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生き残る手段

とある深夜番組みたいに、決して結論など出ない無意味な討論が村人達の間で続いていた。

そう提案したのは俺だったが、こうも長いと飽き飽きしてくる。

そもそも意見とは個人個人で違って当然のもの。洗脳でもされないか、カリスマ性溢れるリーダーの存在がないかぎり、多種多様に分かれて当然だった。

似たようなものがあったとしても、いずれ個人の都合によって変化されていくからだ。

例えば日本における左右政治思想なんかが、これに当てはまっている。 

単純に、左右の二極には分かれていない。

最初は同一方向であったとしても、必ず『極』とか『中道』とかと、それらしい名目を付けて分かれていった。

更には、それらの中から『派閥』や『グループ』と細分化され、民衆には理解が難しい状況となってしまう。

もっと言えば、将来的には細胞分裂のように、際限なく増加の一途を辿っていくのかもしれない。

国民のために、明確な答えを出さねばならない政治の場においてでさえ、こうなってしまうのだ。

政党一致で、結論に達しました! なんてのはまやかし。 権力にって捻じ曲げただけだ。

よって結論なんてものは、簡単に出せるはずがない。 


しかし現在の俺は『聖人』と呼ばれている手前、微笑みを浮かべながら聴いているしかなかった。誰の意見にも頷く、そんな曖昧さを醸し出しながらだ。

そういう態度を示しておかなければ、いつまた誰かに疑いをかけられて、命を狙われるかわからない。

『聖人』とは片方に偏ってはいけない存在、誰にでも『公平』でなければならないからだ。 

まるで『蝙蝠』のような役目だと思っているから、そのようにしていた。

ここは直感が重要視される世界 怪しいと思えば、すぐに消去してくる恐ろしい世界なのだ。 

不本意ながらも従うしかなかった……。


なによりも、食料庫が燃やされてしまっている。

各家庭の貯蔵分を考えても二日が限界。

それらが無くなれば、ただ体力と生命を削られるだけの日々が続いていく。

いわば、もうすぐそこに死が迫っている状況。 

だからこそ、もがきあがくのは人として当然の行為だとも思って聴いている。


もちろん俺は俺で、この不毛な時間を利用し、どうやって自分だけは生き残るかを考えていた。 というか……もう一応だが考えついてはいる。

これは、熱狂しながら観ていたファウンドチャンネルで野生動物が行っていた手段、彼らが編み出した生き残る方法を参考にしたのだ。

アフリカの野生動物達は、川を渡る際には必ず集団行動でなければならず、それが生き残っていく鉄則となっている。

何故なら、肉食獣であるワニが多数待ち構えており、水源地とは縄張りであり狩猟の場となっているのだ。

そんな手薬煉(てぐすね)状態のところを通過する時には、少数を生贄にして多数を生かす方法を必ず選択をしていた。

犠牲は覚悟の上、野生動物達にとって捕食の対象に選ばれないとは、立派な戦術であり強さの表れなのだ。

それを参考に、俺は作戦を立てていた。


コイツらを囮にし襲われている間に逃げよう! ……なんて簡単なものじゃない。

この勢力差では、全員が殺戮の対象として扱われているだろう。

だから囮にはするが、俺自身は村で隠れているつもりだった。

そう、見つからなければ対象にはならない。

逃げても無駄なら、見つからずにやり過ごすが、この場合に一番肝要となるからだ。


そして一番の問題となる、どこに隠れるのか⁉︎ だが、既に見つけてある。

食料庫が燃やされた後、まだ食えそうな物が残っていないか探していた時に、地下室を見つけていた。

緊急の食料庫としていたくらいだ。 普段から、あまり使われていない納屋だったのだろう。

その存在には、誰もが気がついていない様子だった。

しかも放火された後の場所、ゴブリン達にしても、そんな所に隠れているとは思いもしないはず!

これなら、生き残れるチャンスが大きくなるはずだ!


だが、一つ懸念があった。

放火されていた時、何故かしら俺に向かってゴブリンが襲いかかって来たことだ。

明らかに俺に狙いをつけて、飛びかかってきていた。

どこかで恨みを買ったのか⁉︎ それとも何かやらかしたのか⁉︎

いや、それは絶対に無い! そんな、目立つようなことをする俺ではない! 

だから、まったく検討がつかない!

まぁ良い、どのみち見つからなければ良いだけの話だ。

その内に諦めて、どこかに行ってしまうだろう!


こう多寡を括っていたが、結局は出来なかった。

それは、俺自身が甘かったからだ。



―――――――


ショックとしか言いようのない伝令を受けたゴブリンが、腹を抱えて蹲った。

憎きオークの豚野郎からである、こんな屈辱はない! そう屈辱感を感じれば感じるほど、比例して胃を削っていった。

しかもだ、この伝令を務める豚野郎がムカつく。おそらくオーク族リーダーの副官あたりなのだろうが、役目を終えた途端に調子に乗って本来の喋り方になった。


「ねぇねぇ、悔しいかブヒ⁉︎

僕達オークは魔王様のために先陣を切って、只今ゾンビ達と戦闘中ブヒ! やっぱりオークの方がゴブリンなんかよりも上ブヒ、さぁ認めるブヒよ!」


ブヒ・ブヒと言われるたびに、胃が抉られていくような気がしてきた。 いや実際に、かなり痛くなっている。

ぶっ殺して焼き豚にしてやる! そう思ったが、焦る必要はない。

こういう事態に備えて、しっかりと『言い訳』を作ってある。 

だいたい、こっちはこっちで魔王様のために動いているのだ。

戦術理論から考えても、もっとも恐ろしいのは挟撃と各個撃破となるはず!

俺達ゴブリンは魔王様のために、剣技最強と恐れられるギルノールと対峙して、後方の安全確保をしているのだ。

第一、俺は『ゴブリンキング』になると言われるゴブリン!

何も恥じることなどない!


ゆっくりと顔を上げて口を拭い、仕切り直す。

もちろん、この豚野郎が非礼な口調でも、あくまでも冷静に丁寧さを意識してだ。

自分達はゴブリン、無能で無礼なオークとは違う。


「使者殿。 我々ゴブリンは目下、ヴァンパイヤの女王が配下ギルノールと相対しております!

いわば挟撃や各個撃破の可能性を警戒してのこと! ぜひとも魔王様に、この危機を御伝え願いたい!」


「ギルノールってブヒ……あの大昔の剣技最強のブヒ?」


ほらほら、焦った顔をし出したぞ!

何が偉そうに、オークは先陣を切っただ⁉︎

馬鹿みたいに、突っ込んでりゃいい訳ないだろ!

こっちはなぁ、すべての戦況を察して動いてんだよ!

この、考え無しの浅はかな豚が!



こう思えて確信した時だけは、胃の痛みが軽くなった気がする。

あれ、もう治ったんじゃね⁉︎ なんか腹も減ったしな!

とさえ思えた。


だが、これは一時的なことだ。

次のオークの言葉が、更に胃を抉り出す事態にな

る。


「な、何言ってるブヒ? 

ギルノールなら前線で戦っているはずブヒ!」


「ええぇぇーー、そんなはずが⁉︎」


「そんなこんなもないブヒ。

現在も戦ってるはずブヒよ!

見たとか言ってたブヒ。」


嘘だ、嘘だ、嘘だー! だってギルノールは、あの村にいるはずだ!

こっちは偵察まで入れて……えっ、まさか間違えてた⁉︎


強烈に襲いかかる胃の痛みに耐えながら、使者には礼義正しく所作をして席を外し、副官と小声で話した。


「おい……確かにギルノールを見たんだよな⁉︎」


そう聞かれた途端に副官はギョっとした顔付きになり次第に、コイツは何を言っているんだ⁉︎ という表情になった。

それを見て察した、いや思い出した。

コイツは危ない人間を見たとは言っていたが、ギルノールだとは一言も言っていない……。 

そう、曖昧な情報で推測し断定したのは俺だった……。


これはヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイぞー!

どうする、どうする、どうする……そうだ!

コイツに、この副官に全ての責任を押し付けてしまおう!

とにかく責任の所在、その筋書きを考えて説明さえすれば、どうにかなるはずだ!


しかし、この一瞬の間に副官は副官で雰囲気が怪しく変化していくのを感じていた。 

元来からの臆病、周りの気配の変化と一瞬の表情の変化だけでも、敏感に察知することが出来るのだ。

そうでないと、臆病者は生きていけない。

途端に、全てを察してしまった。


あっ、コイツ……俺に全責任を押し付ける気だな! このクソ野郎……そうはさせるか! 

でも反論されると、話が面倒くさいことになる。ならば先手必勝、先に話を付けてやるしかない!

何の罪もないのに、コイツに切られて堪るか! 切るのは、こっちだ! 

もしダメでも、死ぬば諸共だ!


生き残る、または逃亡手段の選択となると、臆病者は頭の回転が早くなる。

そうでなければ、絶対に危機回避など出来ずに死ぬ。


すぐに余裕綽々な態度を作り、先に使者に歩み寄った。


「使者殿。 

オーク軍は、先陣を切ったとおっしゃられてましたよね?」


「そうブヒ!」


「ならば、前線にいるはずのギルノールとは戦闘中なのですか? それは実に勇敢な!」


「えっ……そ、そうブヒ! オーク軍はギルノールと戦っているブヒ!」


「しかし本当に、あの剣技最強のギルノールですか?」


「ブヒブヒ! 疑っているブヒか?」


「いや、我々ゴブリンはギルノールの顔すら見知っておらなかったので、どうやってギルノールの顔を見知ったのか不思議に思いまして。 

また、どう戦っているのですか? ぜひ後学のためにも御教授願いたい」


「そ、そ、そんなの簡単ブヒ……」


「簡単ですか。 相手は剣技最強、まさか犠牲者も出さずに?

まぁ、それは我らが合流後にでも確認させて頂きますか、もちろんオーク軍への戦勝祝いも兼ねて!」


「それは……ブヒ……ブヒ」


やっぱり焦った顔を出しやがった。

コイツ、嘘言ってやがるな! やたらと言葉尻に『はず』や『とか』とか付けていたからな。

先陣は切っているかもしれないが、ギルノールとは戦っていないのは間違いない。

ならばコイツは顔を知らないはず、まだ生き残るチャンスは十分にある!


「では、使者殿に聞きます」


「なんだ……ブヒ⁉︎」


「ギルノールは、元がエルフ。

しかし現在はゾンビにされ、その容貌も大昔からは変化もしているはず。

これは他のゾンビ達を鑑みても明らかです。

ではオーク軍が戦っているギルノールは、本物のギルノールで間違いないのですか?」


「それは……ブヒ」


「本当にギルノールでしたか?」


「……ブヒ」


これで完全に詰まったな。

こうなると、馬鹿は絶対に有耶無耶にしようとしてくるか、話を逸らそうとしてくるはず。

さて、どっちに出る?


「じゃ、じゃあブヒ! ここのどこにギルノールがいるブヒか? 相対してるって言ってたブヒ!」


そっちに来たか……よしよし、誘導に引っ掛かってくれたな。 

じゃあ、この間から気になってた人間を使ってやるか!


「使者殿……静かに。

我らゴブリン軍は、今もギルノールに監視されていますから……」


「監視されてるブヒ⁉︎」


「気付かれぬように、村にある高い塔を見て下さい。 絶対に、それとなくですよ」


使者が、おどおどしながら村の高い塔、教会の方を見る。

すると確かに、1人の人間の男が、こちらを眺めていた。

当然ながら、すぐに怒り出した。


「おいブヒ、ただの人間が見てるだけブヒ!

お前はブヒ、あれがギルノールっていうブヒか⁉︎」


「そう、あれこそ現在のギルノールらしいです。

元はエルフ、やはり血は恐ろしい。

その聖なる血がゾンビ化を完全とは言えずとも阻害した結果、人間に近い姿になったみたいです」


「何を馬鹿なことをブヒ!」


「そう、まったくもって馬鹿みたいな話です。

しかし、あの人間みたいな奴が発する鋭い眼光のおかげで我らゴブリンが動けぬのも、また事実。

使者殿ほどの優秀な御方なら、おわかりになるでしょ?」


「おいおい大袈裟なブヒ、僕が優秀ってブヒ!

そうだな、本当だブヒ、あの眼光は鋭いブヒ! 

でもなぁブヒ、あれがギルノールだとはブヒ……」


そう言われると悪い気はしないだろ。

やっぱり馬鹿は、煽てて(おだてて)おくにかぎるからな。

それに、今は肯定と否定の合間を漂わさせるだけで良い。

下手に、どちらかに転ぶと俺がヤバイことになるからな。

肯定されると、ギルノールじゃないとバレた時がまずい。 嘘を言ったと、いずれは魔王様に殺される。

否定されると、すぐにコイツ(リーダー)に殺されてしまう。 自分が助かる言い訳の一つにされる。

だったら、今は曖昧にしておくのが一番有効だ。

時間は稼げるからな!


それから……可哀想だが、あの人間には死んで貰うか。

そろそろ一当て(ひとあて)くらいはしておかないと魔王様への言い訳も立たないし、ジロジロ見やがって鬱陶しいしな!


そう笑顔を出しつつ、腹黒なことを思案していた時、上機嫌の使者が笑顔で、現在もっとも必要としている返事をくれた。


「とにかくブヒ、一度本陣に戻って魔王様の御裁断を受けるブヒ!」


「そうですか、良しなに願います。

ならば、せめて食事の御用意を致します。

おーい、使者殿に御案内を!」


「ご苦労ブヒ!」


こうして、なんとかだが危機は去った。

しかし、また二つの問題が発生してしまう。


一つは危機的状況を脱しはしたが、曖昧としたおかげで、極度の不安とストレスからリーダーが限界を迎えて、部下達に八つ当たりを始めたこと。 

しかし、こんなのは些細なことだ。

もう一つが大問題となる。

それは使者が案内されて食事に向かった時に発生した。

あの人間は本当にギルノールなのか⁉︎ そう思いながら案内され歩いていた時だ。

なにやら数匹のゴブリンが上を見上げて騒いでいる。

あまり気にも留めなかったが、少し聞こえてきた。


「あの人間、確かにぶっ殺したよな⁉︎」


「何度も槍で刺して、何回も棍棒で砕いたのに、どうして生きているんだ⁉︎」


「絶対に大怪我は負っているはずなんだけどなぁ。 それがなんで塔の上まで昇れてるんだ⁉︎」


えっ……確かにぶっ殺しただと⁉︎

何度も槍で刺して、何回も棍棒で砕いた⁉︎

大怪我を負ったはず……塔に昇ってるって……。


再び人間を眺めてみた。

まじまじと見てみるが、どこからどう見ても人間だった。

でも、確かに怪我した様子は見られない。

コイツらは本当に、あの人間をぶっ殺したのか?

そう疑問に感じた、その時だ。


目が合った。 

何故か、ジッと見られている気がした。


まさか、あそこから俺が見えているのか?

いやいや、ここは人間からすれば離れてる位置になるはずだ。 それはない。

えっ、人間からすればって……人間じゃないのか……ええっ、まさか違うの⁉︎

もしかして、あの人間……本当にギルノールなのか⁉︎


ガタガタと身体に震えとなって、魔物としての本能が警告し始めた。

単に目が合っただけ、だが確かに鋭い眼光のような気もしてきた。

だいたいだ、ぶっ殺したはずの人間が生きて高い塔に昇っている!

顔を見ても、平然として痛みも無さそうだ。

魔物や魔獣、いや魔族だって槍で刺され棍棒で砕かれれば、かなりの痛みはある。

それが、あの人間には無いだと⁉︎

痛みが無く、行動も出来るって……ゾンビしか……。 

えっ……ギルノールなの⁉︎


本当なのか、やっぱりギルノールなんだ!

本当にギルノールだったんだ!

これはヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイぞー!

どうする、どうする、どうする……挟撃とか各個撃破とか訳のわからないこと言ってたな!

でも、とにかく急いで報告だ!


こうして食事を断り、使者は大急ぎで帰っていった。

しかし、この報告は魔王軍本隊すら混乱させることとなる。

何故なら、ギルノール自身の所在を本隊すら未だ掴んでいなかったところへの報告だったからだ。

そして軍議が重ねられた結果、魔王軍は已む無く(やむなく)撤退が決定された。


ちなみに、この決定はゴブリン軍には伝達されていない。

挟撃を恐れた魔王が時間稼ぎと足止めの目的で、伝令を送らなかったのだ。

これも魔王が生き残る手段。

そう、ゴブリン軍は見捨てられた。










































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