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第29話 ヒーローごっこ


 暇だ。


 連休は始まったばかりだというのに。日課のトレーニングをしたり勉強したり、やることはあるけど全然身が入らない。倫子ちゃんに会えなくなったせいもあるかもしれない。たまに送られてくる写真は嬉しいけど。


 アニメチャンネルに登録して以来、スフィはパソコンとお友達になってしまった。友達百人計画はどこにいったというのか。デジタルのお友達なら俺にだっているぞ。


 だが、先日のアクシデントを思えば、性急にことを進めるのは良くない気もする。まあ、スフィなら運動不足を心配する必要もないしな。視力に関しても大丈夫だろう。


 一応、アニメばかり見るのは良くないから、学習系のチャンネルも見るようにはさせている。学力テストの結果は上々なので大きな問題はないはずだ。倫子ちゃんも喜んでくれるだろう。宣言した通りに、掃除もやってくれてるしな。


 さすがに幼女に掃除を任せっきりにするのはよくないので、二人で分担してやっている。スフィは主に俺の手が届きにくい場所、天井とかタンスの上とかが担当だ。空に浮きながら、コードレス掃除機を巧みに操っている。手加減にもだいぶ慣れたのだろう、最近ではかなり霊力を抑えていて、他の物質の精霊を消滅させる回数も減った。


 掃除後の一休みが終わり、そろそろ買い出しに行こうかなと思った頃に、見知らぬ番号がスマホを震わせた。相手は分からないけど、とりあえず出てみるか。


「もしもし?」

「お疲れ様です、三門さん。神田です」

「神田さんだったんですか。スマホ変更したんですか?」


「いえいえ、そういうわけではありません。それより、二人ともお元気ですか?」

「はい、おかげさまで。と言いたいところですけど、先日救助した時の影響はありますね。心配なのでちょっと外出は控えてます」


「例の件ですね。スフィさんの様子はいかがですか?」

「ホントのところは分からないですけど、いつも通りかなぁと。最近はずっとアニメばっか見てますけど」


「なるほどなるほど。では、三門さんの体調はどうですか? スフィさんに中に入られて異常はありませんか?」

「今のところはないですね。というか、むしろスフィと出会ってからの方が霊幕の調子がいいくらいなんですよ」


「それはなによりです」

「それで、今日はどういった要件なんです?」


「いえいえ、要件というほどではありません。あえて言うなら激励でしょうか。三門さんのチャンネルも好調ですし、私から特に言うことはありませんよ」

「最近は自宅からの配信ばっかになっちゃいましたけどね」


 先日のように自宅で普通の生活しか配信してない。外出先でのライブ配信は控えてるんだ。他にスタッフがいるならスフィのことを守れるかもしれないけど、今の状況だと難しいだろう。スフィとボードゲームをしたり、普通に掃除してる映像なんかも流した。それでもスフィの姿を見たいのか、結構な再生数になったのは驚きだった。


「それでもですよ。最初ほどのインパクトはありませんが、コメントを見るとだいぶ視聴者もついてるじゃないですか」

「ほとんどスフィのファンですけどね」


 スフィがお金を使うわけじゃないから、投げ銭もほとんどない。というか、俺に対してのコメントはツッコミたいだけの視聴者な気がする。


「まあ、そういうわけですので、これからは一ファンとして楽しみにしたい思います」

「どういう意味です?」

「私どもからの連絡はこれが最後になりますので、一応お伝えしておこうかと思いまして」

「そうなんですか。異動ですか?」

「まあ、そんなところです」


 神田さんは本当に動画のことしか言ってこなかったな。なんだかんだで、もっと生活に干渉してくるもんだと覚悟してたのに。


「あ~、ええっと、お世話になりました?」

「ははっ、それはこちらの方ですよ。それでは失礼しますね」

「はい、疲れ様でした」


 神田さんの後任とかいるのかな?

 まあ、いてもいなくても、今更配信をやめるつもりはないけどね。収入面でもそうだし、スフィが危険じゃないってのは伝え続けた方がいい気がするから。


 あっ、しまったなぁ。六道さんのこと聞くの忘れてたよ。スフィと出会うきっかけになったあの電話以降、全然通じないんだ。ってことは、腐界の奥にいるんじゃないかって思うんだよな。あの人がそう簡単に死ぬとは思えないし。まあでも、守秘義務かなんかで答えてくれなかったか。


『カスミ、だれだった?』

「神田さんだよ。そのウサ吉をくれた人。覚えてるだろ?」


『めがねの人』

「そうそう。もう連絡してこないって言ってた」


『カンダ、ともだちじゃない?』

「う~ん。もともと友達というよりは仲間って感じかぁ」


 あるいは共犯者が正しいかもしれない。


『スフィ、なかましってるよ。ちからをあわせて、たたかうんだよ』


 スフィが急にファイティングポーズをとって、へたくそなシャドーボクシングを開始した。最近はこうやって絡んでくることが多い。俺はいつも悪役だ。アニメに影響されて真似したがるんだよなぁ。俺以外が相手にするのは危険だから、やるしかないんだけどね。でもその前に、壊れやすいものをクローゼットにしまっておこう。


「フハハハハハ。よく来たな、スフィ。ここが貴様の墓場となるのだ」

『かいじんカスミン、今日こそけっちゃくをつけるよ』

「微妙に可愛く言うとは許さん! 喰らえ、霞パンチ!」


 もちろん演技だから手加減してるけど、スフィを満足させるためにはある程度の強度が必要だ。でも、勢いをつけすぎるとスフィの凄まじい霊力を逆に受けてしまう。わざとスローモーション気味にパンチを放った。


 スフィは俺の拳をひょいっと避けて反撃に転じてくる。


『えい!』


 スフィの攻撃を見極めて、僅かだけ霊幕を触れさせる。手加減してくれてるだろうけど、遊びに夢中になってるのか、ちょっとだけ制御が甘い気がする。衝突と同時に後ろのベッドに倒れこんだ。


「やられた~」


 戦いに勝利したというのに、ヒーローの顔は不満気だ。


「どうした?」

『カスミちがう。ヒーローはピンチになってから勝つんだよ。もっとちゃんとやって』


 怒られてしまった。しかし、なかなかに本格的じゃないか。なるほど、テレビ番組らしく苦戦からの逆転劇を望んでるんだな。いいだろう。俺だって怪人の端くれ。ヒーローを追い詰めるくらいやってみせるさ。


「フハハハハハ。実は今のは死んだふりだったのだ。騙されなかったことは褒めてやろう」


 だが、あまり夢中になられても困るのは俺だ。どうするどうする?

 周りをちらちら見て使えそうなものを探してみる。

 そうだ。この手があったか。


 手を伸ばして、ベッドに寝転んでいるウサ吉を掴んだ。

 要は俺が直接触れなければいいんだ。


「実はウサ吉はスパイだったのだ。ウサ吉っ、スフィを倒せ!」

『ウサ吉、そんなこといわない。スフィのともだち』


 このアドリブは駄目か。厳しいなぁ。

 ならば作戦変更。ウサ吉を人質にしよう。


「ウサ吉を助けたければ、大人しくするんだ!」

『ん。ウサ吉のおもい、むだにしないよ』


 スフィが俺に向かって突っ込んできた。


 ちょっと待って!

 ウサ吉って自己犠牲とかするやつだったの?!

 そんな展開だったのかぁ!!


「ぐはぁっ!」


 スフィのパンチに合わせて大げさに倒れこむ。予想よりも大きな衝撃が霊幕にやってきた。軽くやってこれだなんて、スフィの力はホントに底知れないな。


『カスミン』


 瞼を空けてちらりと見ると、スフィが手を伸ばしてきていた。まだ物語は続いてるのかよ。悪い奴を倒してエンディングでいいじゃんか。


『わるい心、スフィがやっつけた。カスミンはスフィのなかまになったよ』

「ああ、俺たちの戦いはこれからだ」


 人質をとるような敵は味方にならないと思うぞ。だが、それをここで言うのは野暮ってもんだろう。

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