第126話 立場
サンがどこかから買ってきた焼き菓子の詰め合わせを手に持って戻ってきた。
後を追うようについて行ったノアが、ちゃっかり自分の分も買ってもらっている。サンがそばにいたジオにを差し出すと、ノアは真似してランスに分けた。
サンは焼き菓子を頬張りながら、呑気に疑問を呈した。
「あの3年生、グレン先輩だっけ。さっきからずっと護衛してくれてるの、大変じゃねぇのかな。学長の頼まれごととはいえさ」
ジオを見ていると忘れがちだが、本来学生が学長の命令をこなす義理はないことを考えると、当然の疑問だった。
ジオはサンから菓子を受け取りながら答えた。
「あの人、軍人でもあるからな。
王国軍は階級によって厳密に序列が決まってて、ユリア様の方が階級が上だから、軍人としてあまり断る気にならないだろうな」
「え、学長も軍人なん?」
サンは驚いて菓子を頬張る手を止めた。
「王国軍は国の組織だから、名目上、1番上の階級である『元帥』は国王が担っている。
そしてユリア様と姉のフレーシア様は、『准将』っていう階級に属している。これは上から5番目だけど、確か、王子・王女のために用意された階級だと思う」
「へえ、ユリア様って色々やってんのな」
サンは思わず驚きを声に出した。
ランスは先ほど、ユートリアからの依頼を承諾する際、グレンが一瞬軍隊式の敬礼をしたように見えたのを思い出した。
つまりグレンからしてみれば、将官クラスの軍人から直接命令されたわけで、そう考えると断ることなんて到底できないのかもしれない。
「まあ、階級だけが理由じゃないと思うけど。ユリア様だからな」
ジオは何かを知っているかのように、付け加えるように言った。どういう意味だ、と問い直す気にはなぜかならなかった。
「でもじゃあ、先輩の階級ってどのくらいなんだ?」
サンが尋ねたが、ジオはグレンを脇目でチラッと見たきり、言葉に詰まってしまった。
本来軍人の階級は、軍服の右腕に付けられた階級章によって判別できる。
しかし今のグレンは改造された学校指定の上着を肩掛けマントのようにして、右肩に羽織ってきている。そのため右腕が隠されており、階級を視認することができなかった。
ジオがわからない様子なのを確認すると、サンが言った。
「じゃ、本人に聞いてみるか」
えっとジオが驚いている間に、サンが焼き菓子を掲げグレンに走り寄った。同じようにノアがついていった。
「先輩食いませんか? これ、めっちゃ美味いっすよ」
グレンは驚いた様子で肩を強張らせ、ずっと前に進めていた歩みを止め、初めて後退った。
遠くから見てもサンとグレンの間にどのようなやり取りがあったのかはわからなかったが、サンから押し付けるように進められている菓子を、グレンが何度も断っているように見えた。しかしサンを真似したノアに同じように差し出されると、一瞬固まった後、観念したように受け取った。
ランスとジオも後方へ向かい、グレンと合流した。




