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第19話 スフィと初ライブ配信


 さあ、いよいよ配信開始だ。なんか既に百人くらい待機してるけど、思い切ってやるしかない。どうせ今日は挨拶して状況の説明だけだしな。あとは流れ次第か。


 <幼女はよ>

 <幼女はよ>

 <始まってないのにコメント早すぎw>

 <三門霞4ね>

 <コメント気を付けた方がいいぞ。偉い人も見てるらしいし>

 <犯罪者予備軍はここですか?>

 <これ何時から?>

 <幼女まだぁ?>

 <キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!>

 <まだ来てないぞ>

 <おっさん乙ww>


 配信をスタートし、画面に俺とスフィの姿が映った。その瞬間、一斉にコメント欄が”幼女かわいい”で埋まった。スフィはとぼけた様子で俺を見つめている。


「あ~皆さん、こんばんわ、初めまして」


 俺が言葉を発してもスフィに対するコメントが止む気配がない。俺なんて眼中にないんだろう。彼らの目的はあくまで幼女の幽霊だけだ。分かってたことだけど。


 スフィは霧島が持ってきたカメラにくっつきそうなほど近づいたり、パソコンの画面をのぞいている。このままじゃ話が始まらない。とりあえず、スフィにも挨拶してもらうか。


 スフィに耳打ちして指示を出す。スフィはそれに応えてカメラに視線を向けると、姿勢を正した。


『こんばんわ。スフィ、だよ』


 <こんばんわ~>

 <声もかわええなぁ。完璧すぐる>

 <スフィっていうのか>

 <よろしくね>


 視聴者はとりあえず紳士の仮面をかぶってくれてる人が多いようだ。ちょっとコメントが多すぎて追いつけない。霧島がNGコメントの設定をしてるのか、忙しそうにしている。


 <マジで人間と変わらなくて草>

 <ホントに幽霊なの?>


 質問が来てるけど、とりあえずは予定通りに進行しよう。


「え~っと今日はですね。とりあえず急遽配信することになったんで、自己紹介と経緯について話します。その後で質問があれば受け付ける感じかな。じゃあ、俺からだけど、みんな興味ないと思うんで簡単に」


 自分で言ってて、ちょっと切ない。


「三門霞、大学生。これでも認定探索者です。一応昔から続く霊能力者の家系で、腐界とつながる前から除霊の仕事をしてました」


 <おk>

 <次の方どうぞ~>

 <表情硬いよ。もっと楽に話して>


 興味なさそうなコメントが多いけど、優しいのもある。塔子先輩かな?


「それで、みんなだいたいの経緯は知ってると思うけど、この子が腐界で出会った子で、大学の先輩たちに相談してスフィって名前になりました」


『ん』


 <なんで胸張ってるの?w>

 <誇らしげで草>

 <スフィちゃんかわいい>


『ちゃん、いらない』


 スフィはコメントを呼んだのか、すぐさまアピールする。ムキになるところがまだまだ子供なんだよなぁ。


「スフィは大人ぶるので――――」


 俺の言葉が気に食わないのか、配信中なのにスフィは左の頬を摘まんできた。


ほぉらん(御覧)の通りなんで、普段から呼び捨てにしてます」


 <怒った幼女かわいい>

 <痛いなら俺と代われよ>

 <仲良さげで草>


「スフィの正体については、よく分かってないんですよね。普通の幽霊とは違う感じがするんだけど、どう違うかって聞かれるとちょっと説明が難しい。でも俺が断言できるのは、スフィに凄い力があるのは確かなんだけど、俺の中に入っても別に憑りつこうとしてくるわけじゃないし、その必要もないってこと、かな。俺以外の人と会っても全然そんなそぶりないし、家族が増えたなぁって思うくらいで」


 <なんか普通の幼女だよな>

 <幼女は安全だと結論が出ました>

 <大事な説明省くな。幽霊が中に入ってきたら普通憑りつかれるはずだろ>

 <なんで三門は大丈夫なのか説明しろよ>

 <情報共有は大切>


 それもそうか。別にそこは隠したいわけじゃないしな。


「え~っと、政府の見解と違うとこもあるから、あくまで個人的な見解ってことで話します。人間の体には霊幕っていう薄い膜があって、バリアみたいに霊的な衝撃から守ってくれたり、幽霊が憑りつくのを防いでくれたり、体の形を保つ役割を持ってるんだ。憑りつかれた場合、その幽霊の形に近づいていくけど、霊幕がそれを防いでくれるんだよね。俺の場合は修業で霊幕を鍛えてるから、幽霊の影響を受けにくいんだ。スフィが力を抑えてくれてるのも大きいと思うけど」


 <なるほど分からん>

 <日本語でおk>


「けっこう昔の話だと、人間の姿をした幽霊が魂が傷ついた犬に入ったとしたら、顔が変形して人面犬って呼ばれるようになったとか。あとあんまり事例はないんだけど、幽霊の力が強い場合には人面岩にもなったりするよ。カタストロフの時にもそんな話があったでしょ?」


 <確かにあったな。当時は忙しくてあんま気にしてなかったけど>

 <俺らも霊幕ってのを鍛えれば、幽霊に憑りつかれても平気になるのか?>

 <いや、三門は昔から続く家って言ってたじゃん。無理無理>

 <三門はどうやって霊幕鍛えたんだよ>

 <なんか普通に勉強会になってて草。面白いからいいけど>


「霊幕の鍛え方かぁ。別に特に変わったことはやってないかな。霊力の強い人に霊力をぶつけてもらって鍛える感じだよ」


 <ただのマゾだな>

 <やっぱ、受けじゃねーかww>

 <三門霞(M)>

 <じゃあ、なんでスフィが入ってきたとき喘いでたんだよwww>

 <露骨に表情変わってて草>

 <あんまりイジメると配信終わっちゃうぞ>


 腐界管理局からの要請だから、ちょっとぐらいきつくても配信は止めないよ。


 コメント読んでる俺と違って、スフィはカメラに引っ付いたり離れたりして、PCで自分の姿を確認して遊んでる。これならスフィ目当てに来た視聴者も大丈夫かな。そのうちエスカレートしていきそうだけど。


「霊幕の内側に強引に入られたのって、実はあの時が初めてで、結構びっくりしちゃって」


 <だからって喘ぐかよwww>

 <実はって、そこまでお前に興味ないけどなw>

 <そんなことより、読み上げソフトくらいいれとけよ。チラ見うざい>


「読み上げソフトかぁ~」


 霧島の方を向くと、頷いてキーボードを叩き始めた。これは入れた方がいいのかもな。


「今いれるんで、ちょっと待っててね」

『いれる? スフィのこと?』

「そこに反応しなくていいからっ」


 <いれる、って言葉に敏感になりすぎだろw>

 <必死すぎwww>

 <幼女にいじられてて草>


『カスミ。だれと、はなしてるの?』


 あれっ、スフィは配信のこと理解してない?

 もしかして、説明したつもりで忘れてたかも。


 <これ配信の意味分かってないよなw>

 <無垢な幼女で稼ごうとする男を許すな>


「え~っと、この箱の向こうには沢山の人がいるんだよ。電話と似たようなものだな」


 スフィは説明に納得していないのか、頬っぺたを膨らませている。


『また、うそついてる』

「痛っ、痛いから、つねるの止めて」


 <幼女あるあるww>

 <俺も娘に冗談言ったらああなったw>


 霧島が指でオーケーマークを作ってる。読み上げソフトのインストールが終わったようだ。いったん仕切り直すか。


「それじゃ、準備できたんでテキトーにコメントしてください。スフィ、ちゃんと聞いてろよ」


『ほんとに、だれか、いる?』


 <いるよ~>

 <スフィ見てる~? 私だよ~>


 霧島が気を利かせてくれたのか、複数の自動音声がローテーションで聞こえてくる。スフィが驚いてるな。


『カスミ、うそついてなかった。ごめんね』


 スフィは俺にペコリと頭を下げた。


 <ちゃんと謝れてエライ>

 <普通に人間っぽいなw>

 <幼女に謝罪させる外道を許すな>

 <これはちゃんと説明してなかった三門が悪いわ>


『カスミ、わるくないよ』


 <そだね~>

 <悪いのは俺らだったわ>


 180度方向転換の全肯定はちょっと笑えるな。スフィが話すなら俺はちょっと黙っておこうかな。


『みんな、カスミのこと嫌いなの?』


 <嫌いじゃないよ~>

 <俺らツンデレだからさ>

 <むしろ仲がいいからこそ、乱暴な言葉使ってる感じ?>


 スフィが見知らぬ他人と普通にコミュニケーションをとっている。これまでの人見知りを思えば格段の進歩だ。ちょっと感動してきた。でも、まだ表情が硬いな。


『みんなも、カスミの中、入ればいいのに。カスミの中、あったかくて、きもちいいよ』


「ちょっ、それ、マジ止めて!」

『なんで?』


 慌てて懇願するも既に時遅し。コメントは加速していた。


 <やっぱコイツ人類の敵だわ>

 <三門霞マジ4ねよ>

 <低評価おいときますね>

 <俺おっさんだけどホントに入っていいの?>


 俺への非難の声が続くなか現れた、自分も入りたいというコメント。ムスっとしていたスフィが、みるみるうちに明るくなっていく。


『入っていいよ』

「絶対ダメだから!」

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