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第132話 野生

ジオは魔法学校に入る前、実は2回ほどグレンを見かけていた。最初は13歳の時、次は14歳の時だった。

どちらも場所は貴族が集まる社交会で、軍人として名を轟かせ始めていたグレンの父親が招待されており、グレンを随伴者させていた。


最初に出会った社交会では、大人たちはお互いの関係性を築くのに必死で、屋敷の中で懸命にお互いの絆を確かめ合っていた。

子どもは少し離れた中庭で、各々遊んだり話し合ったりしていた。


その中に、来年魔法学校に入るという、どこかの伯爵の子息がいた。


ちょうどその次の年に王子・王女が魔法学校の学長になることになっていたので、王族に近づくことができると自慢して回っていた。

そこにいた子どもたちの中にはすでに王族との関わりがある者もいたが、それでも親の力で繋がっているも同然で、自力で近づく伯爵子息は確かに尊敬に値した。


しかしその伯爵家の子息は、(おご)り高ぶって人を見下すところがあった。

その日も自分より劣位な男爵子息を揶揄(からか)うことに楽しみを見出し、その首にかけていたペンダントの

デザインが女々しいと煽り、取り巻きたちと投げ合って遊んだあと、最終的に真冬の池に放り込んだ。


母親の形見だといって顔を青ざめる男爵子息に対し、


「なんだ? 文句あんのか? 俺が将来王族と関わった時、お前の家を王族の目の前でこき下ろしてやろうか?」


と言って取り巻きと一緒に笑った。

その後もコケにする発言を重ねたが、ペンダントが水中に沈んでから、男爵子息は壊れた人形のように何の反応もなく、ただ茫然と池を眺めていた。

伯爵子息は相手の心が折られていると見るや、近くにいたグレンに標的を変えた。


「おい、お前、今度軍人になる奴だろ。この池入って、こいつのペンダント探してこいよ」


グレンは黙って睨みつけた。伯爵子息はニタニタしたまま続けた。


「なんだお前、俺に逆らうのか?

軍人は戦いの中で武勲を上げて、貴族から『騎士』の称号を得るのが、1番の名誉だって父様が言ってたぞ。

言うことを聞かないなら、お前はもう一生騎士として認められないようにしてやろうか?」


グレンはまだ動き出そうとしなかった。伯爵子息はさらに煽った。


「それに俺は、近いうちに王子か王女と会えるんだぞ。

知ってるか? 王子と王女は、軍人としても高い階級にいるんだぞ? 『こいつは貴族の言うことを聞かない、忠誠心のかけらも無い奴だ』って、散々言うこともできるんだぞ?

そしたらお前、軍人としても生きていけなくなるかもな」


グレンはそれを聞いて、伯爵子息の後方の池に向かい、ゆっくりと歩き出した。


「おおそうだ。俺に嫌われたくなければ、黙って言うこと聞いてろ。ギャハハ!」


グレンは伯爵子息と取り巻きたちの嘲笑の間をつき進んで、冷たい風が水面を揺らす冬の池に近づいた。



そして伯爵子息とのすれ違いざま、突如、相手の襟元を掴み、腕を振りかぶり、前方に向かって思い切り放り投げた。


鍛え上げられたグレンの剛腕に持ち上げられた伯爵子息の身体は、一瞬完全に中空を彷徨(さまよ)い、大きな水飛沫と共に落下した。


「何すんだよテメェ!!!」


なんとか水面から顔を出した伯爵子息は、水を吐くため咳き込みながら、息も()()え叫んだ。

震える身体を無理やり動かし、なんとか水辺に上がろうとした。しかしそれをグレンが魔法で防いだ。

伯爵子息は自分の魔法で抵抗したが、難なく相殺された。しばらく魔法の応酬があった後、やっとグレンの方が魔力が高いことに気づいた。


グレンは池の淵から相手を見下ろしたまま、静かに言った。


「まずお前が、お前の落とした物を拾って来い。その後に、俺がお前を拾ってやる」


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