っている。王子の名誉を守るためなら命だってかける。王子への侮辱は俺への侮辱なんかとは比べ物にならないくらい罪咎(ざいきゅう)が深い。


今すぐ撤回しないなら、殺人罪で極刑言い渡されてでも、反逆者の印をお前の首に焼き入れてやる」


その時のグレンは、周りで見ている部外者も思わず身体を震わせるほど、静かな怒りを表出させていた。

伯爵子息はまたもグレンの剣幕に気圧され、恐怖で身体中の力を失い、締められた喉に力を込め、なんとか謝罪の言葉を絞り出した。


やっとグレンは一度手を離すと、伯爵子息は懸命に息を吸い込んだ後、またしばらく謝罪を繰り返していた。

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