第119話 執拗
「魔法を使わない奴に、どうやったら負けることができるんだ? 教えてくれよ」
ジオが反応すると見るや、2年生は言葉を続けた。
「おいおいハーキム、1年いじめてやるなよ。かわいそうだろ」
と周りの生徒はたしなめたが、その態度は明らかにハーキムと呼ばれた2年生に同調しており、一緒になって嘲笑した。
ジオはほとんどわからないくらい小さくため息をついた後、ランスに視線を向け、面倒になりそうだから、先に帰れ、と目で促した。
入学式の次の日、ランスとジオが決闘をした際、同じクラスの生徒はほとんど見にきたが、違うクラス、違う学年の生徒までは話が届いていなかった。
だからランスと同じクラスの生徒以外は、あの決闘の顛末を風の噂で知るところとなった。
ランスが使った武器や道具はあまりに現世の常識から外れていて、噂として伝わる中で情報はボロボロとこぼれ落ちていった。
その結果、この学校のほとんどの生徒には、「1年の学年首席が、魔法を使ってない奴に負けた」という雑な事実が出回るようになったらしい。
話しかけてきた2年生たちは、決闘を行った2人の新入生の顔を知らない様子だった。
だからランスが例の決闘の勝者だとは、気づいていなかった。
しかしジオの胸元には、青と金に縁取られた校章が光っている。それが2年生たちの目印となり、彼が件の1年首席だとわかったみたいだった。
ハーキムと呼ばれた生徒はポケットに手を入れたままジオに近づき、仲間に向かって言った。
「いやだって、魔法を使ってない奴に、魔法使って負けるなんて有り得なくね? どうやったら負けることができるのか気になるだろ」
ハーキムがそういうと、「確かに」「正論」と2年生たちの間から聞こえてきた。
ジオはランスに先に帰るよう促した後、特に反撃も反論もせず、静かに聞き流していた。
その慣れた態度から察するに、もしかしたらこれが初めてではないのかもしれないと思われた。
何も言ってこないジオに向かって、ハーキムが続けた。
「1年首席ってことは、魔力は5000……もっとか? そんなに高い魔力があるのに、魔法使わない奴に負けるなんて、どんだけ魔法が下手なんだ?」
この学校の2年生の平均魔力は3500程度らしい。ということはハーキム含め、ただ緑に縁取られた校章を持つ彼らは全員、ジオより魔力が低いと思われた。
なぜこんなにもでかい顔するのかと一見不思議だが、自分より魔力が高い下級生に屈辱を感じるからこそ、その下級生が魔力の割に弱いと信じ込むことは楽しいのかもしれない。
ジオが依然として聞き流していたが、上級生たちは相手が魔法で反撃しないのは本当に相手が弱いからだと確信したみたいだった。
ハーキムはさらに調子に乗って、「おい、なんか言えよ」と言いながらジオの肩を小突いた。
魔法の実力を舐めているにしても、公爵家の子息に対して随分思い切ったことをするな、とランスは感じた。
相手の身分をものともしていないのか、単にジオの生まれを知らないのかは判別つかなかった。
ランスはどうこの場を収めるのが最善手か、考えあぐねていた。
自分が足を止めたせいで面倒な絡まれ方をすることになった手前、ジオの配慮に甘んじて先に帰るのは躊躇われた。
しかし下手に口を挟んだり自分が決闘相手だと明かしたりしたところで、無駄に燃料を撒くことになりかねないし、実力行使に出てしまうと後々もっと面倒なことになるのは目に見えていた。
そもそもジオが穏便に済まそうとしている以上、ランスから手を出すわけにもいかない気がした。




