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第120話 人影

ハーキムは初めはイキイキしていたが、ジオの反応があまりに薄く、どこか物足りなさそうにしていた。

と思えば急にニヤリと笑って、ポケットからぐしゃぐしゃのハンカチを取り出した。


「魔法使わないで勝てるんだったら、俺なら楽勝だろうな」


そういうと脅かすようにハンカチを振り回した。


「こいつを投げつけたら決闘申し込めるんだろ? お前、俺と決闘しろよ。負けたら卒業するまで俺のパシリな」


ギャハハと一通り笑ってから、「いいじゃん」「やれよ」と後ろの2年生たちが煽った。


ジオはハンカチを取り出された時は驚いていたが、一瞬だけ、目に呆れたような色を浮かべ、


「やめておきませんか」


とだけ返した。

その口調には恐れや困惑なんかは微塵もなく、ただ重苦しく、決闘することの重大さを説き、覚悟を確認しているかのようだった。

どこか(たしな)めるような調子があり、決闘したら自分が勝つという自信すら感じられた。


ハーキムはジオの言葉に一瞬確かに怯み、その後誤魔化すように


「はあ? 逃げんじゃねぇよ!」


と言うとジオの胸ぐらを掴んだ。

ランスは流石に口を挟もうかと考えて、前に出ようとした。

しかしちょうどその時、ハーキムたちのさらに後ろに、1人ぶんの人影が増えているのに気づいた。


「あ……」


ランスが気づくと同時に、ジオも気づいたみたいだった。

ハーキムの後方に視線を移し、その人物を認めた。


ハーキムの取り巻きたちは、ランスやジオの目が後方に注目しているのに気づき、1人、また1人と振り返った。


「なぁおい、お前、負けるのが怖くて、決闘受けれないのか? そうだろ」


ハーキムはそういって周りの同調を誘ったが、先ほどと同じように取り巻きが反応しないのに気付いた。

不思議に思って脇目を見ると、全員後ろに気を取られているのにやっと気づき、その視線を追った。


1人の学生が立っていた。胸元には赤と金で縁取られた校章を携えている。


「は……? え…………三年首席の……えっと、グレンさん……?」


ハーキムはその人物に気がつき、思わず名前を呼んでいた。

グレンと呼ばれた学生は、自分に注目が向いているのに気がつくと言った。


「どうした? 続けてくれ。

そこの1年に用事があるんだが、取り込んでいるみたいだから、待ってる」


グレンは淡々とそう語ると、黙ったまま佇立していた。



ランスは目の前の3年首席に覚えがあった。あの決闘の日、ユートリアと一緒に学長用の特別席で試合を見ていた。

胸元に赤と金の縁取りがついた校章を携えながら、他の教員や生徒が感情を顕にして取りみ出していた中で、最後まで推し量るように見届けていた姿が脳裏に残っている。


目の前で起こっていることには何の関心も抱いていない物言いだったが、妙に威圧感があった。

その威圧感は他の生徒より頭一つ分高いグレンの上背に起因しているのかもしれないし、3年首席という立場のせいかもしれないが、最も大きな理由は、羽織った学校指定の上着の隙間から垣間見える、軍服のせいかもしれない。


この国には、自国の平和と独立を守る軍事機関として、「王国軍」が擁立されている。

国王の命令のもと、日々の王国内の治安維持から、国内外の侵略活動からの防衛、災害時の派遣・救助、同盟国相手の平和協力や援助活動に至るまで、あらゆる役割を担っている。

軍人には魔法の実力だけではなく体力・精神力も求められるため、軍に入れば日々過酷な訓練の中で鍛え続けなければいけない。


グレンの父親は王国軍の大将であり、実質的なトップとして軍全体を束ねていた。

そしてグレン自身も、今は特別に学生として魔法学校に通うことを認めれているが、父の後を追い14歳から王国軍に所属している、れっきとした軍人だった。


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