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第47話 たどり着いた答え


「先輩。その年で認知症ですか?」

「違う。ちょっと待ってて。ちゃんと思い出すから」


 そうだ。アニマムンディだ。

 腐界じゃなくてアニマムンディなんだ。

 そこを中心に考えればよかったんだよ。


「どうやら俺たちはゲートについて多大な勘違いをしていたみたいなんだ」

「私たちはそこまで深く考察していたわけじゃないですけどね」


 久坂がいちいちツッコミをいれてくる。コイツはきっとお笑い芸人でもめざしているんだ。そういうことにしておこう。


「まずゲートの発生について。これまでは自然にもやもやが発生していた。でも最近では前兆として二人の時のように直前に大きな雷のような音が鳴っている。これはいいよね?」


 みんなが揃って頷いている。なぜかスフィも一緒になっているが、本当に理解しているんだろうか。まあいいだろう。


「でも実際に光は目撃されてないよね? 音だけで」


「そういえばそうですね」

「その直後に腐界に吸い込まれたにしても、目撃談がないのはちょっと怪しいね」


「だからそれは雷じゃなくて、神鳴りだったんじゃないかって。神様が鳴くほうの」


「それは言い方の問題じゃなくてってことですよね?」


「そう。霊能力者の間では昔から言われてたんだ。強い恨みを持ったまま亡くなった人物の魂がアニマムンディにたどり着くと神鳴りが発生するって。聞いたことあるかな。平安時代の――」


 そこまで発した瞬間、倫子ちゃんと塔子先輩の口が同時に開いた。


「清涼殿落雷事件?」

「菅原道真ですよね?」


 塔子先輩は流石だし、倫子ちゃんも俺と同じで史学を学んでいるだけのことはある。久坂くんには難しかったようだ。スフィにはあとできちんと説明しておいてあげよう。


「アニマムンディに集まった魂が膨大なエネルギーの源になって、それが道真の恨みの影響を受けて神鳴りになった。そして恨みを買っていた藤原氏とかが被害に遭ったと伝えられているんだ」


「でも、その当時って資料には雲が出てたって書いてあったよ?」

「別に雲はあってもなくてもいいんです。同時でもいいんですから。問題は神鳴りによって清涼殿の周囲で多くの魂や精霊が失われたってことです。それは間違いないと思います」


 二人のアパートの室外機みたいにね。


「その結果、何が起こったか。多くの妖怪の誕生です。妖怪ってのは普通の人や動物に異形の魂が憑りついて変態した生き物です。神鳴りの影響によって死なないまでも魂が欠けてしまった人間や動物が、異形の幽霊に憑りつかれてしまったんでしょう。その後に妖怪退治とかで有名になった人物がいますよね?」


「それなら私も知ってます。安倍晴明ですよね」

「そう。陰陽道のね」


「妖怪退治とか眉唾ものだったけど、幽霊が生活の一部になった今となっては本当でも不思議はないよね」

「はい。もしかしたら大江山の酒呑童子もその影響かもしれません」


「それで結局は何が言いたいんです?」


 きっちり理解してもらおうと、ちょっと遠回りしすぎたか。塔子先輩なら喜んで話に食いついてくれるんだけど、普通はそんなものなんだ。仕方ない。


「つまり、今回ゲートが開きまくってるのはアニマムンディに異変が起きてるんじゃないかってことなんだ。ゲートが開いてる場所はまちまちだから、誰かの恨みとかじゃない気がするんだけど」


 ちらりとスフィの様子を見た。スフィと倫子ちゃんは俺の話を聞きながら、あやとりを開始していた。その様子におかしなとこはない。


 俺の頭の中では、話しながら疑問が浮かんできていた。


 スフィと腐界で出会った直後からしばらくの間、ゲートの出現がなかった。アニマムンディの膨大なエネルギーがスフィの器に送られた結果だったとしたら、ゲートが発生しなくなったのは当然のことだ。


 その結果として、世界は安定していたと考えられる。それはきっと六道さんの思惑通りなんだろう。


 逆に言えば、現在のアニマムンディは安定していないということになる。だからこそ、神鳴りとしてエネルギーを放出してゲートが開いている。


 二人の室外機が精霊を失ったのは、強力な幽霊とか精霊とぶつかったせいじゃない。神鳴りによるピンポイント攻撃だったんだ。スフィの力よりは弱いだろうけど、そりゃきれいさっぱり精霊がいなくなってるはずだ。


 では何故アニマムンディが神鳴りを発生させる必要があったのか。理由はいろいろあるだろうけど、恐らく送られてくる魂が多すぎて、アニマムンディの輪廻転生プログラムの処理が追い付いていないからだ。人類の増加などによって魂が増えた結果、パンクしてしまったということだろう。だから、どこかにエネルギーを放出する必要があった。


 イタコの修業もしていた六道さんは、アニマムンディにアクセスできる。だから、その状態を知っていたんだろう。そして正常に戻すために、余分なエネルギーを神鳴りじゃない形で放出した。それがスフィとなって俺の前に現れた。


 スフィがいきなり俺に懐いたこととかまだ疑問はあるけど、なんか一本の線になったぞ。


 ……なんてこった。


 俺は今まで六道さんの手のひらで踊らされていたんだ。


 そのおかげでスフィと一緒にいるわけだし、倫子ちゃんと恋人になれたと言っていいけど、どうにも釈然としない。いや、別に文句があるとかじゃなくて、ショックを受けたとかでもなくて、ただ疲れた感じだ。


 でも、この考えを誰かに相談することはできない。今の説明を理解してもらおうとしたら、スフィの正体も分かってしまうだろうから。


 スフィは既に一人の女の子として自我を持っている。これまでの会話から、自分がアニマムンディ出身だということは理解してるかもしれないけど、普通にどこかで死んだ魂だと思ってる可能性もある。


 あなたの魂は別人の魂の集合体です、と言われても困惑するだけだろう。もしかしたら、聞いてもけろんとしてるかもしれないけど、スフィが傷つく可能性が1%でもあるのなら、そういったリスクを負いたくない。


『カスミ?』

「どうしたんですか? うんうん唸って」

「話してるうちに言いたいことを忘れちゃったんでしょ。途中からは倫子とデートできな~い、とか考えてたりして」


 久坂のヤツめ。俺のことをそんな風に見ていたとは。

 だが、余計なことを言わないようにするためなら、久坂の案に乗るのも悪くない。


「そうだよ。倫子ちゃんとデートしたいと思ってたんだよ。だってまだ一回もしたことないんだぞ」

「すればいいじゃん。付き合ってるんだからさ。腐界はもう大丈夫なんでしょ?」


 塔子先輩があっけらかんに言い放つ。

 確かにその通りではある。


「それじゃあ、倫子ちゃん。さっそくだけどこれから出かけよう」

「霞先輩。もっと雰囲気大事にしてください。そういうとこですよ」


 倫子ちゃんがふぅーと息を吐く。


「でも、いいですよ。あんまり時間はないですけど、どこ行きましょうか?」


 まさか、こんなにすんなりデートが決まるとは思わなかった。

 これが恋人になるということなのか。


 感動を味わっていると、腰のあたりからブルブルと振動が伝わってきた。


「誰か着信きてますよ? 霞先輩じゃないんですか?」

「いやだ。なんか嫌な予感がする」

「子供じゃないんだから」


 業を煮やしたのか、スフィが俺のポケットからスマホを取り出した。画面には想像通りの番号が表示されていた。


「どこからですか?」

「腐界管理局。絶対仕事に決まってるよぉ。出たくない。俺たちはこれから倫子ちゃんとデートするんだ!」

「霞先輩」


 まるで駄々をこねる子供を諭すように倫子ちゃんは落ち着いた声を出した。そのままじっと俺の瞳を見つめてくる。俺がこんな素敵な女の子と付き合えるなんて夢のようだ。


「うん、そうだよね。俺は倫子ちゃんの彼氏なんだ。情けない姿を見せるわけにはいかないよ」

「もう十分堪能させてもらいましたけどね」


「余計なことは言わんでいい。じゃあ今から話すから」


 俺がそう言うのと同時に、スフィがしーっと人差し指を立てた。


「三門です。……はい。……はい。……はい。分かりました。すぐ向かいます」


 電話を終えてため息をつく。


「もしかして、また腐界ですか?」

「そう。まだ要救助者はいないんだけど、各地で神鳴りを確認したって。だから先手を打って招集がかかった。倫子ちゃん、ごめん」


「いえ、霞先輩。体に気を付けてくださいね」

「うん。ありがと」

「スフィも先輩が無茶しないように見張っててね」

『ん。スフィ、お姉さん。カスミのこと任せて』


 無茶させるなって言っておけば、スフィ自身も無茶しないだろうしな。流石は倫子ちゃんだ。


「それじゃあ、スフィ。では、三門霞、行ってまいります」


 スフィと並んで敬礼してから部室を出た。


 俺の仮説が正しいのなら、この状況って好転する気配がないよな。

 だって人口増加を今すぐ止めるなんてできないじゃん。

 たとえ、六道さんがスフィの時と同じようにしても、二、三か月しか持たないんじゃな。


 こんな状況が続いたら、いくら倫子ちゃんが優しくても振られちゃうよ!

 でも……


「どうしたらいいのか、さっぱり分から~ん!」

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