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第101話 就任

ランスたちが第4図書室に赴いた翌日、ヨルクは何事もなかったように、ごく自然な様子で講義を進めた。

昨日語ったような種々の体調不良は微塵も感じさせなかった。


相変わらず説明はわかりやすく、質問にも誠意を持って対応していたので、生徒からの信頼は増していった。

休み時間にサンが絡みに行った時も、昨日の講義と全く印象が変わらなかった。

別の生徒に突然差し出されたスナック菓子を、ヨルクはなんの躊躇いもなくひょいっと口に放り込んだので、側から見ていたサンの方が少しどきりとさせられた。


「先生、普通に元気そうだな。体調不良治ったのか?」


サンは自席に戻り、ランスとジオに対して言った。


「そんなわけないと思うけどな。

皮膚の炎症は治療されてたとしても、内臓も傷ついているはずだから、あの症状が1日そこらで治ることはない」


ランスは冷静に言った。

症状を緩和させる措置はいくつか講じたが、結局は時間が経って有害物質が抜けるのを待つしかなかった。

状況が状況なので、昨日ユートリアに


「担任やっぱ降りていいよ。1年くらいは療養に専念した方がいいんじゃない?」


と提案されていたが、


ヨルクは「一度引き受けたことなので」と言ってまた教壇に立った。


ランスの話を聞いて、ジオは心配の混ざった視線をヨルクに向けた。

ヨルクはそれに気づいて、何も問題ないとでも言いたげに左手をひらひらと振って答えた。

そして生徒からの質問が落ち着いた後、ランスたちの方に寄って来た。


「昨日はありがとな。最近日に日に体調悪くなってたんだけど、今日はそんなことなかったよ」


そう言ってニコッと笑う姿は、本当に元気そうに見えた。それが演技なら恐ろしいほどだった。

ランスの少し訝しむ表情に気づいているのかいないのか、自然な流れであの古書のことに話を移した。


「結局あの本、もう誰も触らないように布で何重にも包んでぐるぐる巻きにして、鍵かけた箱に入れて注意書きを付して保管庫にしまうことになった。

あと、これは学長がやってくれてるみたいなんだけど、同じ顔料が使われている本がないか国内の図書館に呼びかけて、見つけたら順次対応を進めているって。


……まあ、すごく珍しくて綺麗な表紙だから、現存するものほとんどないかもしれないけどな。

凝ってる表紙であればあるほど、あの時代の本って一目でわかるから、焚書の流れがきた時に燃やされやすくなるんだよな」


ヨルクは少し残念そうにそう言った。相変わらず、古書に主体を乗っ取られたかのような話し方だった。


そんなやり取りをしていると、ランスはどこかから視線を感じた。

ふと横を見ると、じっとヨルクを見つめ続けるミオンがいた。

特に話しかけるでもなく、顔を逸らすでもなく静止していて、ただ透明な瞳の光沢だけがチラチラと動いていた。


「……ミオン、どうした? 質問か?」


静かに目を向けるミオンに向かって、ヨルクが言葉を発した。


「お姉ちゃ……アンナ先生が、『ヨルク先生が無理してないか見張りなさい』って言ってたんです」


そういうと無垢な視線をヨルクに注ぎ続けた。

ミオンの意図を了解したヨルクは、少し困った顔で笑いながら、「元気だよ、ほら」と言ってまた左手をひらひらと振った。


色々あったが、それ以降少なくとも症状が悪化していないのは本当らしい。

この新しい担任は、普通に自分の業務を全うし、生徒からも受け入れられつつあった。

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