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私にできること

 翌朝、まだ暗い内から沙苗は目覚めたが、そのまま布団の中でうだうだと雨後素。

 いつもなら目が覚めるなり起き上がるはずの沙苗が一向に動かないのを心配した木霊たちが、沙苗の顔を覗き込んでくる。


「……そうだね。せっかく台所、お掃除もしたんだけどね……でも、私の料理ではきっと、景虎様は満足していただけないもの。昨日の朝にたべたうどん、それから夜に食べた牛鍋もすごかった……」


 思い出すだけでつばがでてくる。あんなすごい料理を食べてしまったら、一体どんな料理を作れば、景虎に満足してもらえるのだろうか。想像もつかない。仮にそういう料理があったとしても沙苗の腕ではどうしようもないはずだ。


 ぎゅう、とお腹が鳴った。


「……せっかく綺麗にしたんだし、私はなにか食べないとね」


 木霊たちに励まされた沙苗は布団から這いだした。

 そして浴衣から着物へ着替えると、台所に立ち、早速、昨日購入した材料を使って朝食を作りはじめる。

 お釜でご飯を炊き、その間に味噌汁をつくる。それからめざしを二匹ほど焼く。

 焦がさないよう気を付けつつ、味噌汁やお釜が吹きこぼれないように注意を払う。

 味見をする。


 ――うん、ばっちり。


 後ろから足音が聞こえて来たのに気付いて振り返ると、軍服姿の景虎だった。その手には日本刀。


「おはようございます、景虎様」


 沙苗は深々とお辞儀をした。


「ああ……。何を作っている」

「朝食を……」

「俺は外で食べると言ったはずだ」

「もちろん承知しております。私の分でございます」

「そうか。ならいい。金は居間においてある。好きなものを食べろ」

「かしこまりました」


 その直後、玄関かた声が聞こえた。


「大佐殿、お迎えに上がりました!」

「大佐……?」

「俺のことだ」


 景虎のあとにつづいて、玄関へ向かう。

 景虎と同じ黒い軍服姿の青年がいた。その顔には少年ぽさが残り、人懐こい笑顔の青年だ。青年は、沙苗を見るなり、体を九十度に曲げ、深々と頭を下げた。


「お初にお目に掛かります、奥様。私は三船と言います。天華大佐の秘書を務めております!」


 深々と青年にお辞儀をされ、沙苗も倣った。


「沙苗と申します」

「まだ結婚はしていない。婚約者だ。三船、さっさと行くぞ」

「はっ」

「帰りは遅くなる」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 沙苗は門前まで見送る。

 外にはとまっていた馬車に二人が乗り込み、出発するまでを見届けた。


 家に戻ると、朝食を食べる。

 ご飯もしっかり炊けたし、味噌汁のだしもうまく出ている。魚も美味しい。

 でもこんなものは景虎にはとても食べさせられない。


 ――こんな私を受け入れてくださった景虎様のために出来ることは……。


 食事を終えて洗い物をしていると、木霊たちが話しかけてくる。


「あ……そうね。掃除はいいかも。たしかにこれだけ広いおうちを、お仕事で忙しい景虎様が一人で綺麗にできるはずないものねっ」


 これだけ立派なお屋敷なのに、汚れたままなのはさすがにもったいない。

 料理では満足してはもらえないかもしれないが、掃除なら。

 家が切れになってさすがに文句は言われないはず。


 沙苗は掃除道具を引っ張り出すため、さっそく納戸へ向かった。

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