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第12話 決闘

ランスとジオ、双方が向かい合って離れて立った。もう審判が開始を合図すれば決闘が始まる。


ノートンもゾフィも、これから始まる蹂躙(じゅうりん)が待ち遠しく、食い入るように両者を見つめながら、ノートンは取り巻きに、ゾフィは近くの教員に、ランスがいかに身の程知らずかを説いた。


ジオは来た時よりももっと真剣な顔をしていた。

初めから手を抜くつもりはなかったが、今は絶対に負けられない理由ができてしまった。


ランスは重そうな上着を羽織っていた。

何かを持ち込んでいるのだろうが、ほとんどの生徒は対して興味をそそられてなかった。

武器の持ち込みは自由とはいえ、魔法に対してただの道具でできることも限られている。

何を持ち込んだところで、結局魔法の実力が勝敗を分けると決まっている。


「今更武器とか仕込んだところで、ジオ様に勝てるわけねぇのにな。臆病なくせに諦めの悪い奴だ」


とノートンは馬鹿にし、取り巻きの共感を得て(えつ)に浸っていた。


審判は双方が向かい合い、全ての準備が整ったことを確認した。


「始め!!」


試合開始の合図がなされた。


試合開始の合図がなっても、ジオは相手の出方を伺い、動き出そうとしなかった。

一瞬で勝負をつけたところで、ユートリアは満足しないだろうからだ。慎重にランスの動きを目で追い、攻撃を受け止める準備をしていた。


しかしランスはというと、上着から金属製の何かを取り出して、カチャカチャとそれをいじくり回していた。


変わった装飾がなされていて、何やら細々とした部品が付いているようだが、ジオは未だかつてそれを見たことがなかった。

子供の手いたずらを慰める玩具のような印象を受け、ジオは困惑を隠しきれなかった。


その沈黙は客席にも奇妙な空気を送り、一部からは苛立ちの念まで感じられた。

ユートリアもランスの初動を見極めていたが、一体何をしているのか、まるで見当がつかなかった。

ふと、ランスは視線を上げ、手に持つ金属の塊をジオに向けた。


慎重に狙いを定めて、ランスは拳銃の引き金を引いた。



耳を(ろう)する破裂音が一つ、突然ジオの耳に響いた。


と同時に後ろに押し倒されるような感覚を覚え、咄嗟に左足を後ろへ踏み込んだ。

上手く体重が支えられたと思ったら、力んだ腹部に激痛が走った。


見ると、白いシャツに薔薇のような真っ赤なシミが、みるみる広がっていった。


「……今、何した?」


そんな言葉がユートリアの口をついて出た。隣にいる生徒は首を横に振る事しかできなかった。

その場にいた全員が一瞬間息をのみ、闇夜のような静寂が通り過ぎた。かと思えば困惑と驚嘆、疑念が入り混じったざわめきが、客席全体に瞬く間に広がっていった。


「ちょっと待ってください!! 中断しなさい! 魔法道具の事前申請はなかったでしょう!?」


ゾフィが声を荒げて立ち上がり、審判をしていた教員の一人を睨みつけた。

同じく事態を飲み込めていない審判は、自分でも何が何だかわからないまま、かろうじて彼女を(いさ)めた。


「ゾフィさん、落ち着いてください……。あの道具は事前に魔力検知器にかけられましたが、魔法道具ではありませんでしたよ」


「じゃあどうしてあんなに離れているのに、ジオ君が怪我するんですか!? 魔法を使わないと有り得ないでしょう!?」


「それはわかりませんけど、でも……そもそも、一瞬であの距離からあんな怪我をさせられる魔法なんて、聞いたことありません……!」


「そんなこと……!!」


そこまで言って、ゾフィは続く言葉を失った。

魔法は身体から離れては発動できない。それなのに今、ランスは確かに離れた位置からジオを攻撃した。


ざわついた会場の客席でも、誰一人眼前の光景を整理できていなかった。

魔法を使った? 何の魔法だ? そもそもあいつ魔法が使えないんじゃ?


ゾフィの剣幕と客席の困惑、何より説明の付かない現実に気圧され、審判も試合を中断した方が良いのか揺らいだ。


判断を仰ぐようにユートリアを見上げると、それに気づいた彼はガラスに囲まれた部屋の中で、口の動きだけで簡潔に指示した。


「続けて」


ジオは何が起きたのかまるで理解できなかった。ランスが何かを向けたかと思うと、気づいたときにはシャツに赤い染みを携えていた。

強く押さえても血は広がるばかりで、痛みは腹部から背中にまで抜け、何かが身体を貫通したみたいだった。


ランスを見ると、未だ「何か」を自分に向けていて、照準を合わせていた。

咄嗟に目の前に分厚い鉄の盾を作った。


轟音がまた鳴り、盾から衝撃が伝わった。魔法を解除すると、ひしゃげた鉛玉がころんと転がった。


「何か落ちた」

 

窓ガラスに額が付かんばかりに近づいて、ジオを凝視していたユートリアは、その小さな異物を見逃さなかった。

隣にいた生徒は学長の言葉を聞いてからなんとかその存在に気づき、現状を整理しようとすればするほどわからなくなった。


「ジオ君の傷口、何かが貫通しているみたいだ。

今転がっているあれをすごい速さで飛ばして、体を貫いたのかな。それも魔法を使わずに」


ユートリアがそんな非現実的な説明を、いとも簡単に口に出た。


「そんなことあり得ません。魔法を使わずに、あの距離からあんな傷を作るなんて」


「でも、魔法を手から離すことはできないはずだよ。

魔法なら、彼に攻撃する時も繋がっていなくちゃいけない。


あれは魔法じゃない。信じられないけれど」


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