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第23話 怒りのパワー


 香苗さんの車が響かせる重低音が心地よい。時折、好奇の眼差しを浴びながらも街中を突き進んでいくと、あっという間に目的地に到着した。


 建物前に車を停めると、すぐに男性が近寄ってきた。


「それじゃ後はよろしくね」


 男性に車のキーを預け、俺たちは建物に入っていく。

 エントランスを通り抜けてエレベーターに乗り込むと、上の方から違和感を感じた。俺の表情の変化を見て、紬さんの口元が緩んだ気がする。


「さすがは霊能力者。やっぱり違いが分かるんだ」

「はっきりとじゃないですけどね。ひょっとして結界を張ってるんですか?」

「そそ。安物だけどね」


 エレベーターの扉が開くと、お札だらけの壁が目に入った。同じくらいの強さのお札を四か所以上で囲めば結界になるから幽霊は入ってこれない。腐界基地ではもっと強力な結界を張っているから、安物と言われればそうなんだけど、数を考えればかなりの値段にはなりそうだ。もっとも、この程度ならスフィには全く問題にならないだろうけど。


 エレベーターを降りると、髪を後ろでまとめた女性が頭を下げながら待ち構えていた。


「私の秘書の時任ときとう玲子れいこよ。今後のやり取りは玲子とやってもらうことになるから、後で連絡先を交換しておいてね」

「よろしくお願いします」


 今後ってことはドローンのことは決定事項だと受け取っていいんだろうか。


「塔子から聞いてるかな? 私と玲子と塔子は学年は離れてるけど違うけど小学校時代からの仲でね。霞くんのことも去年の四月には聞いていたのよ。塔子が霞くんのことを面白おかしく話すものだから、親近感ありまくりでね。馴れ馴れしいのが嫌だったらごめんね」


「いえ、大丈夫です」


「嫌ならはっきり言った方がいいですよ。拒否しないということは容認したと都合よく受け取る人ですから」

「大丈夫です。自分も似たようなものなので」


 香苗さんは、玲子さんの言葉に反論するでもなく笑っている。印象通りにサバサバした人なのかもしれない。


「通路で話すのなんだし、中に入りましょ」


 二人の後ろについて中に入る。他の社員の姿は見えない。柔らかそうなソファに座るように促されて着席した。


「7Fと8Fを借りててね、ここは私の部屋で下のフロアでは主に設計をやってるの。工場は別のところね。玲子、試作機は?」

「まもなく届きます」


『カスミ』

「どうした?」


 スフィが突然姿を現した。香苗さんも玲子さんも目を丸くしている。スフィのことは動画では見ただろうけど、本人を前にすると驚くよな。


『ん』


 スフィのちっちゃな指は時計に向いていた。そうか、もう十七時か。


「あなたがスフィ? よろしくね」

『ん』

「時計がどうしたの?」


 初対面の相手にスフィはいきなり答えられないだろう。それを思えば出てきたのは驚きだけど、それほど気になってたんだな。


「実はスフィが見たいって言ってたアニメがあるんです。たぶんそれを気にしてるんだと思います」

「そっか。うん、玲子」


「スフィさん、実は私もアニメが好きなんですよ。一緒に見ましょうか」

『ん』


 玲子さんはスフィを連れて、奥の部屋に移動していった。


 この人なかなかやるな。アニメを見てもいいと言っても、子供扱いされたと癇癪かんしゃく起こす恐れもあった。スフィはどうしても見たかったんだろうけど、玲子さんは自分も見たいということで、対等な立場になったんだ。勉強になるなぁ。


 二人が離れたことで、一対一で香苗さんと向かい合うことになった。香苗さんは玲子さんが置いていった書類をこちらに差し出してきた。


「結論から言うわね。霞くんに新型ドローンの試作機を貸し出します」

「ありがとうございます」


「後日、座学と実技講習を受けてもらいます。簡単なテストだから大丈夫。カタストロフを機に色々変わったからね。腐界で飛ばすなら周りに人がいないから余裕でしょ。あっ、試作機と言っても、ドローンの性能はもうすぐ発売予定のモノと変わらないから安心してね。実はね、この新型ドローンは霞くんのおかげで完成したのよ」


「そうなんですか?」


「そもそも、このプロジェクトをもってきたのが塔子なの。霞くんの話を聞いて閃いたって。だから私にとっては霞くんの方が恩人だから、もっと楽にしてくれていいのよ。その方が霞くんは面白いって聞いてるし」


 塔子先輩は俺のことをどう伝えてるんだろうか、ちょっと気になるぞ。


「仕様書ざっと読んだだけですけど、これ凄くないですか? 幽霊が入ってこないようになるって。無機物は憑りつかれやすい特性があるのにどうやったんだろう」


「簡単よ。動物や植物には霊幕があるから幽霊が憑りつきにくいのよね?」


「はい、そうです。そうか、別にドローン本体をいじる必要はないんだ。表面に強い霊幕があればいいんだから。ということは、コーティング剤に生物を使ってるのかな」


「あら、すごい。塔子の言ってた通り幽霊関係はホントに勘が鋭いのね。正解よ。コーティング剤の中に、とある微生物が入ってるの。あとはその微生物の霊幕を鍛えてあげればいいだけ。霞くんが修業したようにね」


「なるほど。いや、すごいなぁ、これ」


 香苗さんは拳を握りしめて立ち上がった。かなり感情がこもっている。それだけ商品に自信を持っているってことだろう。


「これの凄いところは応用が効きやすいこと。ドローン以外にもいろいろなものに塗れるわ! そしたらウハウハで私も……ゴホンっ、失礼なんでもないわ」


 ちょっと待て!

 この人、酒の匂いがするぞ。

 そういや、グラスの中身が俺と違うじゃん。


 今、この人なに言おうとしてたんだよ。

 スフィに近づけさせちゃいけない人じゃないのか?

 倫子ちゃんもそうだ。ちょっと怖くなってきたぞ。

 俺も負けないように気合を入れなくては。


「幽霊が溢れる世の中だし、需要ありまくりよ。あとは宣伝とわずかな微調整だけなの! 霞くん!」

「はいっ! なんでしょうか!」


「あなたのおかげで念願叶いそうだわ」

「念願ですか?」


「そう、あれは一年前。カタストロフが起きてすぐの頃だったわ」


 香苗さんがいきなり語り出した。酔いやすいのかな?

 酔っぱらいは放置したいけど、そうはいかないよなぁ。


「母と一緒に政治家の先生に会う機会があったのよ。その時に塔子のレポートについて、かいつまんで話したの。そしたらあのハゲ親父、”実現したらすごいですね。いやぁ、お嬢様は素晴らしいですね。つむぎ建設は今後も安泰だ”なんてぬかしやがったのよ! 絶対心の中で見下してたわ。こっちは日本のためを思ってアイデアを提供したってのに、もう腹が立って。絶対に完成させて国から搾り取ってやるって誓ったのよ。私も若かったわ。霞くん!」


 香苗さんが俺の手を掴んできた。

 汗ばんだ手を振りほどきたい気持ちをこらえて返事する。


「ほんっとうにありがとう! これでようやく鼻を明かせそうだわ。また会う機会があったら霞くんも招待するわね。悔しがる姿を一緒に見ましょう」

「いえっ、俺はあんまり目立ちたくないので遠慮しておきます!」


 この人、全然サバサバ系じゃない。ドロドロじゃないか。

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