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第6話 デートを控えて


 陽気な昼下がり。今日も今日とて、オカルト探求部で暇を持て余す。講義は終わったし、腐界に行けないからやることがない。


 倫子ちゃんとおまけが講義選びの質問にさっきまでいたけど、時間がないからってサークルに誘う前にさっさと出て行っちゃったし。


 つまり、何が言いたいかっていうと「暇だ~」ってことだ。


三門みかにゃん、暇してる場合じゃないよ」


 部室の主である塔子先輩が飛び込んできた。講義が終わったばかりなのか、着ぐるみじゃないのが逆に新鮮に感じる。


「アメリカのニュース見た?」

「いや、全然見てないす」


 そもそもスマホに流れてくるニュースぐらいしか見ないし、アメリカの記事なんてまったく興味がない。大学生なら新聞ぐらい読むべきだろうが、幸か不幸か、俺の就職先は決まってるようなものだから、まったくその気にならない。


「きっと、三門にゃんにも関係あるから見といた方がいいよ。ほら、コレ。ドローンで撮影したアリゾナ州の砂漠」


「へぇ。砂漠ってこんなにデカいサボテンがあるんですね」

「40mもあるサボテンなんてないよ」


 塔子先輩は呆れるようにため息をついて、おでこに手刀を当ててきた。先輩とはふざけた話もするけど、こんな感じの時は結構まじめな話だ。


「一年前の横浜と同じだよ。きっと、幽霊のせいで異常に巨大化しちゃったんだね。しかも半径1km以上のエリアがこうなってる」


「えっ、それってやばいじゃないすか」


「うん。この動画には映ってないけど、巨虫も出たって話もあったよ。それなのに幽霊が全然映ってないってことは、全部周りの物質に憑りついたってことだよね?」


「まあ、そういうことですね」


 巨大化した虫、俺たち霊能力者の間ではそのまま巨虫って呼んでいる。ツチノコと同じように幽霊に憑りつかれた虫のことだけど、大きさのせいもあり、ヘビよりも入ってくる幽霊が少し弱く、元々の数の違いもあって生き残る個体が多い。サイズは大人の拳くらいまで大きくなり、単純な運動能力だけを見ても危険な存在だ。


「最終的には州軍が出動して対応したみたい。でもさ、なんの理由もなしに幽霊が集まるなんて考えにくいよね?」

「そうですね。情報がないんで断定できないですけど、このエリアの魂とか精霊が消えてしまったんでしょうね。憑りつきやすくなった器が沢山あれば、幽霊たちは向かっていきますから」


「それに、沢山の幽霊がどこから来たのかって問題もあるよ。アメリカのゲートと腐界は政府が管理してるはずだから反応がないのも不気味だね。情報封鎖しようとも、今のアメリカだと難しいだろうし。まあ、小さなゲートが沢山できて幽霊が飛び出してきたって展開かもしれないけどさ。でも、これと同じ現象が日本でも起きたら、三門にゃんたちも呼び出されるんじゃないの?」


「せっかく復旧しつつあるのに縁起でもないですよ。それに先輩、分かってて言ってるでしょ。俺みたいな弱っちい霊能力者はお呼びじゃないんですよ」


「そうかなぁ。三門にゃんの幽霊を吸収する能力って他の人はできないんでしょ? だったら、使い道あると思うけどなぁ」


「でも実際、一年前は呼び出されなかったわけですし」


 当時の俺は十八歳を超えていたから、呼び出すのに何の問題もなかったはずだ。それなのに呼ばれなかったのは きっと俺の霊力が他の霊能力者と比べてかなり低いからなんだ。


 運動能力には自信があるけど、霊的な攻撃力は普通の人とほとんど変わらない。一対一なら何とかなることもあるけど、複数の強い幽霊を一斉に除霊するのは能力的に難しい。


 それは修業をさぼっていたとかじゃなくて、霊能力者としての方向性がまったく違うからだ。


 通常、霊能力者の修業は己の魂を燃焼させて霊力を高めることに長い時間を費やす。そうして鍛え上げた霊力をぶつけて除霊していくんだ。


 ところが三門家では、幽霊を体内に取り込んで、頑丈な霊幕ですり潰すように、じわりじわりと除霊していく方法をとる。むしろ高い霊力は邪魔だし、強い幽霊でも吸収できるように、霊力を圧縮して霊幕の内側のスペースを確保する必要がある。


 イメージで言うと、体の中心に魂があって外側には霊幕がある。その間に霊力がある感じだ。俺が幽霊を吸収してるのは霊力がある部分。


 ただ、幽霊もじっとしてるわけじゃないから、最初は体内で暴れまわって体の各所が痛くなるんだ。


 利点としては、霊幕を鍛えてるから幽霊に取り憑かれたとしても、体に変化は起きないってことくらい。俺の弱っちい霊力を込めたパンチで倒せるような幽霊は、そもそも、それほど力を持っていないので悪さはできない。


「これ、ドローンだけじゃなくて、普通に撮影してません? この動画って誰が撮ってるんですか? こんな危険な場所に行くなんてアホでしょ」


「普通の動画配信者たちだよ。音信不通の人もいるらしいよ」

「なんで政府は取り締まらないんだか」


「自由の国だからね~。ってのは置いといて、結構広い範囲だから軍の配備が間に合わなかったんでしょ。そんなに時間も経ってないし。日本政府の方も慌ただしいみたいだから、近々こっちでも会見があるかもね」


「それで俺が呼び出されるって話に繋がるんですね」

「そういうこと」


 俺たち霊能力者は昔から政府、というよりは神道とかかわりを持っていた。日本国政府が神道を通して、霊能力者を保護していたんだ。


 明治初期に神仏分離令が布告され、弱体化していく仏教とは反対に神道は力を強めていた。神道は在野の霊能力者を保護し、地域に根差した活動を任せることにしたんだ。ところが敗戦により、事態は大きく動くことになる。


 1945年、連合国軍最高司令官総司令部GHQは国家神道の廃止を指示。それは信教の自由は保護するものではあったけど、神道と国の関りが大幅に減ることを意味していた。当然、末端の霊能力者もそれに該当する。


 支援を失った結果、専業の霊能力者は減り続けていった。それでも多くの者は本業の合間を縫って活動していたけど、高度成長期になるとそれも難しくなっていく。 


 霊能力者は次第に活動範囲を狭め、自分たちの住む小さなコミュニティのみを守って生きて行くようになった。


 三門家もそうした霊能力一家の一つで、俺の親の代には既に幽霊との関わりは無くなっていた。


 ただ、政府は霊能力者とのつながりを完全に捨てたわけじゃなかった。支援をしていないけど、神道関係者を通して密かに連絡を取り続けており、六道さんも政府の偉い人と会ったことがあるそうだ。


「でも、やっぱ俺みたいなのには仕事は来ませんよ」

「もう、三門にゃんは霊能関係になるとすぐいじけるんだから。劣等感の持ち過ぎは良くないよ」


「いやいや、ただの事実を並べてるだけですよ」

「まぁ、三門にゃんがそう言うならいいけどさ。話は変わるんだけど、さっき部室にきた女の子」

「梶中倫子ちゃんのことですか?」


「そうそう、そっちの子。私の見立てだとオカルト探求部に興味持ってた印象だったんだよね。もう一人の子が邪魔してたけど」

「そうなんすよ。久坂のガードが硬くて。たぶん、わざと時間がない時にここに来たんですよ」


「それは別にいいんだけど。あの時、私は忙しくて相手しなかったけどさ。三門にゃん。あの子のこと好きなんでしょ?」

「そうなんですよ。初めて会った時、運命を感じたんです」


「運命は別にして、なんとなく三門にゃんとの相性も悪くないって思ったの」

「ホントですか!?」


 思わず前のめりになってしまった。塔子先輩の観察力が鋭いのは一年という短い付き合いでも理解できた。ということは、もしかしたら倫子ちゃんが初めての恋人になってくれるってこと? そのまま結婚して三門倫子に。うん、最高じゃないか。


「お~い、三門にゃん。帰ってきて~」


 塔子先輩が俺の顔の前で手を振っている。

 いかんいかん、ついつい妄想してしまった。


「でも、今の状況は結構危険だよ?}

「えっ、でも相性はいい感じなんですよね? 先輩の女の勘によると」


「そうだけど、男性としてじゃなくて、友達として見られてる気がするんだよね。はっきり言うと、このままだと良くてキープ君だよ」


 ええええぇぇぇぇ!?


「どうにも三門にゃんの好意の伝え方って軽い感じがするんだよね。ストレートなのはいいけど、軽いのは絶対ダメ。あの子、初心うぶそうだったから最初はインパクトあるかもしれないけど、すぐに慣れてくるよ」


 そんなこと言われても、急には変われませんって。


「じゃあ、どうすればいいんすか?」

「一度ガツンと真剣に告白してみれば? 服装もビシッと決めて、場の雰囲気も借りてさ。そうやって自分は男なんだぞってアピールして、三門にゃんはようやくスタートラインに立てるんだよ」


 俺はまだ男として見られてなかったのか!?


「今度、買い物に行くのはいつだったっけ?」

「日曜日です」

「じゃあ、その時に告白してきなよ。ビシッとね」

「うす、決めてきます」

「な~んか不安だなぁ」


 大丈夫ですよ。俺だってやる時はやるんですから。

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