第29.5話 神田と近藤②
霞との通話を終えた神田は大きく息を吐いた。二人の会話を近くで聞いていた近藤は、暖かいお茶を差し出した。
「目的を達成したとはいえ、こういった形で終わるのは残念でしたね」
神田は近藤の慰めに対して笑みを返した。目的とはスフィが危険な存在ではないと世界にアピールすることである。霞のロリコン疑惑を否定することはおまけにすぎない。
「いえいえ、我々がいなくても三門さんはもう大丈夫でしょう。彼も成長しているようですし、むしろ干渉しない方がよいのかもしれません」
神田の言っていることは理解できる。だが、外圧を警戒して霞との交流を中止するよう求めてきた政府の方針に不満がないわけではない。声に出さずとも、二人は共通の想いを持っていた。
「悪漢に迫られたときは焦りましたが、結果的には良い方に転がってくれました。あれを見て、スフィさんの危険性を声高に叫ぶ者は減るでしょう」
スフィの動画は日本だけでなく世界中からアクセスがあった。一部否定的な意見があったものの、概ね狙った通りの結果になったといえる。
「そうですね。フロンティアスピリット溢れる彼の国は、国家の成立過程で多くの霊能力者を失いました。霊能力分野で彼らは後進国なのです。無知ゆえに過剰に恐れているのでしょう。もっとも、手を出してはいけないことくらいは理解しているようですが」
「お客様はだいぶ帰国されたみたいですしね」
強硬策に出ようとしても、スフィを封じ込める手段がなければ、手を出すのはリスクでしかないだろう。二人は現在の状況をそのように理解していた。
「それはそうと、六道さんの方はどうなりましたか? 近藤さんが腐界から戻ってきたのは報告のためでしょう?」
「順調と言えば順調です。他国と比較しなければですが」
「それは致し方ありません。規模がまったく違うわけですから」
日本の腐界調査をリードするチームは、霊能力者を中心とした民間の有志で構成されている。法律の壁が自衛隊との協力の道を閉ざしたことで歩みは遅い。だが、着実に腐界を進んでいることは確かである。




