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第一ラウンド

流れるように現れた一陣の風。

村を見回せる少し小高い丘へと吹いたかと思うと、あっさりと消えたと同時に、白いドレスのような衣装に小さな白い帽子をかぶった幼女が姿を現した。


「後を着けてきたのは正解だった!

やっぱり天才だ、私!」


そんな自画自賛の呟きを発しつつ、喜々揚々と地べたへと腰を降ろした。


「あんな化け物の前に立ってるけど、どうするつもりなのかな⁉︎

どのくらい生きていられるのかな⁉︎ 」


当然の結果だと思える未来へ、可愛らしい笑顔を満開に浮かべてワクワクしながらも、しかし不思議には思う。

どうも期待する予想とは裏腹に、その化け物の様子がおかしかった。

相対した者は強そうな剣士でも、屈強な戦士でも、はたまた魔力に溢れる魔術師のようにも見えない。

街中を歩いていそうな、普通の若い男だったからだ。

だが化け物の方はというと警戒心MAXであることが、その漂う雰囲気から感じとれた。


「なんだよ、あんな人間一匹の何を恐れているんだ⁉︎ 思いっきり行けよ、イライラするなぁ!

でも、ゆっくりじわじわと解体ショーを観賞させて貰えるなら、それでも良いんだけどさぁ……。

まぁ、せいぜい頑張って長生きして、私のために楽しませてよ!」


最初は、こんな感じの気楽な観戦気分のはずだった。

しかし、これが自身とって探し求めていた『永遠』の主との出会いになるとは、この時は思いもしていない。


―――――――――――――――――


「回復魔法っていうのは、実に面白いものでな。

極めてみると、対象の生命や怪我を治すだけじゃないんだ。 そう、生命そのものを握ったと言える」


また唐突に、意味のわからない話を始めた。

こんな感じの自分語りが好きな人に出会ってしまった場合、実に面倒臭い状況になるのは確実だ。

話を切るタイミングが掴みづらく、また完全に過去の自分に酔いしれていくから、こっちの都合や予定などは全く考えてくれなくなる。

誰も興味なんて無いのに……。

そういったのはプライベートだけにしてくれよ!と思うけど、聴いてもらえる他人がいなければ成立しないものだから、その相手となる方は堪ったものじゃない。


しかし突然、テンションが下がった。

でも話は、相変わらず自分勝手に進んでいく。


「そんな素晴らしい回復魔法でも、一つだけ嫌いなものが私にはある。

それは蘇生魔法、あれは仲間の生命を守れなかった失敗へのリカバーだからだ。 しかし究極まで極めてみると、その素晴らしさにも気づかさせられるんだ」


脈絡からすると、まだまだ続きそうだ……。

悦に入っているところで申し訳ないけど、時間の無駄だから、無理矢理にでも切るしかない。


「あの……さっきから何を話していたいんですか?

そもそも俺は魔法なんてものを、よくわかっていなくて……」


「そうか悪かった……なら馬鹿でもわかるように、見てわかるようにするべきだったな。

蘇生魔法の素晴らしさを……」


嫌味を含めながらも素直に謝罪したところを見ると、本当は悪い人ではないのかもしれない。

でもやはり、それは間違いだった。


「この村は、遥か昔は何も無い草原だったらしい。 なら、一匹くらいはいるだろう。

生命を終え朽ち果てた魔獣の一匹くらいはな!」


そう言うと、また奇怪な呪文らしき言葉の羅列を始めた。

唱えている間に近づいて殴ってやろうかと思ったけど、これは辞めた。

なんとなく、そういうのをやってはいけない雰囲気を醸し出しているからだ。


『何で殴らないんだよ?

お前……もしかして男女平等主義者だったか⁉︎』


この野郎……呼んだ時は返事をせずに、こういった時には遠慮なく聞いてきやがる。

まぁ、ここで怒っても仕方ない。 だったら、大らかな気持ちで答えてやろうじゃないか!


「勝てるんだったら、待ってやるくらいの余裕があっても良いだろ。

ところで、ご自慢のライブ配信は終わったのか?」


そう、やれることはやったけどダメだった。

こういう展開の方が、後に恨まれる度合いを少なく出来るかもしれない。

そういったことを期待していると言いたかったが、違う意味で捉えられた。


『いや、まだ終わってないよ。

今は休憩中だけど楽しく盛り上がっている最中だ。 皆、健康への不安を抱えているみたいで質問の多いこと。 将来への不安を解消してやるのも大変だよ』


「そうか……それは大変だな」


『でも……お前って鬼だよなぁ』


「何で俺が、鬼なんだ?」


『だって、あの言い方からすると、この辺に埋もれていそうな何かの死体を甦らせる気満々じゃん。

まぁ、あいつだろうけど。

この女は馬鹿だよなあ、誰の支配領域なのかを理解してないから、そんな選択しちゃうんだよ』


「おい聞いても良いか……その支配領域って、どういう意味だ?」


『決まってるだろ、この俺ホメオスタシス様の支配する領域って意味だよ。

この村は、もう俺の支配域になっているんだからな!』


「はぁ……お前何言ってんだ⁉」


『お前も頭悪いなー、だったら直に見せてやるよ。

ちょっと代われ!』


代われって、意識を寄越せという意味か。

うだうだ訳の分からない話を聞くのも、いい加減飽きてきたから代わることにした。

代わってやるか、そう思った途端に一人、暗い六畳一間みたいな部屋の中で、デカいモニターを眺めている感じになった。

どうやら、これがホメオスタシスの普段の暮らしなのだろうか。


……随分と良く暮らししてやがって……。

俺が汗水流している間に、誰にも気兼ねない生活を満喫中ですってか⁉︎

たった一人の空間、たった一人の気軽な生活、これは実に羨ましい。

もう、ここで一生を過ごしても良い気分になりそうだ。



――――――――――――――――――


「ウダウダ言ってないで、さっさと掛かって来いやー!

お前に『絶望』という文字を教えてやるからよー!」


急に声を荒げ、その雰囲気も変わった。

いや、こちらが本当の性質なのか⁉︎

そんなことは、どうでも良い。

どうせ、すぐに死ぬのだから!


「悪かったな、すぐに見せてやろう。

salvation(死からの)of deash(救済)!」


そう叫ぶとクラリッサ・ピオラを中心にした蒼白い光の輪が現れ、村の外に向かって広がっていった。


「やはりいたな。 

おぉー、信じられん! なんだ、この途轍もない感覚は! これは当たりだ!

よし蘇り、我が(しもべ)として戦え!」


その言葉の、すぐ後だ。

少し揺れたかと思った途端に、土や石そして岩さえ吹き飛ばして地面から、巨大な爬虫類の骨と腐敗した肉をまとった化け物が現れた。


「聖人ショーン・ケン様、そいつはまずい、早く逃げて下さい!

そいつはドラゴン、ドラゴンゾンビですよ!」


村人達や街の人々が大慌てな顔で必死に叫んでいる。

しかし、意を唱える者が現れた。

婆さんだ、村人達そして街の人々達に向かって一喝した。


「黙れ、黙って観てろ!

こんなデカいだけの蜥蜴の死体如きが、聖人様の敵にもなるか!」


とんだ誇大妄想だが、この場合は正解だ。

実際、このドラゴンゾンビは既に、このホメオスタシスの支配下に入っているのだから。


「よく言った、さすがは我が使徒よ。

そして見届けなさい、我が闘争の全てを!」


「私が使徒……四英雄と同じ、なんと光栄な!」


「女神様も同意されている。

今後は聖人の使徒を名乗るが良い」


「ありがたき幸せ!」


婆さんが、感涙している。

そんな光景を見て苛立ちを覚えたのか、クラリッサ・ピオラが一層叫んだ。


「何が聖人だ、何が女神だ!

私達から希望を奪い、絶望に堕とした神など我々の敵だ!

ドラゴンゾンビよ、そいつを喰い殺せ!」


そう命令されたドラゴンゾンビだったが、聖人の前には立ちさえしても、一向に襲いもしない。


「どうした、早く喰い殺せ!

私の命令だ!」


「ふん偉そうに、何が私の命令だ⁉︎

でも、このままじゃ可哀想だな。

もうちょい治してやるか!」


すぐに左の親指に歯を立て出血させ、右の掌で受け始めた。

一滴一滴と滴り、コップ半分程度の量になるとドラゴンゾンビの口の中へと放り込む。


「この位で十分だろ。

そら飲め、完全復活させてやるからな!」


ゴクっと飲んだドラゴンゾンビの肉や失われていた目などの消失された部分が早急に復活されていく。

更には、その身体から金色の光まで放ち始めた。


「よし、完全に治ったな。

辛かっただろ、もっと早く治してやりたかったけど、遅くなってごめんな。

もう好きな所に行って良いよ」


元ドラゴンゾンビが縦に振る。

まるで『ありがとう』とでも言いたげにだ。

誰しもが心温まる光景になった、一人を除いてだ……。


「こんなことなどあり得ない……。

私が蘇らせたんだぞ……お前は私のために戦うんだ!」


「甦らせた⁉︎ はぁ、何を言っているんだ?

だいたいなぁ、こいつは最初から死んでなかったんだよ! 傷付いて弱っていただけだ!

それになぁ、六十年前から俺が治してたんだよ!

お前は、ちょい治しただけだ! 

しかも変形治癒させやがって、この下手糞が!」


「下手糞だと……この治癒魔術師の最高峰にいるクラリッサ・ピオラに向かって……」


「こいつ、この程度で最高峰とか言ってるぞ。

面倒臭いだろうけど、どちらが本当に治したのか証明してくれないか」


聖人がペコリと頭を下げる。

自分が治したから命令する権利がある! ではなく真摯な態度を表した。

するとだ、ドラゴンが膝を折り頭を下げて喋り始めた。


「了解した、我に命を分け与えた恩人よ。

我は貴方様に永遠の忠誠を誓おう」


「喋れたのか。 随分と凄い奴なんだろうなとは思っていたけど、こりゃ予想外だ。

でも忠誠なんて良いよ。 

じゃあ、そうだな……友になったってことで!」


「ふっ、貴方様は本当に『聖人』なのですな。

では友である聖人ショーン・ケンのため、この六元質が内の一つゴールドドラゴンは戦いましょうぞ!」


「いや戦わなくても……一言だけ言ってくれれば」


「友の敵は、我の敵でもありますからな」


「そう言われると、何も言えないな」


にこやかな会話が続く中、人々には聖人ショーン・ケンの偉大さを感じ、クラリッサ、ピオラには屈辱感と恐怖を与えた。


六元質ドラゴンの一頭だと⁉︎

一度だけブルードラゴンとは戦ったが、勇者アリス・リグバーンや仲間達が居てさえも互角以下の戦いだった。 なんとか生き延びただけだ。

そんな化け物を友にした、忠誠を誓おうとしただと……。

では聖人とは六元質ドラゴン以上の化け物、いや遥か上の存在なのか⁉︎


ガタガタと震え始める。

千五百年生きてさえ、こんな恐怖は初めてだった。

死ぬのが怖い、そう単純に考えた。


ここは一旦逃げるしかない!


そう選択したが遅い。

全力で飛翔し逃亡したはずなのに、すぐ後ろにゴールドドラゴンは迫っていた。


「ふん葉虫、一つだけ言ってやろう。

さっきの蘇生魔法な……チクチクしただけで、ちっとも我には効かなんだわ! 気持ち悪かったぞ!」


全力の強靭な腕からなる強烈な一撃を受け、地面に叩きつけられた。

半径二百メートルのクレーターを形成するような一撃、グシャグシャになったクラリッサ・ピオラが中心にいる。


「おいおい、殺しちゃった?」


そう誰の目から見ても死んだであろうと考える状況だからこそ聞いたが、ゴールドドラゴンの答えは違った。


「友よ、すまない。

どうやら、私は奴の本来の力を起こしてしまったようた。 本当の戦いは、ここからだ」


半死半生になりながらも、クラリッサ・ピオラは会話をしていた。

もう一人の自分、エミュレートとである。


「クラリッサ……しゃしゃり出て来てごめんなさい。

本当は消えていなきゃいけないのに……貴女が心配なの」


「いやエミュレート、ありがとう……不甲斐ない私を笑ってくれ」


「クラリッサ、私の力を融合して。

希望を叶えてくれた貴女に使って欲しいの」


「エミュレート、ありがとう。

そして、すまない。

私は、お前の未来まで奪ってしまう」


「ううん、未来なんていらない。

私と貴女は一心同体、これで本当に一つになれるの」


突然だった、クレーターの大きさに比例した砂嵐が姿を現した。

その中心には、当然のようにクラリッサ・ピオラが立っている。 完全に治癒した姿だ。


その砂嵐が、また突然消えた。

クラリッサ・ピオラの中に吸収されていくように消えた。


「あぁ、クラリッサ・ピオラが復活したぞ。

あんな一撃喰らって、もう復活かよ。

最高峰の治癒魔術師っていうのも、満更でもないな」


そう褒めてやったつもりだったが、すぐに否定された。


「違う……もうクラリッサ・ピオラではない。

私はエミュレート……エミュレートが使えなかった能力を使うエミュレートだ!」


第二ラウンドが始める。





















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