第22.5話 倫子の心配事
霞とスフィが出ていったオカルト探求部の部室では、出ていく準備をしていた塔子を倫子が引き留めていた。彼女らの関係は霞が間に入っていたので直接話すことはほとんどなく、まだそれほど仲が良いわけではなかった。それでも、倫子にはどうしても相談したいことがあった。
「二人に聞いてもらいたいこと。それは、もちろんスフィのことです」
おそらく霞のことではないだろう。呼び止められた時から、そう感じていた塔子は、霞ががっかりする姿を想像しながら耳を傾けた。
「三門にゃん先輩とスフィって、出会ってからちょっとしか経ってないのに随分仲がいいと思いませんか?」
「それは一日中一緒にいるからじゃないの?」
親友の言葉は説得力がある。自分たちの知らない間に仲良くなっているのも想像できる。だが、倫子が伝えたいことはそこではない。
「私たちに対しても、初めて会った時よりかは親しく接してくれてると思います。でも、ちょっと三門にゃん先輩の影響受け過ぎだと思うんです」
「それ分かるかも。さっきもポーズ取る時、息ぴったりだったもんね」
「そうだね。でも普通に可愛かったからいいでしょ」
「そうですね。私もそう思います。仲の良い兄妹に見えました」
三人が受けた印象は、霞がライブ配信をする際に狙っていた通りの展開だろう。ならば何故、倫子が相談を持ち掛けてくるのか。響には分からなかった。
「それっていいことじゃないの? 少なくとも三門先輩にとってはロリコン疑惑が消えるわけだし」
「うん。私もそこは否定しないよ。でも、ちょっとスフィが三門にゃん先輩に引っ張られ過ぎだと思うの」
「つまり、倫子ちゃんはスフィが三門にゃんに似てきたと思ってるんだね?」
倫子は鼻息荒く立ち上がった。
「そうなんです! スフィは女の子じゃないですか。スフィは今でも素敵な女の子ですけど、このままだと三門にゃん先輩みたいな女の子になっちゃいますよ!」
「悪い人じゃないけど、そっくりになられるのはちょっとねぇ」
下級生の想いを聞いて、塔子は考えを巡らせていた。スフィの変化は気にならないが、親の立場だったらそうかもしれない。二人の心配は理解できる。とはいえ、より付き合いの長い霞の恋が成就することの方が大事である。塔子はこの場にいない霞のために助け船を出すことにした。
「だったら、倫子ちゃんがスフィの母親役をやればいいんじゃないの? お姉さんでもいいけどさ。一緒にいるんなら影響を受けるのは当たり前だし、三門にゃんに女の子らしく育ててほしいって望むのは違うでしょ。それが嫌なら倫子ちゃんが自分でどうにかするべきだよ」
塔子の強い口調は倫子の思考に変化をもたらした。言われてみれば、その通りだ。傍観者のままで口を出すのは卑怯者に思えてきた。
「そうですね。文句を言うだけなのはよくないですよね。ちょっと私ずるかったです。うん。決めました。スフィが道を誤らないように、私も頑張ります!」
スフィの近くにいるということは、霞のそばにいることを意味する。大学に入学してからの短い期間で倫子の変化を感じ取っていた響は、塔子の手のひらで踊らされているような倫子を心配してため息をついた。
「でもさ、倫子もなんだかんだ三門先輩の影響受けてるよね。ちょっと似てきてない?」
「ええぇぇ、うそでしょぉ?!」
響の言葉に倫子の表情は凍り付き、塔子は腹を抱えた。




