第43話 伝えたい想い
「ってなわけで、越谷ツインズは本当にすごかったんですよ。動画になってないですけど、三層の強そうな幽霊も二人だけで見事に除霊してたし」
二層と三層では幽霊の対処は異なる。三層にいる幽霊は強大なので、弱体化させて自然に消えるのを待つなんてリスクは取らずに、除霊最優先で戦う。
流石に二層のように余裕ってわけにはいかなかったけど、それでも俺の出番なんて全く必要ないほど二人は強かった。
「なんか先輩嬉しそうに話しますね」
「いや、そんな二人が俺のことを認めてくれたんだよ。嬉しいに決まってるじゃん」
「だから前から言ってたでしょ。三門にゃんは凄いんだから、もっと自信持ちなって。まあ、同じ霊能力者に言われるのは違うんだろうけどさ」
「いえいえいえいえ。そんなことありませんって。塔子先輩のおかげで今の俺がいるんですから」
「なんか調子にのってる感が凄いですね。足元に気を付けた方がいいですよ」
確かにその通りだな。ちょっと浮かれてたかもしれない。
「久坂はたまに良いこと言うよな」
横浜腐界で救出して以来、久坂との距離が少しだけ縮まった気がする。今までは暴言ばっかだったのに、俺に対するリスペクトが生まれたに違いない。
「三門にゃん先輩、ホントに自信がみなぎってる感じですよね。やっぱり可愛い女の子から告白されたからですか?」
「ちょっと待って。何それ告白って?」
「私も動画見ましたよ。妹さんから遺伝子が欲しいって言われてましたよね。それってすっごくストレートな表現じゃないですか。良かったですね」
さっきから二人でこそこそ何を話してるのかと思ったら、そんなことまで報告してたのかよ。いや、別に隠すようなことじゃないけどさ。
「それは夕貴子さんの持ちネタだから。定番のセリフだから」
「スフィは本気だって言ってましたよ。三門にゃん先輩はスフィが嘘ついてるって言うんですか?」
『スフィ、うそついてないよ』
倫子ちゃんよりもさらに厳しい視線がスフィから飛んできた。これはいけない。俺は別にそこを争いたいわけじゃない。どちらかというと、気にしていない話題だ。
どう言い繕おうか迷っている間に、倫子ちゃんは大きく息を吐くと、立ち上がって荷物を手にした。
「ごめんなさい。この後買い物もあるのでもう帰りますね」
「ちょっと待って。それなら私も帰るから」
久坂も倫子ちゃんに続いて出ていこうとしている。このまま誤解を与えたままだと良くない気がしたけど、瞬時に塔子先輩とアイコンタクトをして、俺は二人を追うことを止めた。
ドアが閉まり、足音が小さくなっていくのを確認して、塔子先輩とこれからのことについて話し合うことになった。
「思うに、今の倫子ちゃんの態度はアレなんじゃないですか? 俺に惚れてきているのは間違いないです。でも、一度俺の告白を躱した負い目と付き合えない理由がある。それに対して夕貴子さんはストレートに欲望をぶつけてきている。これが倫子ちゃんに嫉妬という感情を芽生えさせたのではないかと。いよいよ俺のターンが来たのかもしれません」
「相変わらず想像力がたくましいね。でも今回は私も近い意見かな」
「ですよねですよね。絶対そうですよね」
「三門にゃん。ここまでよくやったよ。でも、まだ本人の中でも消化できてなさそうだよね。今、気持ちを問い詰めても感情的に拒否されちゃうんじゃない? いい? 焦りは禁物だよ」
「はい、分かりました。焦らずじっくりと告白します!」
いよいよその時がきたのかもしれない。倫子ちゃんに再び想いを告げる時が。あとはスフィをどう説得するか。それだけだ。
「ふふっ。そうだね。三門にゃんはそろそろ私から巣立つときがきたんだね。いいよ。骨は拾ってあげる。思いっきりやってごらん」
「はい!」
再び告白する意志を固めた俺とは対照的に、スフィは状況が分からず首を傾けていた。さて、どうすれば納得してもらえるだろうか。
「スフィ。俺はスフィが好きだ」
『スフィもカスミのこと好きだよ』
「でも俺にはもう一人好きな人がいる。それは倫子ちゃんだ」
『ひびきは?』
「久坂は違う」
スフィは眉一つ動かさずに言葉の続きを待っている。出会ったばかりの頃だったら涙を流しそうなのに、随分成長したものだと胸が熱くなる。
でも言葉選びは重要だぞ。前みたいに感情的に泣かれてしまっては、どうにもならなくなる。ちゃんとスフィのことも大事に思ってるって安心してもらうんだ。
「さっき確信したんだ。倫子ちゃんも俺のこと好きだって。まだ確認してないけど間違いない。だから俺は改めて倫子ちゃんに告白しようと思う」
『りんこのこと、前より好き?』
「うん。でもそれはスフィに対しても同じだよ。最初に会った時よりずっと好きになってる。スフィは?」
『スフィも前より好きだよ』
「倫子ちゃんは?」
『りんこも』
うんうん。いいぞいいぞ。
「つまり、俺とスフィと倫子ちゃん、三人みんな好きあってるんだよ。俺とスフィはいつでも一緒にいられるけど、倫子ちゃんはそうじゃない。これは問題だと思わないか?」
『ん。りんこ、かわいそう』
スフィは優しくて素直な子に育ってくれた。俺がどのくらい影響を与えたかは分からないけど、どこに出しても恥ずかしくない立派な幼女だ。
「倫子ちゃんは久坂と仲良く二人で住んでるから、今すぐにって話じゃない。でも、将来的に一緒に暮らせたら素敵なことだと思わない?」
『おもうよ。スフィ、りんことも一緒にいたい』
「スフィと俺は好きどうしでいつも一緒だ。でも、倫子ちゃんはそうじゃない。だからこそ、きちんと好きって伝えたいんだ!」
スフィが真剣な表情で考えている。以前のように反射的に言葉を返してこない。
『スフィ、りかいした。スフィもりんこに好きって言う』
「えっ?」
そ、それはちょっと待ってほしい。それだと想いが伝えられない気がする。というか、思いっきり歪んでしまいそうだ。だが、俺に今の提案を拒否できるような対案を示せるだろうか。
スフィは両方の拳を握っていれこんでいる。もうやる気満々だ。
何か妙案がないか。ちらりと塔子先輩に視線を送ると、塔子先輩は困惑した様子で肩をすくめていた。
そうか。俺はもう塔子先輩よりも恋愛強者になってしまったんだな。もう塔子先輩を頼れない。これからは自分で決めないといけないんだ。どうやら用意していたアレを使う時がきたようだな。
「よし、スフィ。二人で倫子ちゃんに告白しような」
『お~』




