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第24話 成長


 夜八時を回って、ようやくアパートに戻ってこれた。飯を食って、風呂も入った。


 手元には紬ロボティクスで受け取ったドローンがある。でも、これをアパートに置きっぱなしにしたくない。盗まれる可能性も考慮する必要がある。


「朝一で横浜腐界のロッカーに預けてこようかな」


 あそこのセキュリティなら問題ないはずだ。網膜認証とかの生体認証付きだし。どうせ使うのは横浜腐界だけなんだから、そうしよう。


 それにしても塔子先輩は凄いなぁ。新型ドローンのアイデアを出した頃って俺と会ったばかりじゃん。まだそこまで詳しい話をしてないはずなのに、微生物の霊幕を鍛えるなんてよく思いついたもんだ。


 でも素直に褒めたくはない。なぜなら、他の皆が同じように霊幕を鍛えるようになったら、霊能力者としての俺のアイデンティティが崩壊するからだ。一般人とほとんど変わらないくらいの霊力しかないのに、霊幕の強度まで追いつかれたら、修業に明け暮れた俺の青春時代はなんだったんだって話になる。いや、俺の青春はこれからだけど。


『どろ~ん、かっこいいね』

「そだね。でもスフィは触っちゃダメだぞ。虫さんの霊幕を鍛えたといってもそこまで強いわけじゃないだろうし」

『ん。だいじょぶ』


 幽霊は機械類に普通に憑りついてくるからな。でも、思ってたより霊幕強そうな感じはする。霊幕の強さはサイズと比例するわけじゃないから、別に不思議ってわけじゃないんだけど、開発期間を考えたらどの微生物にするかを選ぶ時間とかそんなになかったと思うんだよな。


 あとは鍛え方か。俺の場合は六道さんに強い霊力を当ててもらって鍛えてきたけど、香苗さんたちには俺以外に霊能力者の知り合いがいなさそうだった。となると、あの大量に張ってあったお札を使った可能性が高そうだ。


 お札の効力は作った人の霊力の高さによるから性能はピンキリ。きっと色んな種類のお札を買い集めて比べていったんだろう。かなり浪費したはずだ。それだけ香苗さんの執念があったってことか。


 いや、最初は強すぎて使えないお札も、ある程度霊幕を強化したあとの状態なら耐えられるかもしれない。そう考えると無駄にはなってないのか。そうして段階的に霊幕を強化していくうちに、腐界での使用に耐えられるレベルまで成長していったということか。


 さっきはスフィに注意を促したけど、俺も気を付けないとな。幽霊を吸収しようとしたら微生物の魂を吸収しましたなんてシャレにならない。微生物の魂が無くなったら霊幕も消えてしまうから、弱い霊にも憑りつかれるようになって厄介だ。


『カスミ、つうちきてる』

「ありがと。はぁ、またコラボ要請のDMかよ」


 お金を稼ぐのは大事だけど、再生数を増やすのが目的じゃないから、あんまりコラボはしたくないんだよなぁ。スフィに悪影響があるかもしれないし。


 霊能力者としてメディアで聞いたことある名前だったけど、実際に動画を確認したら式神を使ってた。大した実力をもってないし、売名目的と考えていいだろう。面倒そうだから丁寧に断っておこう。


 それにしても、最近は式神使いが普通に腐界に来るようになったよなぁ。別に悪くはないし、いざという時を考えれば経験を積んでおくのは全然悪くないけどさ。一度目覚めさせれば、体の中に隠れて、いざという時は自動防衛システムみたいに勝手に守ってくれるしね。


 日常生活で霊量の弱い守護霊をメレオプラズマが感知したとしても、むやみに攻撃するわけじゃない。嫌悪感を抱く見た目だとしても、基本的に身を守ること優先だ。腐界によく来る人たちなんかは、ちょっと式神の扱いが上手くて、防御だけじゃなくて攻撃に使えるようになってきてる。


 でも、素人が式神を使って戦闘を目的に腐界探索するのはリスクが大きい。


 生物は魂を燃焼させて霊力を生み出し、式神は本人の霊力を少しづつ吸収して育つ。配布された式神の紙は、日常生活で漏れてくる霊力を吸収するだけだから本人に負担はないけど、霊的存在とぶつかり合えば当然霊力を失っていく。式神が回復するまで無防備になってしまうんだ。


 俺たち霊能力者は霊力を自在に操れるから、霊力を体の表面にもってきて素手でも戦えるけど、普通の探索者は式神がないと効果的にダメージを与えられない。だから、他の人よりちょっと霊力が強いからって式神だけで戦うのは危険なんだ。


 まあ、金持ちの動画配信者なんかは大量にお札を持ってきてるから問題ない。香苗さんみたいなね。費用対効果を考えると割に合ってない気もするけど。


 普通の人と違って、霊能力者は式神を使用しない。それは、式神が自動で動くといっても霊力を消費するからだ。霊力を他で使えない人にとってはそれでもいいけど、実質的に攻撃力と防御力が下がるわけだから、そのリスクを嫌ってるんだ。使ってるのは本職の陰陽師くらい。


 式神を使って間接的に戦う日本人と違って、他の国では儀式によって体内の霊力を表面に出す方法が主流らしい。つまり、霊能力者と同じってことだ。もちろん霊力の差はあるけど、幽霊と対峙できるようになる。


 その分肉体的な負担は大きく、けが人も多い。霊力をきちんとコントロールできない人は、霊力がむき出しになって周囲を傷つけてしまう恐れもある。


 霊力を込めた拳が体に当たった場合、とうぜん最初に当たるのは表面にある霊幕だ。霊幕はそんなに傷つかないけど衝撃は魂まで届いてしまう。間にある霊力がクッションの役目をしてくれてるから威力は弱まってるんだけど、何度も繰り返せば魂が弱って、幽霊に目をつけられてしまうほどになってしまう。その結果として、憑りつかれやすくなるんだ。


 それでも日本より腐界探索が進んでいるので、一概に間違いとは言えないのかもしれない。危険はあるけど、そのぶんリターンがあるのだから。


 ただ、儀式にかかる費用は高く、国が負担してくれるわけじゃないらしい。そこらへんは保険制度とちょっと似てるかも。金を払えば、日本人でも儀式を受けられる地域もあるけど、俺だったらそんな闇医者みたいな人たちにやってもらうのはオススメしないな。


 考え事をしてる間に、随分時間が経過したみたいだ。


「スフィ、そろそろ寝るぞ。明日は忙しいし」

『もうちょっと』


 スフィはパソコンの画面を食い入るように見つめていた。普通の子供のようにマウスを扱えるようになってるし、アルファベットも覚えて自分で入力できるまでになった。アニメを見るために、霊力を抑えるのを頑張ったんだもんな。そのためにキーボードの精霊が何回も消滅したんだよなぁ。そのたびに周囲から別の精霊が集まったから大した問題にはならないけど。


「なに見てるんだ?」

『カスミ、しっ』


 スフィは画面を見つめたまま、口に指をあてた。怒られてしまったぞ。まるで子供を躾けようとするお姉さんじゃないか。どこで覚えたんだか。でも、スフィが成長したと考えれば別にいいか。


 どうやらスフィが見てるのはヒーローもののアニメのようだ。映像もちょっと古い感じだし、昔のアニメが無料で公開されてるのかな。


 あれっ、なんとなく思い出してきたぞ。たぶん俺も見てたヤツだ。当時はあんまりアニメとか見てなかったし、その分記憶に残ってるのかも。


 今思えば打ち切りエンドっぽかったよな。最後の敵を倒さずに、なんとなくエンディングに突入したんだ。人気がなくて終わったんだろうけど、当時はがっかりした記憶がある。


『カスミ、おわったよ』

「よし、じゃあ寝るか」

『ん。おやすみ』


 電気を消して、ベッドで毛布をかぶる。スフィは当然のように俺の横にきて丸まった。飼い主と一緒に眠る猫みたいだ。でも、意識がない時のスフィは結構危険。子供らしく寝相が悪く、寝てるときは手加減ができないから、結構強めの衝撃がくることもあるんだ。霊幕を鍛えまくった俺以外は耐えられないだろう。


 というか、俺も最初の頃は何度も叩き起こされてたし。でも、今は大丈夫になってるから、スフィと一緒にいるだけで修業になってるってことだよな。寝てるうちに修業できるなんて最高だなぁ。

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