第37話 動画出張出演決定済み
みんなで二人のアパートを片付けていく。
途中で倫子ちゃんが料理するために抜けたけど、なぜか掃除大臣さんが手伝いにいってしまわれた。まあ、アニメを見たいと言い出すよりかはマシか。
「ちょっと先輩。人数減ったんだから手を休めないでください。その調子だとご飯できるまでに終わらないですよ」
「悪い悪い。いや、二人が並んで仲良くしていると本物の家族に見えるなぁって。久坂もそう思わないか?」
「仲の良い姉妹に見えなくもないですね」
外堀を埋めようと久坂に話題を振ったが、帰ってきた答えは期待通りのものじゃなかった。俺が求めているのは、俺と倫子ちゃんとスフィの三人で親子の家族になることだ。なんだか、スフィとは友達みたいな関係になってるような気もする。
「そういえば、先輩って兄弟姉妹とかいないんですか?」
「いないよ。いや、昔はいたけど両親と一緒に事故でね。それからは六道さんの世話になって、家族に近い関係だったかなぁ」
「そうなんですか。なんかすみません」
久坂の声が申し訳なさそうに聞こえる。実際には、少し離れた場所を掃除してるので背中しか見えないんだけど、なんとなく手の動きが鈍っているように感じる。
「小学校一年くらいのことだから。それから修業とかで忙しくて落ち込む暇もなかったから全然気を使わなくていいぞ。あっ、でも倫子ちゃんには黙っといてくれよ」
「なんでですか?」
「自分で言うのもなんだけどさ。ほら、俺って結構ミステリアスな男だろ? そこらへんのイメージを大事にしたいなって」
「確かに摩訶不思議な存在ではありますね。いいですよ。先輩には大きな借りができちゃいましたからね。ちょっとだけ味方してあげます」
こっ、これが情けは人の為ならず、ってことか!?
まさか久坂が寝返るとは思わなんだ。いいぞ~。
倫子ちゃんの両親とも会話したし、ちょっとづつ外堀が埋まってきてるぞ。
だが、こういう時に油断するのが俺の悪い癖だ。まずは掃除をしっかりして、倫子ちゃんの期待に応えようではないか。
そうして作業すること数十分、掃除は予定よりも早く終了した。散らばっていたものは片付けたし、割れた食器の欠片だって落ちてない。これで堂々と倫子ちゃんの手料理に舌鼓を打つことができる。倫子ちゃんの作ったモノなら確定的に美味しいはずだ。
炊き立てのご飯とおかずをついでもらい、いただきますをする。スフィは食べないので、料理完成後はすぐにテレビの前に陣取った。
「どうですか、三門にゃん先輩」
「うん。野菜の味がよくしみ込んでるね。見たかんじ色んな食材がほどよいコントラストを奏でてるのに、それでいて味の主張が強すぎず弱すぎず、ちょうどいい具合にマッチしてる」
「普通の鍋にそこまで語ります?」
「俺の今の感動を表現するには必要なんだよ」
「まあ別にいいですけど。それはそうと、今回は本当に助かりました」
「なんだ、気持ち悪い。お礼ならもう何度も聞いたって」
「それは直接助けてもらった分です。聞いた話だと、他の霊能力者の方に声をかけてくれたっていうじゃないですか」
あぁ、越谷さんのことか。
「うん。それはまあ、二人が横浜腐界にいるかどうか分からなかったからね。証明できなくて国が動いてくれないんじゃ自分でなんとかするしかないから。連絡先だけは知ってた越谷さんに声をかけたんだ。探知能力に優れてるって有名なんだよ」
「でもそれって仕事の依頼ですよね? それだと費用とか請求されてるんじゃないですか?」
なるほど。俺の懐具合は改善されたとはいえ、そこまで余裕があるわけじゃないからな。心配してるのはそのことか。
「交通費くらいは出したけど、それについては解決済みだよ。動画の出演依頼が来たから了承して終わり。俺の方は動画を出すかは未定だけどね。スフィ次第かな」
他にも協力してほしいことがあるって言われてるけど、二人の腰がこれ以上低くなるのは嫌だから、言わない方がいいだろう。
「助けてくれた越谷さんって、やっぱりあの越谷ツインズのお母さんだったんですね。なんとなく顔の特徴が似てるなぁって思ってたけど、そうだったんだ」
久坂が一人納得している横で倫子ちゃんはポカンとしている。
「あの二人って結構除霊バトルとか配信してる本格派じゃないですか。三門先輩大丈夫なんですか?」
へぇ~そうなんだ。初めて知ったわ。というか、越谷さんに同じくらいの年齢の子供がいたのを知ったのも出演依頼をもらった時だしな。
「俺の実力なんて向こうも知ってるだろうし問題ないでしょ。スフィについては出てくるかどうか確約できないってちゃんと言ったし。それでもOKってことだから最悪俺一人が恥をかくだけで済むよ」
『ダメ。スフィもどうが出るよ』
アニメ視聴中のスフィが真剣なまなざしで見つめてくる。いつになく真面目な雰囲気で、ここで茶化したら信頼を失ってしまいそうな、それくらいの決意を秘めてるように見える。
理由はなんとなく分かる。やっぱり先日のことを気にしてたんだろう。二人の救出に役立てなかったと思い込んでいるんだ。
一応の納得は見せていたけど、心にトゲが刺さったままなんだろう。スフィが汚名返上しようとしている以上、望んだとおりにさせる方がいい気がしてきた。
でも、スフィが戦う姿は見せたくない。スフィの危険性を知らせるようなものだし、本人が乗り気であっても俺に幼女虐待の批判がくる恐れもある。コラボの時期については先方からの連絡待ちだから、内容については修正も可能だろう。あとで連絡してお願いしておこう。




