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第36話 再び二人の部屋へ


 横浜腐界から戻って三日後、倫子ちゃんから連絡があった。


 どうやら二人は元の部屋に戻れることになったらしい。国に依頼された霊能力者が管理会社と一緒に部屋に入って対応してくれたおかげだ。


 迅速な対応だけど、二人は家族と色々動いてて現場に居合わせなかったそうだ。


 というか、能力を知られたくない霊能力者側が嫌がったんだんだと思う。もしくは国が。能力的に重宝する人材だから、あまり表舞台に出したくないんだと思う。


 ゲートが出現してしまった場合の対応は分かっている。強い幽霊が入ってこれないように結界を張っているんだ。ただ、弱い幽霊は問題なく結界内に入れる。そうしないと、飛んでくる酸素とか窒素とかの精霊も遮断してしまうので、日常生活に影響が出てしまうからだ。


 一応、封じた場所ではゲートが発生していないってデータはある。物的損害に対する補償がないのは、経済的なモノをはかりにかけた結果の対処法なんだろう。


 室外機くらいなら買い替えてもそんなに高くはつかないだろうけど、高級品だとしたら大変だ。保障やなんやらで予算はすぐに枯渇するだろうし。最近はそのための保険もできてるらしいしな。


 一人娘が心配でやってきた倫子ちゃんの両親は、担当者から事後に話を聞いて、アパートのことを納得して帰っていったと聞いた。どこにでもゲートが開く可能性がある以上、どこに住んでいたとしても100%の安全なんて確保できるわけじゃない。実家に戻ったって同じことだ。それを考えれば、結界を張ってある分だけ、周囲より安全とも考えられる。


 ご両親とは残念ながら今回お会いできず、残念ながら電話だけの挨拶になった。今回の件は自分としては反省も大きかったけど、何度も何度もお礼を言われたのは嬉しかった。第一印象としては悪くなかったはず。今度会う時は別の挨拶をしたいものだ。


 で、俺とスフィは現在、倫子ちゃんたちの部屋の前で待機している。新横浜で見送りをすませた二人が帰ってくるのを待っているんだ。ゲートが開いてから初めて戻るので、ちょっと怖いから念のために来てほしいと言われれば、頼りになる男を目指す俺としては喜んでいくのだ。


 共用通路からぼんやり道路を眺めていると倫子ちゃんの姿が見えた。手を振る俺に気づいて、小走りで階段を駆け上がってきた。


「お待たせしちゃってすみません」

「いいよいいよ。俺たちが早く来すぎたせいだから」


 倫子ちゃんの息は上がっていない。横浜腐界を長い時間走っていただけのことはある。意外に体力がある。逆に遅れてやってきた久坂の息は荒い。


「ここで立ち話もなんなので、とりあえず入っちゃいましょ」


 久坂がカギを開いて扉を開いた。問題なのはベランダだから心配していないのか。あるいは、まったく気にしていないのかも。


「お邪魔しま~す」

『おじゃまします』


「そういえばスフィはうちに来るの初めてだよね?」

『ん。スフィたちの部屋より汚いね』


 スフィの言葉に二人が引きつった表情になった。スフィの部屋だったら、綺麗にしてて偉いねと素直に褒めるだろうが、俺のより汚いと言われるのはショックなのだ。だが、倫子ちゃんには安心してほしい。


 これでも俺は気が使える男。同情すべき点だと理解しているので、フォローをいれよう。


「ゲートが色々なものを引き寄せたんじゃない? 汚いのはそのせいだよ」

「先輩。不可抗力なので汚いって言うの止めて下さい」

「ごめんなさい」


 久坂は意外にナーバスな奴なのかもしれない。もしくは怒りっぽいのか。でも確かに失言だった。


「じゃあさっそくベランダを見てみるよ」

「お願いします」


 俺を先頭にすぐ後ろをスフィ、そのまた後ろに二人が続いて奥に進む。モノが落ちてるのをよけながら進み、倫子ちゃんの部屋から外に出た。後ろを振り向くと二人とはまだ距離があった。怖い目にあったんだ。心理的な影響があるのはあたりまえだ。


 室外機のあった場所をじっと見る。なにやら違和感を覚える。スフィも感じているようで、頭からはてなマークが飛び出していた。うん。なんとなく分かってきたぞ」


「結界が張ってあるけど、スフィは触っちゃダメだぞ」

『ん。触ったらこわれそう』


 そしたらせっかくの結界が台無しだもんな。スフィもこっちでの生活に慣れてきてるから、そこらへんは気を使ってくれる。むやみやたらに霊的なものに触ったりしない。俺の霊力じゃ結界なんて張り直せないし。


 でもこの結界、触ったらスフィ側にも影響がありそうなんだよなぁ。それくらい強力なモノに感じる。


「これ、たぶん凄い霊能力者がやってくれたと思う。強度があるのに、繊細な結界だ。霊力の強さだけじゃなくて、技術も超一流だよ」


 能力を隠そうとするのも納得だ。


「これなら強い幽霊も入ってこれないよ」

「でも結界って少しづつ弱くなるんですよね?」


「おおっ、さすが倫子ちゃん。今までのことちゃんと理解してるね」

「はい、今回のことで教わったことを復習したんですよ。空気中の精霊とぶつかって弱まるんですよね?」」


 完璧な解答だ。お前はどうだとばかりに久坂を見た。


「なんですか。わたしだってそう思ってましたよ」

「ほう、やるじゃないか」


「まあ、当然でしょ。でも先輩、時間制限ってどれくらいあります?」

「そこらへんはなんとも。異変がなければ十年以上は大丈夫そうに見えるよ」


 結界ってのは、構造的には幽霊と同じだ。意志のない幽霊みたいなもんだ。なんらかの依り代に魂の分身のようなモノを与えることで、依り代自体から霊力が発生するようになる。それが結界の仕組みだ。


 ただ、幽霊と同じく霊幕がないから霊力は霧散してしまうし、魂が霊力を生み出すことができなくなれば効力を失う。腐界基地の結界なんかは、定期的に結界を張り直しているんだ。


 二人は頷き合っている、納得できたようだ。今日からまたここで生活する覚悟、と言ったらおかしいかもしれないけど、とにかくある程度の不安は払しょくできたと思う。


 さて、そろそろおいとましようと玄関に向かったら、久坂に腕を引っ張られた。


「ちょっと先輩、この状況を見て帰るつもりですか? 片付け手伝ってくれません?」

『いいよ』


 掃除大臣が間髪入れずに答える。


「倫子が作る晩御飯たべていいですから」


 たしかにモノが散乱している。人手は欲しいところだろう。だから片づけを手伝うのは、決してご飯につられたわけじゃないんだ。


「もちろん手伝うさ。レディには隠したいモノもありそうだから、ちょっと自分からは提案しにくかっただけだぞ」

「わぁ、先輩って気が使えるんですね。嬉しいです」


 久坂がわざとらしい笑顔を向けてきた。ちょっと気持ち悪い。


「しばらく留守にしてたんで、野菜とか早めに食べたかったんですよ」

「わざわざそんなこと言わんでよろしい」


「でも、響ちゃんだって、三門にゃん先輩にお礼したいってのは本心ですよ。助けていただいたのに、色々あってちゃんとお礼できてませんでしたから。もちろん私もです。先日は本当にありがとうございました」

「その節はお世話になりました」

「スフィもありがとね」


『ん。りんことひびき、ともだち。スフィとカスミがんばったよ』


 なんかこういうのっていいな。親しき仲にも礼儀ありってヤツ。

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