第42話 師匠の思惑
二層での戦闘が無事終了し、俺たちはステッキ型の椅子を展開してトークの撮影に入った。今回は俺とスフィがゲストだから俺たちの左右を二人が挟んでいる構図だ。
現在スフィは隣にいる夕貴子さんを警戒して睨み合ってる模様。さっきまでは真剣な表情で教えをこいていたのに。そのせいで俺と栄治くんが一対一で会話を進めることになった。
「それじゃあこれからトークコーナーだけど、俺たちも二人の事情はちょっとだけ聞いてる。ヤバそうなところはちゃんとカットするから、テキトーに話して」
「聞いてるってどのあたりまで? 俺もスフィも結構知らないことがあるんだけど」
「ん~、霞くんのお師匠さんが何かしたせいでスフィが現れたってことくらい。母さんも何か知ってそうな感じがしたけど、そういうのは絶対教えてくれないからな。あくまで想像でしかないとこもあるけど。スフィと一緒にいるのは不可抗力ってことになってるよね。でもそれって実は思いっきし狙ってやったことじゃん? たぶん政府もグルになって」
「えっ、政府もなの?」
「そりゃそうでしょ。六道さんだっけ? その人は政府の要請で色々活動してるんだから、そう考えた方が自然でしょ」
「でも俺、スフィと出会ったばかりの頃に腐界管理局に呼び出されて色々言われたんだよ。動画配信するようになったのも、腐界管理局からの要請だし。最初からグルならおかしくない?」
「確かにおかしいかも。でもそれってアレだろ。一番最初の動画。スフィが亀裂から飛び出てきたヤツ。日本政府としては、絶対秘密裏にやらなくちゃいけないはずなんだ。強大な力を日本が持ったら圧力もかかってくるだろうし。特に東アジア勢とかうるさそうだよな。だとしたら、何らかのアクシデントがあって状況が変わってしまった結果、予定通りにいかずにバレてしまった、とか?」
「う~ん、どうだろう。でも、偶然あの時の様子が配信されちゃったから、今の状況になってるんだよなぁ。それは間違いないよ」
「そのおかげで私は霞くんに出会えました。くふふふふふ」
「その話は広げなくていいから。というか、霞くんも気にしなくていいよ。うちの女は頭おかしいんだよ。越谷家のためにって気持ちが強すぎて、優秀な能力者を求めてるだけだから。だから別に好きとかじゃなくて、言葉通り遺伝子を求めてるだけなんだよ。普通にキモくね?」
越谷照子さんには倫子ちゃんたちを助けるときに助けてもらった恩がある。あの時は感謝の気持ちしかわかなかったけど、まさかそういう思惑があったとは。
「まあ、それはいいとしてさ」
俺が答えにくい質問だったと思ってくれたのか、栄治くんが話題を変えようとしている。なんて気が利く男なんだ。顔もイケメンよりだしモテモテに違いない。
「霞くんって、どうして他の霊能力者と協力しないの?」
「どうしてって言われてもな」
「だってその能力ってさ、チームを組んでこそ活かせるじゃん。単独だと幽霊の魂を吸い込まなくちゃいけないから、意志を持った魂が内側から暴れて体が痛くなるんでしょ?」
「うん、そうだね」
「だったら俺たちみたいなヤツがさ、霞くんが全部吸収しきる前に魂と霊力を分断すれば、霊力だけ吸収できるようになるじゃん。本来そういう使い方をするもんでしょ。そしたらチーム組んでる霊能力者だって霊力が吸収されて無防備になった魂を狙いやすいし。アシスト役として最高の能力だよ」
なるほど。言われてみればその通りだ。
俺は他の人と組んでこそ、力を発揮できる男だったのか!
でも、なんとなく分かってきたぞ。
「俺さ、昔から六道さんに他の人と組んじゃ駄目だって言われてきたんだよ。でも今の話を聞いてなんとなく分かった気がするんだ」
「どういうこと?」
「栄治くんの言った通りにすれば、戦いが有利になるのは間違いないよ。でもそれだと俺の霊幕が鍛えられないんだ。霊幕の外側なら普通に攻撃を受ければ鍛えられるけど、内側は中に入られないと難しい。でも、チームを組んだらそうはならないだろ?」
「なるほど、修業のためか。それなら理解できるよ」
その結果どうなったか。俺の霊幕は外からも内からも鍛えられた。誰かと組んでいたら、今ほどの霊幕の強さは得られなかったはずだ。それこそ、スフィが入ってきても大丈夫なくらい強くなった。
あれっ?
俺が霊幕の内側を鍛え始めたのって、いつからだっけ?
祖父の修業も厳しかったと思うけど、そんなことした記憶はないぞ。
ということは、祖父母が亡くなって六道さんの世話になってからか?
そこで俺はさらにきつい修行をうけて霊幕を鍛えられた。
スフィが入っても大丈夫なくらいに。
いや、もしかしたら逆なのか?
スフィを入れても大丈夫なように、六道さんは俺の霊幕を鍛えていた?
そう考えれば色々線が繋がってくる気がする。
『カスミ。だいじょうぶ?』
スフィが心配そうに顔を覗き込んできていた。そのまま後ろに回り込むと、背中にべたっと張り付いてきた。
そうだよな。たとえ六道さんにどんな狙いがあったとしても家族を失った俺の面倒を見てくれたのは事実だし、今のスフィと一緒の生活に不満があるわけじゃない。むしろスフィがいるからこそ、これまでと違った世界を見れるようになった。
「霞くんとスフィって本当の家族みたい。くふふふふ」
「そ、そうかな」
「うん。俺もそう見える」
『カスミはスフィのおとうとなんだよ』
「ええぇぇ!?」
スフィはそんな風に思ってたのかよ。
「ちょっと待て。絶対違うだろ。俺はスフィの親のつもりだったぞ。せめてお兄さんとかだろ」
『ん~ん。カスミはスフィのおとうと』
こういう時のスフィはけっこう頑固だ。俺のどこに弟要素があるのか分からないけど、今はなにを言っても聞き入れないだろう。
でも、「スフィはお姉ちゃんなのに子供向けのアニメが好きなんだね」と挑発するのは止めておこう。むやみに怒らせるのは得策ではない。
きっと倫子ちゃんだったら、スフィを素敵なレディに育てるべく誘導していくはずだ。今度から俺もそうしてみよう。
「じゃあ、そろそろ次にいこっか?」
「えっ、もういいの? 全然話してない気がするんだけど」
「いいのいいの。ショート動画をいくつか作るだけだから。素材なら色々撮れてるし。それにちょっと急がないと。バスがなくなっちゃうんだよ」
二人はまだ免許もってないのか。まあ売れっ子霊能力者だもんな。忙しくて免許を取る暇もないか。タクシーを使わないのは庶民派アピールか? まあ、いいや。
「それでどこに行くの?」
「うん。三層」
「絶対無理!!」
「えっ、なんで? 俺らなら普通にイケるでしょ」
そんな普通のテンションでいう言葉かよ。
「大丈夫だよ。ちょっと見にいって二、三体除霊するだけだから。いやさあ、母さんにアンタらにはまだ早いとか言われたんだよ。それでまあ、条件として助っ人の力を借りるなら腕試しをしてもいいって言質を引き出したんだ。でも俺たちより年上の先輩の力を借りて除霊するってのも癪だろ?」
「俺なら癪じゃないと?」
「そういうことかな。でも、それだけじゃなくて一度会ってみたかったってのもホントだぜ。あっ、一応困ったときのフォローってことでよろしく。基本は俺と夕貴子で対応するから」
なるほど。彼らは本当に俺の力を認めてくれているんだな。最初に会った時から見下すような視線じゃなかったし、俺の能力を買ってくれてたんだ。
でも、さっきは仕事だから除霊してるって言ってたけど向上心の高さは本物だな。そんな二人が信用してくれてるんだ。ちょっと怖いけど、俺も頑張ってみるか。




