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第131話 厳密

ランスはグレンの説明を聞いた後、何となく思いついたことを聞いた。


「けど、さっきの軍曹の方がいくら経歴長くても、

敬意の向きが階級と逆転していたら、指揮命令系統が混沌として任務に影響出るんじゃないですか?」


グレンはまた何故か一瞬顔を顰めると、すぐ取り直して答えた。


「確かにそうだ。だから、任務中は絶対に階級を厳守する。魔法も功績も年齢も生まれも関係なく、階級が上の者が偉い。

経歴の長さにかこつけて、上の階級に舐めた態度を取ってもいけないし、逆に勝手に功績を讃えて下の階級に(へりくだ)るのも許されない。


ただ、今日は俺、非番だから。任務外の時間まで階級を意識する気はない。

相手に敬意を払うか払わないかは俺が決める。


……さっきの人は、昔から世話になってるんだよ。だから敬意を示した。

俺なりに適切に使い分けているつもりだ」


よく考えれば、確かに任務外にまで階級持ち出されてた職権の濫用がすぎるのかもしれない。

非番なのにユートリアの依頼に巻き込まれている点を除けば、ランスは概ね納得することができた。


ランスは得心したように頷いてグレンの方を見た。しかしグレンは、まだ何か言いたげにこちらを見ていた。


「……ところで」


グレンが今日初めて、自分から話を転回させた。ランスの方を見つめる目は、驚くほど冷めていた。


「お前、ユリア様に敬語使っていないだろ」


今更それを指摘されるとは思っておらず、ランスは一瞬固まった。

確かに本来、誰よりもまず敬うべき相手だが、入学時に相手の要求を真に受けて以来、敬語を使ったことなかった。


「……そうですね」


ランスは一旦肯定してみた。

ランス自身は正直、話し方なんて本当にどうでも良かったが、どうも先ほどからのグレンの態度を見ていると、方向はどうあれ、厳密に敬意を使い分けている印象を受けた。

軍隊上がりの目から見れば、学長かつ王子かつ准将であるユートリアに敬語を使わないのは側から見ても我慢ならないんだろうか、と推察してみた。


ランスがそんな思考を巡らせていると、グレンは(おもむろ)に口を開いた。


「ユリア様に敬語使ってない奴が、なんで俺に敬語なんだよ」


「え」


グレンの言葉は予想外で、周りで聞いていたジオとサンは静かに面食らっていた。

ランスもどう解釈しようかわかりかねたが、すぐ素直に受け取ることにして、


「お前、敬語使われるの嫌なのかよ」


と真面目に尋ねた。

それにしても順応の早いランスに、ジオは重ねて面食らっていたが、グレンはグレンで真剣な顔つきで答えた。


「俺はユリア様より偉くない。ユリア様に敬語を使わずに、俺に使うくらいなら、俺にも使うな」


そっちかよ、とランスは心の中で呟いた。さっきから自分が敬語で話しかけるたびに、顔を顰めていたのはこれかと納得し、同時に想定外すぎて驚いていた。


ユートリアの手によってこの狂犬は、とっくの昔に忠実な軍用犬に仕立て上げられているらしい。

今朝ユートリアの依頼を迷うことなく承ったのも、軍の階級を意識してのことではなく、純度100%の透明な忠義心によるものだったのかもしれない。


隣で聞いていたサンが思わず口を開いた。


「学長への言葉遣いの方は直さなくて良いんすか……??」


グレンは当然のように答えた。


「ユリア様が容認してることに、俺が口出す理由はない。あの人は正しい」


グレンの目は据わっている。ランスはその語り得ない迫力に気圧された。


いずれにしても、ランスにとって言葉遣いなんてどうでも良く、無駄な軋轢を産まないためのオプションにしかすぎないので、逆に軋轢を生むのであれば変えない理由がなかった。素直に「わかった」と返事をすると、グレンはやっと納得した表情をした。


「ええ、ランス良いな。仲良しじゃん」


横で見ていたサンが呑気にそう言った。「そうだな」と適当に返した。


ジオの方はというと、一連のランスとグレンのやり取りに初めのうちは驚いていたが、今はどちらかと言えばどこか「腑に落ちた」と言う顔をしていた。

どうやらジオは、グレンのユートリアへの忠誠心を、ほとんど確信していたみたいだった。



ジオは魔法学校に入る前、実は2回ほどグレンを見かけていた。最初は13歳の時、次は14歳の時だった。

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