第110話 一転
「あれ、今何時?」
突然サンがパッと顔を上げた。時計を見ると18時半に近かった。
同時にミオンも時刻を確認して、
「あ、もうこんな時間。帰らなきゃ」
と言った。
この学校では朝、昼は学食で食事を取ることが可能だが、夜は施設が閉まっていた。
だから夕食は各自で用意することになるが、サンとミオンを含め大体の生徒は自分が暮らす寮の寮父、寮母に作ってもらうらしい。
2人とも、夕食の時間は基本的に夜の7時だということで、いつもそれに間に合う時間に帰っていた。
「じゃあ俺帰るわ。また明日な」
そういうとまず家の遠いサンが部屋を出た。
ミオンはランスに今日の内容の質問を少しだけして、その後すぐ扉に手をかけた。
「ランス君、帰る?」
ミオンは扉を開ける前に確認した。
ランスもユートリアも、2人の退出に合わせて帰ることが多かった。
今日もそろそろ帰ろうかと、ランスはユートリアを見やったが、なぜかこのタイミングでまた科学者の本に見入っている。
「あいつ待って行くよ」
とランスがいうと、「わかった、じゃあね」と手を振ってミオンは帰った。
部屋にランスとジオ、ユートリアの3人だけになった。
ランスがそれとなく荷物をまとめていると、ユートリアがすっと立ち上がった。真っ直ぐ扉へと向かい、手をかけた。
不思議なくらいに静かだったが、帰る気になったかと思い、特に気にかけず自分の荷物をとりあげた。
ガチャ、と重厚な音が響いた。
ランスが目を上げると、ユートリアが扉に錠をかけていた。
「……ユリア様?」
奇妙なユートリアの動きに、ジオが思わず声をかけた。
しかしその声がまるで届いていないかのように、扉に顔を向けたままユートリアが言葉を発した。
「どこで聞いた?」
知らない声音にランスは一瞬たじろいだ。
「……は?」
「さっきの名前、どこで聞いたの?」
少し間を置いて、ユートリアの聞かんとすることを解した。
さっき伝えた名前。コーサ・アレンダーク。
「……別に、どこだって良いだろ」
ユートリアの真意が窺えず、ランスが流すようにそう言うと、ユートリアの声は一層低くなった。
「よくない。大問題だよ」
その口調に冗談を言う意図は一切感じられなかった。
ユートリアは顔を伏せたまま向き直り、真っ直ぐランスに近づいて両手でガッと肩を掴んだ。
今まで見たこともないくらい険しい表情をしていた。
「国家機密なんだ。その名前は。この国では、王族以外知らない」




