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第112話 真の歴史

「誰もが知っているこの英雄譚、実は、全部嘘なんだ。

僕のお祖父さんは、確かに帝国相手に立ち向かった。でも勝てなかった。それどころか、無様に負けた」


全てを放り投げるようなユートリアの言葉に、ランスはどう反応して良いのかわからなかった。

発言がばれたら不敬罪で投獄されかねない内容だったが、発言した本人が敬意の対象であったため、さらに困惑させられた。


ユートリアはどこかわざとらしく、物語でも言い聞かせるように続けた。


「9756という魔力は確かに高かったけど、『帝国民』の中には、それくらいの魔力の人間、探せばいくらでもいた。革命を起こすには全然足りなかった。

6人の英雄は開戦直後に返り討ちにあって、敗走もままならず投獄された。


だから本当は、勇敢な英雄としてではなく、帝国の長い歴史の中で一興起こした、愚鈍な狂人として語り継がれるはずだった。


……でも、そうはならなかった。天才未満の英雄もどきが足掻いているのと同じ時期に、本当の天才が、正真正銘の奇跡が生まれていた。

シエル大帝国の崩壊は、その天才の気まぐれで完遂されることになった。革命は結局、たった1人の英雄によって行われた。


この真実はいまや、革命後の国家形成に関わった英雄6人とその後継者しか知らない。

たった1人の英雄の名前、コーサ・アレンダークも、各国の王族にしか伝えられていない」


ランスは自分の認識とあまりにかけ離れた種々の物語に耳を疑った。到底その内容が信じられなかった。


「……おい、冗談だろ」


ようやくランスの口をついたのはそんな言葉だった。


「冗談か、それも良いね。話半分に聞いてよ」


ランスの疑義(ぎぎ)なんてものともせず、ユートリアは言った。

その言葉がかえって、語られたことが真実であると訴えているように聞こえた。


「本当は、先代国王に国を造る資格なんてないんだよ。本当の英雄が一つの国を造るべきだった。


……けど、どういうわけか、シエル大帝国を滅ぼし、真の英雄になるはずだったコーサ・アレンダークは、その後、ぱたりと消息を絶った。

60年前の革命の後、一切姿を現さず、強い魔力を評価されることもなく、消えてしまった。


0から国家を造り直すには、みんなを引っ張る主導者が必要だった。だからその根拠となるように、お祖父さんは英雄を装った」


ユートリアの話を聞いた時、ランスは一つ思い出した。博士が科学者になったのも、60年前だと言っていた。

彼の話が真実だとしたら、ランスのよく知る博士、もといコーサ・アレンダークは、シエル大帝国を滅ぼした後、すぐ科学者になった。

そのままランスに出会い、亡くなるまで、社会の表舞台に現れることなくひっそりと過ごしていた。

確かに時間の流れとして矛盾はないが、それでもランスには一つ看過できないことがあった。


「いや待て、仮にそれが本当だとしたら、博士…………コーサ・アレンダークは、10歳で帝国滅ぼしたことになる」


そんなこと、さすがにありえないだろ、とランスが続けるより先に、ユートリアが口を開いた。


「そうだよ。彼は10歳で大帝国を崩壊させた。お祖父さんから話が伝わっている話によるとね」


ランスが絶句していると、ユートリアはさらに説明を加えた。


「革命を起こした時、お祖父さんは20歳で、魔力が5000を超えてからは、『帝国民』にばれないように各地を転々として暮らしていた。

信頼できる仲間を連れて、それぞれの場所で圧政に苦しむ人々を励ますこともあった。


その中に1人に10歳くらいの少年がいた。

魔力測定器で10以上を記録したことがないとかで、年齢を考えても低すぎる値で、そこの労働区で働いていた人たちの中でも孤立していて、お祖父さんは思わず声をかけた。

革命を目論んでいること、そのための準備をしていることを(ほの)めかして、希望を説いた。今思えば、可笑しいくらいに烏滸(おこ)がましいことだったんだけど」


そこまで語ると、ユートリアは突然自分の右手を見つめた。ゆらっと彼の〈火〉の魔法が点いた。


「……人の魔力は、10000以上にはならないと言われている。

どんなに魔力の成長している人でも、10000を超える前にピタッと止まる。その後はどんなに足掻いたって、結局は徒労に終わる。

世界中どころか、歴史をどんなに遡ったところで、魔力が10000を超えた人の記録は出てこない。


……だからみんな知らなかった。

魔力10000を超える人間は、世界中の人が束になったって敵わないくらい強大な力を持っていること。その力は、人間がどう足掻いても超えられない境界の向こう側、思わず神と呼んでしまうほど超人間的な存在に匹敵するくらいの力になること。


そして同じく、魔力測定器では10000以上の数字は出てこないことも知らなかった。

魔力が10000を超える人が生まれてしまったら、数値上は下4桁しか出てこなくて、異常に低い数値が検出されることも知らなかった。


……確かに当時のコーサ・アレンダークは10歳だったけど、神の一世一代の気まぐれとも呼べるこの奇跡に、もはや年齢なんて関係なくて、当時の彼は、きっと、確かに、魔力10000を超えていた」


ユートリアはグッと拳を握った。〈火〉の魔法がふっと消えた。


「お祖父さんは革命は成し得なかったけど、唯一の功績はこの時コーサ・アレンダークに声をかけたことだった。

当時10歳の少年は、この話を聞いて、本当に多分気まぐれで、手伝いに行ったんだと思う。


そしたら想像以上に革命家たちが何の役にも立っていなかったから、ほぼ自分1人で終わらせてしまった。

結局のところこれが、王族(ぼく)たちに伝わっている本当の歴史なんだよ」

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