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『ゴブリンキング』になるかもしれないゴブリンの苦労

お前らなぁー、クドクドクドクド……!

だいたいなぁー、クドクドクドクド……!

それからなぁー、クドクドクドクド……!

……、クドクドクドクド……!


溜まりに溜まった鬱憤を、長々と『嫌味』という言葉に変えて吐き出した一匹のゴブリンがいる。

今までは散々我慢していたんだ! そんな怒りに満ちた表情を顕わにしての説教だった。

その彼の前には10余匹のゴブリン、副官そして部隊長と任命されたゴブリン達が、ウンザリした顔をしながらも、正座して聴いている。

一応、このゴブリン族のリーダーだからだ。

なによりも数あるゴブリン種族の中でも、もっとも『ゴブリンキング』という伝説の存在に、一番近いと言われている彼だから、黙って聴いてやっていた。

もちろん内心では怒りが充満し、こいつ殴ってやろうか⁉︎ とも思ってはいるが、立場上我慢しなければならなかったから仕方ない。

しかし、そんな様子には全く気が付いてはいない彼が最後に一言、これまた遠慮なしに一際大きな声で不満をぶちまけた。


「頼むから、言ったとおりに動いてくれよ!」


ようやくと抱えたストレスを解消したぞ!

そのはずだった。

しかし、途端に腹を抑えてうずくまってしまった。


「痛ってぇぇ……痛てぇーよ。 ちくしょー、胃が痛てえぇぇよー!

なんで俺が、こんな目に合うんだ……。

こんなの理不尽だろ……ちくしょうー、なんで俺が……」


この村を襲撃して以来、抉るように苦しめてきた胃痛が牙を向けたのだ。

これには心配して、すぐに副官が背中を摩ろうとしたが、手を振り払われて余計に怒らせる結果となってしまう。

これには、一瞬だけイラッとなったが、こうなった原因の一端は自分にもあると自覚をしていたから我慢した。


全ては、曖昧にしてしまっていたからだ。

なによりも彼等がゴブリンである以上、その欲望を抑えられずに命令を無視して、勝手に村を襲撃してしまったのが、事の始まりだったからだ。


こんな時は、どう言葉を掛けて良いかも、どう接して良いかもわからない。

そんな状況が暫く続いた後に痛みから解放されたのか、やがて駄々っ子のように暴れ泣き喚きながら、本心をぶちまけ始めた。


「ちくしょー! 俺は絶対に悪くないんだぁ!

俺さぁ、一生懸命に頑張ってただろ! 努力して勉強したおかげで、人語だって喋れるんだぞ!

お前ら、馬鹿だから喋れないだろ!

なのに、お前らの馬鹿さ加減のおかげで魔王様を怒らせてしまったんだ……。

俺は何も悪くないのに……お前らのせいで全てが台無しになったんだぞ……」


やり場のない怒りを、地面を相手に何度も叩いて解消させようとしていた。


だが、この際に副官自身は一つ思ったことがある。

汚ねぇぇ……コイツ、しっかりと責任転嫁しやがった!

こんなクソ野郎……見たことないぞ。


そもそも現在行われている村への襲撃は、当初の目的ではなかったのだ。

本当は魔王から命令されて、敵対するヴァンパイヤの女王への攻撃に参加するために、村の近くを通り過ぎようとしていただけだった。


魔王様に期待されるため、憎きオークなどのライバル的な魔物を出し抜いて、ゴブリンの有能さを示すため!

なによりも、自分が『ゴブリンキング』になるための、明るい将来のため!

だから、一刻も早く合流する必要性に迫られていたのだ。


しかし途中で、思いもよらないアクシデントに遭遇してしまった。

ただ通り過ぎようとしただけの村には、必ずあるはずのものが無かったからだ。

それは結界。 

通常、こういった小さな村には忌々しい聖職者がおり、きっちりと結界が張られて監理されているのである。

もちろん人間1人で行える程度のものだから、そうそう脅威になるものではなく、無効化しようと思えば簡単に出来た。

だが、これは防衛というよりも、伝達手段の役割が大きいものなのだ。

もし魔族や魔物もしくは魔獣が触れでもすれば、すぐさま中央に伝達される仕掛けとなっており、すぐに王国などの軍隊を呼び寄せる結果となる。

討伐されてしまうという、危険性を孕んでいるものだった。

だから、どんなに浅はかな魔物であろうとも、人族の村を襲撃するなんてのは滅多としない。

それが、この世界の常識になっている。


しかし、その常識外があった。

張られているはずの結界が無い村が、目の前にあるのだ。

しかも、『襲撃して下さい!』と言っているような理想的な小さな村。

何もかもが、ベストマッチしている!

こうなってしまうと、当然ながら魔物としての本能が刺激されてしまった。

蹂躙しなければならないという、血を求める本能がだ!


「おい、緊急イベントが発生したぞ! 襲うぞ、血の雨を降らしてやるんだ!」


あっという間に、ほぼ全員が狂喜乱舞になった。

だが、興奮し我先に襲い掛かろうとするゴブリン達を冷静に静止した者がいた、彼である。


「馬鹿野郎! そんなことしてる場合か!

俺達には悠長に遊んでいる暇は無いんだ!」


普通に考えて、こんなのはあり得ない。

こういった村には、必ず聖職者がいる。

もし現在結界を張っていないなら、すぐにでも張るだろう。

そもそも、そんな危険なリスクを犯すほど人間は馬鹿じゃないとも知っている。

それに結界が無いのなら別の防御策を講じているに違いなく、これには関わらないのが賢明だろう!


なによりも今は魔王からの命令が最優先で、一刻も早く合流しなければならないという最優先事項があるのだ!


「こんな村なんか無視して急ぐぞ!

魔王様の命令は絶対だ!」


こう一旦は残念がるゴブリン達を尻目に、行軍を再開させた。

だが暫くしてから、こうも思い始めてしまう。


もしかしたら、このまま放置して行軍させるとまずいことになるのでは⁉︎

まさか、罠があるとか……。

あの村にはヴァンパイヤの女王が隠れていて、俺達の背後を襲う気ではないのだろうか⁉︎


もう一度、よく村を眺めてみる。

どこにでもある、人族の小さな村だった。

結界が無いのに緊張感の欠片も無い、実に平和そうな村だ。


でも……これ、おかしくないか?

結界が無いのに慌てもしていない⁉︎  俺達ゴブリンが、こんなに近くにいるのに⁉︎

もう一度、じっくりと改めて眺めてみる。

大きく高い防御壁とか分厚い門がある人族の大きな町ではなく、屈強な戦士も勇敢な冒険者もいなさそうな、やはり小さな田舎の村だった。


これは、どういうことだ?

一応、調べておいた方が良いんじゃないのかな……。


それから深夜になるまで待ち、戦闘では役立たない臆病者を偵察役として選抜した。

すぐに興奮し襲い掛かろうとする血の気の多い奴では偵察なんて役目を果たせない、臆病くらいがちょうど良いからだ。


「観たままを俺に伝えるだけで良いからな。 絶対に襲い掛かろうなんて思うなよ!」 


そう何度も言ってから送り出した。


何も無ければ、行軍を再開しよう。

そう考えていたが、恐ろしい報告を受けるはめになってしまった。


「危なそうな人間が1人いました!」


「なに、どんな奴だ?」


聴くと、1人の人間が女神像に向かって奇声を上げたり、更には抱きついて舐め回したりと、狂ったような行動をしていたらしい。


「嘘だろ⁉︎

まさか人間が、そんなことを女神像に……」


「何を目的にしていたのかはわかりません。 

けど、かなりヤバイ奴なのは間違いないです!」


人間にとっての女神像とは、一番の敬愛を捧げなければならない対象のはずだ。

馬鹿にしたり、ましてや舐め回したりするなんて不敬以外の何物でもない。

これについては下位の魔物でも同じであった。

神を信じていなくても、なんとなく怖すぎて、やろうとは思わないだろう。

そんなことを平気でやれるとしたら、上位の魔族くらいしか……。 えっ、あっ、魔族⁉︎


「おい! 男か女の、どっちだ?」


「離れたところから観てたから正確には……。 でもピンクや金それから赤、とにかく派手な服を着てましたよ!

それと耳が長かったような……」


「おい……耳が長いだと……⁉︎」


「はい、尖った感じだったような気もしますけど。 でも確かかと聞かれると……ちょっと……」


「そうか、ご苦労だった。

下がって良いぞ」


偵察役が、確実に下がったのを、しっかり確認した。

不安を見せてはならない! そう思ったからだ。


それからは、じっくりと考えた。

色々と不可解な点は多いが、そこから答えを導かなければならない。 

間違えると、取り返しのつかないことになってしまうからだ。


まずだ、女神像に対して不敬な行為が平気でできる奴。

派手な服を着ていたこと。

長く尖った耳を持つ奴。

そして、ゴブリン族が魔王様に合流するための途中の村にいなければならない理由。


これらから深く深く考えて、1人思い付く者が出てきた。

いや、正確には『1人だった』が正解だ。

もう、ソイツは『人』とは呼べないのだから。


「まさか……アイツがいるんじゃないだろうな⁉︎

ゾンビエルフのギルノールが……」


ギルノール。

大昔は剣技最強と呼ばれ、ヴァンパイヤの女王との一騎打ちの果てに敗れてゾンビにされてしまったとの伝説が残るダークエルフ。

その強さはヴァンパイヤの女王と互角だと伝えられ、どうして一騎打ちをして敗北し、その配下となったのかは現在でもわかっていなかった。


そんな恐ろしい奴が、あの小さな村にいるかもしれないのか……いや、間違いない!

ヴァンパイヤの女王でも、さすがに魔王様が相手では、配下のゾンビ達を率いて自ら相対しているはずだ。

でも、そうなるとギルノールはフリーの状態。

いや、そうしたんだ!

挟撃、もしくは後ろからの各個撃破なんて作戦も可能になる。

大昔の剣技最強の戦士だ。

たった1人で戦さを仕掛けるのも、夢物語じゃなく可能なのかもしれないぞ。


こんな悲観的な予測を、どんどん勝手に立てていった。

そして予測が、自分の中では確信に変わった。


「これはまずい……とんでもない事態だ。

早く逃げないと、皆殺しにされるぞ」


すぐに撤退を指示するため、事情を知る先程の偵察役を呼ぼうとしたが、思いとどまった。

仮に撤退したところで、相手は伝説の剣技最強のゾンビエルフ、すぐさま追いかけて来るだろう。

後ろから皆殺しにされるのは、まず間違いない。

だいたい、すぐそこに敵がいるのだ。

戦わずに尻尾を巻いて逃げ出しました! では魔王様への自分の印象は最悪となってしまう。

いや、下手すると殺される。


「俺は、どうしたら良いんだ……」


半分涙目になりながら、再び考え始めた。

かなり長く長く、悩みに悩んだ後、ようやく一つの結論を出して、改めて偵察役を呼んだ。


まずは第一声から。

動揺を隠すため、明らかに作った笑顔で言った。


「お前、今から俺の副官な!」


「えっ……。 いきなり何ですか⁉︎」


「だからさ、今回の働きに感心したんだよ。 その功績に応じて副官にしようかと……」


臆病だから最適だと考えて、偵察役にしただけだった。

普通なら副官という、いわば自分の片腕となるような重要な役割を、こんな奴に与えはしない。

だが今の自分の心中に、もっとも共感出来うる存在はコイツしかいなかった。

全てを理解させる必要はなく、ただ近くにいてくれさえすれば良かった。 不安だったからだ。


しかし、これは失敗だった。

何故なら臆病とは、裏を返せば慎重で疑り深い性格の表れなのだ。


「あの……何か隠してませんか?」


「いやいや、何も……」


「声が上擦ってますけど……」


「いや、喉の調子が悪くて……」


「さっき報告した時は、普通に話ししてたじゃないですか?」


「いやいや、あの時は我慢してただけだよ……」


「本当のこと話した方が良いですよ……一体、何を隠しているんですか?」


とことん疑り深い奴だ、もう殺した方が良いかな?

半分鬱陶しくなってきたが、見方を変えると頭が良い。

それに潜入させた際も、きっちりと言いつけを守り隠密に行動して任務を全うしていた。

多少腕っぷしが強いだけの馬鹿よりも、よほど信用できそうだ。


「誰にも言うなよ。 まだ、ここだけの話だ」


「わかりました」


「お前が見たのは、ゾンビエルフのギルノールだ」


「ギルノールって……まさか、あの……」


「そうだ、剣技最強と言われた伝説にもなっているギルノールだ」


「むちゃくちゃヤバイじゃないですか!」


「そうだ、実にヤバイ状況だ。 かといって魔王様の手前、逃げることもできない。

わかるな、この意味が!」


「そうですね」


「だからだ、これより包囲だけをして様子を見る。 

やってます!という既成事実だけは作っておくんだ。

他の奴らにはギルノールのことは隠す、知られると絶対に逃亡者が出てくるからな!

こちらからの手出しも禁止だ。 下手に刺激でもすると、間違いなく皆殺されるぞ!」


「わかりました……」


こう決めたは良いが、実際は上手くいくはずがなかった。

目の前には、どうぞ襲って下さい! と物語っているような小さな村があるのだ。

おまけに、包囲しているだけの暇な状況が続いて飽きていくのは必然となっていく。

そうなると、ゴブリンとしての欲求を抑えられずに、命令を無視して襲撃し始めるのは当然となっていった。

しかも中途半端な命令をしたせいで、余計な遠慮が発生してしまい、5~6匹というバレそでバレるという無意味な単位で襲い、村人達からボコボコにされていく無駄な結果しか残らなかった。

こうなってしまうと、数的優位が徐々に消失していく。

なんとか挽回するために、副官自身が再度侵入し、唯一の井戸に獣の死骸を掘り込み、村人達の勢いを削ごうとしたが上手くいかなかった。

どんな生物でも、水が無ければ生きていけない。 活路を求めて、外に出るのは当たり前。

今度は人間達の方から、ゴブリン達の包囲網へ近づいてくる事態になった。


「襲うな! 部隊ごとに命令を徹底させろ!」


必死になって、再度命令を出した。

あの村には、剣技最強のギルノールがいるのだ。

自分たちは、いつ皆殺しにされてもおかしくない。

そんな危機的状況にいることなど自分達以外には誰も知らない、知らせてはいけないのだ。

こんなストレスが、少しずつ胃を蝕んでいくが必死に耐えた。


俺はゴブリンキングになる! それだけを信じて。


だが、終わりは唐突にやって来た。

それは二つある。 


一つは、ついにギルノールの逆鱗に触れてしまったようだ。

また勝手に襲撃したのだろう、4匹のゴブリンの惨殺死体が東西南北に晒されたこと。

胃に激痛が走った。 


もう一つは、魔王からの使者がやって来たのだ。 しかも豚野郎のオークだった。

こんな奴を使者に選んだくらいだ、何か良くないことのような気がする。


「これより、魔王様からの御言葉を伝えます。

心して拝聴するように!」


「はっはぁー!」


下げたくない頭を、魔王の代理となるオークに副官と共に下げた。

屈辱以外の何物でもないが、我慢するしかない。

ここまでの苦労を無駄にはしたくなかったからだ。

しかし嫌な微笑みを浮かべたオークの口からは、あざ笑うかのようなメッセージが発せられた。


「何グズグズしてんだ! ボケが遅れてんじゃねーよ!

もう、お前には失望した! この無能が! ……以上です!」


こう聞いた途端に、鮮やかで赤色の嘔吐物を口から噴射した。























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