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第14話 先輩とおしゃべり


 講義を終え、中に隠れたままのスフィと一緒に部室にやってきた。途中で知らない学生たちがカメラを向けながら声をかけてきたけど、そんなのは全部無視だ。礼儀がなってない奴と話す舌など持たないのだよ。


 それにスフィは倫子ちゃんたちとは上手くコミュニケーションをとれたけど、人見知りは継続中だし、なにか言われてスフィが癇癪起こすような事態になったら、それこそ何が起こるか分からない。今は昨日と同じようにカーテンの隙間からこっそり外の様子を窺っている。


三門みかにゃん。もう来てたんだ」

「お疲れ様っす」


 講義を終えた塔子先輩が部室に入ってきた。俺と塔子先輩は、学外でのプライベートには一切干渉しないし、SNSでの連絡もしたことがない。やりとりは部室での会話だけ、というアナログな間柄だ。


 勉強を教わりたい時は部室で待つ。その代わりに幽霊のことについての質問に俺が答える。来なかったら、あきらめて帰る。そんな一昔前のような、のんびりした時間を共有するのが心地よくて、梅雨が明けた頃には部室に入り浸るようになった。


 といっても、二人の関係が何か変わったわけじゃない。一緒の部屋にいても、挨拶くらいしか会話を交わさないこともあるし、逆にバカみたいなことを話し続けることもある。


「そういえば、二人は来れないって連絡ありましたよ」

「別に連絡なんていらないのにね」


 みんなで集まって何かをするようなサークルじゃないから、連絡しなくてもいいのに、とは思う。人数が増えていくのなら、気にする人もいるだろうし、そうもいかないのだろう。変わっていくのがちょっとだけ残念な気持ちもある。


 でも、来ないと分かったので、タイミングとしてはちょうどいい。昨日のことについて塔子先輩に話すことにした。


「――――というわけで、倫子ちゃんとの関係は次のステージに進みました」

「なんだか、煙に巻かれた感じだね。でも、ちゃんと告白できたのは偉いよ」

「あざす」


「それで三門にゃんは、これからどうするつもりなの? あきらめるつもりなんてないんでしょ?」


「そりゃ、当然そうですよ。まだ始まったばっかなんですから。でも、このまま一緒の時間を過ごしても進展しそうにないじゃないですか。俺よりスフィのことが好きそうな感じなんで。そうなると、この後どれだけアピールしても、それで俺のことを好きになったとしても、倫子ちゃんはスフィのために俺のことを我慢しちゃうと思うんです。それで、昨晩考えたんですよ」


「三門にゃん、前向きだなぁ」


「今の状況はあれです。赤ちゃんができたことで、母親の中で赤ちゃんが一番になっちゃったやつです。旦那のことも愛してるけど、そうもいってられない。旦那もそれを受け入れざるを得ない。別にそれでいいんです。家族三人で仲良くなればいいんですから」


「つまり、三門にゃんと倫子ちゃんとスフィで家族になろうとしてるんだね?」


「そうなんですよっ。さすが塔子先輩です。最初は、これじゃあ倫子ちゃんと恋人になれないな、って悩んでたんですけど、最終的には結婚にたどり着くわけですから、そこは省いてもいいかなって考え直して。どうですかね?」


「三門にゃんがそれでいいなら、別にいいんじゃない?」


「ですよね。スフィに俺たちのことをパパママ呼びしてもらえれば、倫子ちゃんも俺のことをより意識すると思うんです。スフィを倫子ちゃんを巡るライバルと捉えるんじゃなくて、味方になってもらえれば、これ以上の援軍はないですよ。完璧な作戦です」


「昨日の倫子ちゃんの様子だと、スフィを餌にすれば食いつきそうだよね。でも外堀埋めようだなんて、三門にゃんらしくない遠回りな作戦だよね。実現すれば、だけど」


「成長したって言ってください」


 でも、実現できるかどうかという塔子先輩の懸念はもっともなんだ。問題はそこなんだよなぁ。


「昨晩、スフィに提案したんですけど、にべもない感じでした。でも負けませんよ。長期戦も辞さない覚悟です」


「うん。それでこそ三門にゃんだよ。でもさぁ、三門にゃん、夫婦になるのはいいけど経済力がないよね?」


「そりゃ、今はまだ学生ですけど、いい企業に就職すれば、……って、駄目じゃん。六道さんとの交換条件で四年間は霊能力者として働くって言っちゃったし!」


 今の俺は学業の合間に腐界で救助活動したり除霊のバイトをしてる状況だ。高校時代から除霊の仕事を続けているけど、俺に仕事をくれるのが六道さんだけだから、仕事量はそんなに多くなくて稼げない。俺のふところは学費の返済と生活費でカツカツだ。


 今の状況で倫子ちゃんを幸せにできるかどうか。親御さんにしてみれば、感情的なものだけじゃなくて、目に見える収入も大事だろう。苦しい生活をさせるわけにはいかない。


「でも、大学に行きたかったんですよぉ。失われた青春を取り戻すために」

「そうだねぇ。三門にゃんはもっと人と交流した方がいいもんねぇ」


 幼い頃に家族を失った俺は厳しい祖父母の元に預けられた。その祖父母も中学入学直前に亡くなってしまい、俺は遠い親戚である六道さんに預けられることになったんだ。


 ところが、まもなく六道さんの離婚が決定。一人息子も霊能力者としての道を進むことを拒否して母親についていくことに。二人きりになったことで、俺は生活能力のない六道さんの代わりに全ての家事をやることになった。その反動か、今では即席料理が増えてしまったけどね。


 もちろん、霊能力者としての修業は継続だ。それどころか、それまで以上に厳しくなった。


 24時間は学校・家事・修業・睡眠でほとんどが埋められて、放課後に遊んだ記憶なんて全くない。当時は忙しいのと体力的にきついので、羨ましいなんて思う暇すらなかった。


 でも高校生になって修業が落ち着いたころに、周りから浮いてるのに気づいた。いや、それまでだって本当は気づいてたけど、見ないふりをしてたんだ。んで、楽しそうなのを羨ましくなって、大学にいくことをお願いすることにした。


 六道さんは了承してくれたし、学費を半分は出すといってくれた。残りの半分は除霊をして返せと。そしてもう一つの条件、それが大学四年間とその後の四年間は霊能力者として働くことだった。当時のバカな俺は、一も二もなく飛びついた。


 新卒という大事な肩書を捨てることになったのを気づいたのは後のこと。冷静になって、後悔したこともある。「四年間、何をしてましたか?」という問いに、「霊能力者として働いてました」と答えるのは大丈夫だろうか、不安がある。だけど、恩人に対して約束を破るというのは駄目だ。


 それに、大学に入ったからこそ塔子先輩に出会えたし、倫子ちゃんという運命の相手と巡り会えた。悪いことばかりじゃないんだ。


「不謹慎ですけど、ゲートの出現って、俺にとって結構なチャンスだと思うんです」

「そうだねぇ。幽霊を見える人が増えたから、霊能力者の仕事はこれからも増えるかもね。三門にゃんに回ってくるかは置いといて」


 除霊の速度的に他の霊能力者よりも数をこなせないのは、霊能力で金を稼ぐという意味では俺の弱点だ。霊力はぐっすり一晩眠れば回復するけど、俺の除霊には数日かかる。一番ひどい時は二週間くらい寝たきりで、危うく死ぬところだったこともある。


「そういえば今朝、腐界管理局から連絡があったんですよ。実は昨日の時点でスフィのことがバレてるよって連絡があったんですけど、それで話すことになってたんです。それが今朝になって、もう一人連れてきてもいいですかって聞かれて」


「ふうん、そうでどうしたの?」


「そりゃ、どうしても紹介したいって言われたら承諾するしかないじゃないですか。負い目もあるんで。この後、会うんです。でも俺には倫子ちゃんがいるじゃないですか。ちょっと気が引けるんですよ」


「気兼ねなく会えばいいと思うよ。そういう意味じゃないから」

「そうですかねぇ?」

「絶対そうだよ。たぶん霊能関係の人じゃない? スフィのこと知りたいんなら」


「なるほど。そんな気がしてきました。でも俺、あんまり他の霊能力者って知らないんですよね」

「閉じた世界なのにね」


「横のつながりはあるけど基本個人事業主なんで、地域が違えば、ほとんど会いませんから。俺の場合は六道さんを経由してるから猶更ですよ」

「これを機に、知り合い増やしていったらいいと思うよ。三門にゃんなら大丈夫だから」


「っす。んじゃ、そろそろ戻ります。スフィ、家に帰るぞ」

『ん。とうこ、またね』

「うん、ばいば~い」


 スフィが塔子先輩を真似して小さく手を振った。まさか、スフィが塔子先輩に挨拶するなんてな。なんだか成長を感じられてうれしいぞ。塔子先輩は幽霊のことには興味津々だけど、スフィとは距離をとってるから、優しいお姉さんに見えてるのかもしれない。倫子ちゃんは悔しがるだろうな。

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