第111話 真実
「国家機密なんだ。その名前は。この国では、王族以外知らない」
ランスは訳がわからなかった。
自分のよく知るあの博士の名前は、いつも適当で飄々としていて、国家機密なんかとは無縁の人だった。
だからユートリアの言葉を、とてもじゃないが信じられなかった。
「どう言うことだよ。お前この名前知ってんのか?」
「どこで聞いたの? その名前は」
事実を急くあまり、ランスの発言が頭に入って来ないのか、ユートリアは質問を質問で返した。
ランスはまず答えないと取り入れてもらえないと諦めた。
「どこって、本人が名乗ったんだよ」
「本人が……?」
その意味をユートリアが理解するのに数瞬間かかった。次いでランスの肩を握る力を一層強めた。
「その人は⁉︎ 今どこにいるの!」
ユートリアの表情がさらに険しくなった。
ランスは冷静に答えた。
「死んだ」
「え?」
「死んだ。俺が入学する1ヶ月くらい前に。この名前は、先代の科学者の名前なんだよ」
ランスの言葉を聞いたユートリアの顔からは、何か特定の感情を読み取れなかった。
困惑しているようにも見え、呆然としているようにも見え、悲観しているようにも見え、なぜかどこか、安心しているようにも見えた。
「そう……」
ユートリアは両手の力を抜いた。ランスの両肩に血が巡り、じんわり温かくなっていくのを感じた。思っていたよりも強い力で押さえつけられていたみたいだった。
ユートリアはどこか安定しない足取りで部屋の真ん中に戻り、ソファに腰を下ろした。
ランスは質問を続けようにも、まず何と言って言葉をかければ良いのかわからなかった。ジオに至っては、自分の部屋なのに所在なさげに立ち尽くしている。
「……この国の建国史は習ったでしょう?」
ユートリアが顔を伏せながらまた唐突に口を開いた。ついこの間、ヨルクの授業でやったところだ。ランスが頷くと、ユートリアは続けた。
「昔、シエル大帝国という大きな国があって、高魔力者による、強固な支配体制が敷かれていた。
その国で、魔力の低い人間はほとんど人間扱いされていなかった。その体制を崩すために、6人の英雄が現れて、革命を起こし、帝国を滅ぼした。
そして6人の英雄それぞれで新しい国を作った」
今更繰り返すまでもないくらい、この国では誰もが知っている事実だった。だからこそ、ユートリアがこう語ることには何かの意図があった。
「その英雄の中の1人が、このサフィール王国の初代国王である、ステフレッド・ロシュフォール。
自分も魔力の才に恵まれながら、すべての人が平等な世界を作るため、強大な帝国相手に、仲間と共に勇敢に立ち向かい、勝利を手にした。
その功績はいまや多くの人に讃えられ、人は彼を英雄と呼んで、賞賛することを惜しまない」
自分の血のつながった祖父だというのに、ユートリアはどこか他人行儀に言った。
褒め称えている言葉の内容とは裏腹に、なぜか敬いの感情など一切感じられない口調で、むしろどこか嘲笑するようなところまであった。
その理由はすぐにわかった。ユートリアは少し顔を上げると、前髪の隙間からランスと目を合わせた。
「誰もが知っているこの英雄譚、実は、全部嘘なんだ。
僕のお祖父さんは、確かに帝国相手に立ち向かった。でも勝てなかった。それどころか、無様に負けた」




