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第49話 休みになったらデート


 横浜腐界での救助活動の合間に、倫子ちゃんに電話することにした。個室は一応防音仕様になっているので、多少の声なら迷惑をかけることもないだろう。


「もしもし。霞先輩ですか?」

「久しぶり! 元気にしてた?」

「はい。元気にやってます

『スフィもだよ』


 俺を追いやって、スフィが画面の中央に陣取った。俺もだけどスフィも寂しかったろうから、ここは許してやろう。


『スフィね、がんばったよ。幽霊びよ~んてきて伸びてきたの捕まえたの』

「そうなんだ。スフィやったね」


 倫子ちゃんはスフィに笑顔を向けていたけど、一瞬だけ困惑していたようにも見える。倫子ちゃんもスフィの強さは感じていても、実際に戦うとなったら不安になったんだろう。実際にはゾウが蟻で遊んでいるような感じなんだが。


「スフィが追いかけて幽霊を疲れさせて、最後は俺が除霊したんだ。二人のコンビネーションだよ。なっ?」

『そだよ。カスミとスフィの合体技だよ』


「そうなんだ。良かったね。それで二人とも、疲れてませんか? 今はそっちで寝泊まりしてるんですよね?」


「ああ、うん。そうだね。でも俺たちは楽な方だから不満は言えないよ。それに一人じゃなくてスフィと一緒だし。他の人と比べたらストレスは少ないと思う。忙しいけど、今はこうして電話する余裕もできてるから。倫子ちゃんの方は何か変わったことあった?」

「う~ん、そうですね。霞先輩とスフィに会えなくて寂しいくらいですよ」


 俺の恋人はなんて気が利くんだ。一緒にいられないのに、心のケアまでしてくれるとは。


「あっ、響ちゃんと二人でクラスの子に声掛けして、霞先輩と同じ講義を受けてる子見つけたんですよ。ノートをコピーさせてもらえるようにお願いしておきました」

「ありがとう。助かるよ」


 やばい。講義のことなんかすっかり忘れてた。全然勉強してないや。これじゃあスフィに偉そうに言えないぞ。倫子ちゃんがそばにいない今、もっと俺がお手本を示さねば。


「それで、そっちの様子はどう? 一応ニュースは見てるんだけど、そんなに見れてないんだよね」


 休憩時間はスフィと一緒にアニメ見ることが多いので、あんまりニュースは見れてない。


「そうですね。今のところ私たちの周りでは幽霊が出てきてませんね。というより、見なさ過ぎなんです」


「どういうこと?」


「実は今までちょくちょく近所で見かけてたんですよ。霊力が強くないっていうんですか。あまり害のなさそうな幽霊が。その子たちが一斉にいなくなってしまいまして。今、霊能力者の方って、皆さん腐界に行ってるじゃないですか。だったら誰が除霊してるのかなぁって、ちょっとだけ疑問だったんです」


「全員が腐界に行ったわけじゃないから、可能性はなくはないけど……」


 でも、今の状況で街中の除霊する霊能力者なんているのかな。テレビ局とかは確保してると思うけど、地域を護る霊能力者なんてほとんどいないと思う。ひょっとして学生とか次世代の霊能力者たちが頑張ってたりして。


「あっ、すみません。問題があるわけじゃないんで大丈夫ですよ。それより今日のニュースでやってたんですけど、日本各地から横浜腐界に向けて助っ人が集まるらしいんです。霞先輩も働きづめですし、ひょっとしたらお休み貰えるかもしれませんよ」


「それは嬉しいなぁ」


 労働基準法なんて、腐界の中ではあってないようなものだ。深刻な人数不足で、ゆっくり休んでいる暇がない。それが緩和されるなら、嬉しい事この上なし。


『スフィ、映画見たい』


 そういや、もう夏休みだもんな。新作アニメが放映してるはずだ。


「でも、映画館ってたくさんの人いるけど大丈夫?」


 そう聞くと、スフィはちょっと困った様子になる。そこがクリアできないと映画は無理だろう。助け船を出してくれたのは倫子ちゃんだった。


「大丈夫だよ。今は個室で見れるところもあるらしいから。ただ……」


 倫子ちゃんが言い淀んだ。その分割増料金になるってことだろう。でも最近は食費とか節約できたし、働きづめだったからな。よし。パパ頑張っちゃうぞ。


「こっちだとあんまりお金使わないから大丈夫だよ。大した金額にはならないだろうしね。よし。それじゃあ、今度休みができたら三人で出かけよう」

「はい。それじゃあお休みが決まり次第連絡ください。こっちで色々調べておくので」

「うん。よろしくね」

『ん。りんことデート楽しみ』

「うん。私もだよ。それじゃあ霞先輩、スフィ、またね」

『ばいばい』


 倫子ちゃんとの通話を終えてスフィと向き合う。スフィは心底嬉しそうだった。


『りんこ、良かったね』


 これはアレか?

 倫子ちゃんが一人でかわいそうモードか?


「俺も嬉しいぞ。スフィだってそうだろ?」

『スフィ、たのしみだよ』


 うん、そうだな。せっかくの外出なんだし他にもいろいろ行ってみようか。食事とかは個室がいいけど、人込みにも徐々に慣れる必要があるだろうし。


「映画のあとでカラオケ行くのどうかな?」

『カラオケ知ってるよ。歌うところ』


「そう。一緒に歌うのも楽しそうだよな」

『スフィ、カラオケ行ったことない』


 ちょっとだけ不安そうな表情になっている。スフィは色々チャレンジするけど、初めてのことを全部上手くこなせてるわけじゃない。それでも、チャレンジするのがスフィのいいところだ。


「大丈夫大丈夫。一緒に行くのが俺と倫子ちゃんだから恥ずかしくないだろ? というか、俺だってカラオケに行ったことないぞ」


 俺がそういった直後、スフィはニンマリして腰に手を当て胸を張る。


『カスミ。スフィがおてほん見せてあげるよ』

「お姉さんだから?」

『ん』

「そっか、よろしく頼むね」


 う~ん。どうやら俺はスフィの扱い方を分かってしまったようだ。お姉さんだからと言っておけば、とりあえずチャレンジしてくれそうな、そんな感じ。なんか、これはこれで罪悪感がやばい。とはいえ、世のパパさんママさんだって子供をおだてて木を登らせているはず。本人が気にしないうちは問題ないと割り切ってしまおう。


 映画の後はカラオケ行って、そしたらどっかで飯食うか。時間帯にもよるけど、個室なら、予約しておいた方がいいかもな。


 でも休みがもらえたら、まずは自宅に洋服を取りに戻りたい。俺と倫子ちゃんの初めてのデートになるんだから。それともデート用に買いに行くか?


 本当なら倫子ちゃんのアパートに除霊した四月の時点でデートするはずだった。それから四か月以上が経過している。長かった。だが、無為に過ごしたわけではない。二人の想いは通じ、恋人としてデートすることになったのだ。隔世の感ってやつだ。


『カスミもカラオケ楽しみ?』

「そう見える?」


『カスミ、すぐ顔にでる』

「そっかぁ。俺のことよく見てるなぁ」


『スフィ、カスミのこと、たくさん知ってるよ』

「俺と一緒だな」

『スフィ楽しいと、カスミうれしそう』


 そうなんだ。俺はロリコンではないが、スフィが喜んでいるのを見るのが好きになっている。これが子育ての喜びというものなのか。初めは倫子ちゃんと家族になるためにって考えてたのに、どうやら変わったのはスフィだけじゃないようだ。


 思わず頭をなでなでしてしまう。スフィはそれを嫌がらず、逆に頭を寄せてきた。

 いい子に成長したなぁ。


 その時、何かに気づいたのか、スフィがどこか遠くを見始めた。


「どうした? 何か見つけた?」

『ん~ん。気のせい?』

「そっか」


 スフィには全く霊感能力がないから、遠くの幽霊を感じることはできない。目で見える範囲だけしか分からない。そのはずなんだ。でも、何かを気にしてるのは確かだった。


 スフィが見つめていたのは、二層三層へとルートを照らす照明と同じ方向。

 アニマムンディへと続く道だった。

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