第117話 裏付
ランスは冒頭部分を綺麗に読み飛ばすと、この手紙の本筋を探した。
「――さて、ランスがこの手紙を読んでいるということは、俺の過去について少なからず情報を得たんじゃないかと思う。学長にでも聞いたかな。
この手紙は、『ランスが俺の名前の扱いについて、慎重になったら渡してくれ』とノアに頼んでおいたんだ。
ただ、ノアに依頼するのが結構難しくて、ちょっとふわっとした条件になってしまった。
この手紙では新しい事実の開示をするつもりはなくて、ただランスの聞いたことは本当のことだと裏付ける目的で書いているんだけど、正直ランスがどれくらい詳しく聞いたのかわかっていない。だから色々勘で書いている。
もしかしたら、この手紙でちゃんとランスが知りたい情報を不足なく伝えられないかもしれない。悪しからず」
つまり博士がこの手紙を書いているとき、ランスの知っている情報が「コーサ・アレンダークは6人の英雄の代わりに革命を実行した人物だ」ということだけなのか、もっと深く、裏切り者がいたことまで教えてもらっているのかは、判別ついていないのだ。
確かに、もしランスが入学直後にユートリアに名前を伝えていたら、裏切り者がいた情報までは教わっていなかったかもしれない。多少なり為人がわかっていないと、相手が考え無しに言いふらす馬鹿だったら大問題になる。
そして博士は、相変わらず核心部分は慎重に扱いたいみたいだった。
可能な限り言葉を選び、必要以上の情報開示はしようとしていなかった。
「もう聞いた話だと思うが、俺は60年前に、今の国王たちが革命起こすのを手伝ったことがあって、その後、科学者になった。
本当は、革命後の後処理を色々やらないといけなかったんだけど、俺がガキすぎて逃げた。
そのせいで今の王族が俺の空けた穴を埋める羽目になった。
お前が話を聞いた王族は怒ってなかったかな。キレられていたらまじですまん」
ランスは博士の文字を見て、ユートリアの語る「コーサ・アレンダーク」が博士であると、やっと確信を持って受け止められた。
別に学長の話を疑っていたわけではなかったが、心のどこかでどうしても自分の知る博士とユートリアの描く「コーサ・アレンダーク」が結びつかなかった。決定打が欠けていた。
しかしこの手紙はユートリアの話を、ランスのよく知る博士の言葉で的確に証明していた。
そしてやっぱり、ユートリアが革命の功績を王家が引き継いだことは気にしておらず、それどころか役割押し付けたことを反省しており、やっと受け入れやすい真相がわかった気分だった。
「まあそんなわけで、ランスが知った俺の過去の話は真実だと、思ってくれてたらこの手紙の目的は達成した。
……だが、ランスがどこまで知っているのかわからないけど、手紙がここで終わったら不足を感じるかもしれない。
気にならないなら読み流してもらって構わないけど、もっと明らかにしなきゃいけないことが1つ2つあることに、今のランスは気づいているんだろうか」
裏切り者がいたことを知っているか、と博士に問われている気分だった。
生きた博士が目の前にいたら頷けるのにと、ランスは無意味な歯痒さを覚えた。
「……何をどう書こうか迷うが、1つだけ、俺の目的を伝えておく。
丸く収めたいんだ、何もかも。そのためにランスの協力が必要なんだ」
そこで手紙の本文は終わっていた。
冒頭で触れられていたように、この手紙はランスが行く道に迷わないための道標として綴られていた。
だから決定的に方向性を変えたり指定したりはしなかったが、とりあえず今向いている方角が正しいことが示されたことを、ひとまず了解することにした。
ランスが手紙の最後の折り目を広げると、本文の後に数行残っていた。
「追伸1 ちなみに、ロシュフォール家の初代当主、ステフレッド・ロシュフォールは紛う事なく革命家だった」
ランスが英雄の中の裏切り者について全く知らなかったら、少し座りの悪いけれど博士ならやりかねない蛇足として受け取っていた。
しかし今のランスにとっては、自分が住んでいる国の当主は信頼して良いという意味が読み取れた。割合重要なことだった。
珍しく的確な補足を入れた博士に少し驚きながら、もう少し下の文も目を通した。
「追伸2 もう1つちなみに、前にも書いたが、ノアには俺の魔法をそのまま引き継いでいる。
で、俺魔力測定器でちゃんと測れたことがないんだが、割と強いらしくて、多分その魔力もそのまま引き継いでいる。
ノアは絶対に人を傷つけないよう構想した。
ランスのことだからそう設定してくれていると思うけど、対人相手に制限なく魔法使ったらマジで国滅ぼしかねんから、一応、色々気をつけてな。よろしく⭐︎」
「は……?」
そう言われればそうなのだが、なぜか頭から抜けていた。
そしてこの重大な事実と、それに内在する種々の課題を勢いよくランスに放り投げた博士に面食らった。
ランスの研究が停滞しないようにと博士がノアを遺したことは、当時純粋に感謝していたが、よく考えればだいぶ危険なことなのではないか。
ランスは手紙から視線を逸らし、近くで読み終えるのを待っているノアと目を合わせた。
ノアはランスの視線に気づくと、無垢な目でじっと見つめ返し、コテンと首をかしげた。




