第13.5話 サジェスト汚染
告白という一大行事を終えて自宅に帰ろうと駐車場に向かっていると、他の学生が俺のことを見ているような気がした。いや、久坂が変なこと言うから、意識しちゃってるだけだ。きっとそうだ。
それでも言いようのない不安に駆られて、急いでバイクに跨った。もしかして、昨日の腐界でのことが広まってるのか。あれからまだ少ししか経ってないから特定なんてできてないはず。
それに話が広がっていたら腐界監理局から連絡があっただろう。勝手に幽霊を連れ出してどういうつもりだって。それなのに、まだ連絡はない。にも拘わらず、嫌な予感が増してきてる。先ほどまで熱くなってた体がウソのように冷えていってるんだ。
無事に自宅に戻った俺は、夕食の準備をすることもなく、急いでパソコンを起動した。ブラウザを開いて自分のフルネームを入力した瞬間、何が起きたのか理解した。
「こんなの、俺みたいな底辺霊能力者にする仕打ちじゃないよ」
俺を落ち込ませたのは、酷過ぎるサジェスト汚染だった。
”三門霞 ロリコン”
”三門霞 幼女好き”
”三門霞 誘拐”
”三門霞 4ね”
”三門霞 ぁん”
”三門霞 受け”
”三門霞 狭い”
腐界での状況を考えれば、一万歩譲ってロリコンだと誤解されるのは理解できた。だけど、”受け”とか”狭い”は、どうしても納得できない。納得したくなかった。久坂は部室を出る前にこれを見ていたんだろう。ひょっとしたら、倫子ちゃんも既に知らされているかもしれない。
でも、誤解される前に説明できたのは良かった。それだけが救いだ。画面を下にスクロールしていくと、先ほどとは違うショート動画を発見した。
スフィが離れてることを確認して、恐る恐る再生する。動画はスフィに中に入られた俺が繰り返し喘いでいるように編集されていた。
こんな動画が100万再生だと?
これじゃ俺が、まるで俺が、同人誌のヒロインみたいじゃんか!!
ひどい。これは酷過ぎる。
うなだれてるとスフィがちょんちょん肩に触れてきた。
『カスミ。でんわ、だよ』
スフィは電話を覚えたのが嬉しいのか、笑顔でいっぱいだ。スフィにこんな動画を見せるわけにはいかない。ノートパソコンを閉じて通話を開始した。
「はい、三門です」
「もしもし、三門さんですか。私、腐界管理局の神田と申します」
げぇ、よりによって腐界管理局かよ。なにも落ち込んでるタイミングでかけてくることはないだろ。向こうにとっちゃ関係ないことだろうけどさ。
「実は三門さんに確認したいことがありまして。そうですね、明日17時ごろ、そちらに伺ってもよろしいでしょうか?」
「そ、それはどういったご用件でしょうか?」
「実はタレコミがありまして。心当たり、ありますよね?」
丁寧だけど、すごい圧を感じる。でもここで嘘をつくのはマズい。間違いなくスフィを連れ出したことは知ってるだろう。
「まあ、それなりに」
「幽霊の少女は今はどうしてますか? 大人しくしてるんですか?」
「今のところ被害は全然ないです。俺の目の前にいて、一緒に聞いてます。スマホに興味があるみたいです」
「そうですか。とりあえず周囲に被害がないようで安心しました。いえ、別に法律的にどうこうではないんですが、我々も上に報告する必要がありまして。どうか、協力していただけないでしょうか?」
神田さんは極力丁寧に伝えてくれているように思う。でも俺はそれが怖い。もちろん、拒否する選択肢なんて俺にはないわけだけど。
「わかりました。予定を開けときます」
「お願いします。いやぁ、我々としましてもなにぶん前例のないことですから、三門さんの意見も伺いたいということになりまして。協力していただけるようで安心しました。それでは、また明日よろしくお願いします。失礼します」
電話を終えてベッドに突っ伏してると、スフィが髪を撫でできた。昨日も同じことがあったような気がする。
『よしよし』
優しさが染みるな~。でも、これじゃロリコンは誤解だとアピールすることができない。
「スフィ、ありがとな。おかげで元気になったよ」
『ん』
腹も減ったし、飯でも作るか。サジェスト汚染なんかに負けてたまるかよ。




