第116話 追加
ユートリアは跳ね上がるようにソファから立ち上がると、いつもの調子で言った。
「君から『コーサ・アレンダーク』の名前を聞いたこと、しばらくの間は、誰にも言わないことにするよ。僕の父さんにもお祖父さんにも。
だからランス君も、なるべく他言無用で頼むね」
「それはいいけど、こんなにペラペラ話してよかったのか?」
今更ランスがそう聞くと、
「仕方ないよ。あの名前出されたんだから」
と当然のように返答した。
そして「あっ」と思い出したように振り返って言った。
「ジオ君も内緒ね。今日のことは」
「……………………はい」
ずっと黙っていたジオはやっと口を開いた。
自室で蚊帳の外にされた上、ついでのようにに国家機密に巻き込まれた困惑と、一応ユートリアの認識の中にいたことに対する安堵が混ざって、一言だけ返事を返すので精一杯みたいだった。
――ジオの部屋を出て、ユートリアと別れ、ランスは家に着いた。
ソファの上でノアが目を瞑っていた。普段は科学の講義をする際、一緒に連れて行くことが多かったが、この日は眠そうだったので連れて行かなかった。
ノアのことも口止めしないとな、とランスは考えていた。ノアを構想したのは博士だから、当然、博士の情報がたくさん読み込まれている。ランスが手を加えていないディスク領域もあり、どのくらいまで何を知っているのかは、正直把握しキレていなかった。
上から覗き込むように身をかがめながら、目の前の少年のようなものをじっと見た。
ランスがだいぶ手を加えたが、今利用できる科学技術では、生命の複雑な代謝を完結させることは到底不可能だった。
ノアが人間のように活動できているのは、博士が残した魔法を主動力として動かしているからに他ならない。
「博士の名前は、今後、誰にも言わないようにな」
スリープモードに入っていたので言語処理はされないと思っていた。なんて声をかけるか、予習するようなつもりでつぶやいただけだった。
しかし不意に、ノアの目がパッと開いた。
そしてランスの言葉が動作の条件としてプログラミングされていたかのように、ノアは立ち上がり、目的が決まっている足取りで自分が発見された地下室に向かった。
ランスは一瞬呆然とした後、ハッとなってノアを追いかけた。
ノアは地下室のガラクタが積み上げられた一角をガラガラと崩したかと思えば、そのうちの一つを取り出して、〈浮遊〉の魔法で一瞬のうちにバラバラにした。
部品が舞うその中心に、1枚の手紙が浮いていた。
ランスが手紙に触れると、ノアは魔法を止めた。部品がガシャンと音を立てて落ち、ランスの手中に手紙だけが残った。
宛先も何も書いていなかった。ランスはその手紙を開いた。
「ランスへ
つい先ほど、意外と言えない早口言葉を見つけたから取り急ぎ共有する。
『赤アボカド青アボカド黄アボカド』
これ、想像の10倍くらい言いづらい。いやまじで、一回言ってみてほしい」
このつまらない書き出しは博士だ。
ランスは冒頭部分を綺麗に読み飛ばすと、この手紙の本筋を探した。




