二
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ミチルさんの後に続き、鍵を開けて簡素な見た目のエレベーターに乗り、十階の千十三号室へと来ました。番号は十階の十三号室と言う意味ですが、まあ、一人暮らしするには充分な広さの部屋な様です。今は荷物の段ボール箱が積み上げられている為、広さが少し分かり難いですけど……。案内が終わった為、ミチルさんは下に戻っていきました。
さて、荷解き、していきますか。……と、其処で来客が来ました。隣の部屋の方な様です。彼女は猫の獣人の見た目に成って居ます。……猫耳や尻尾は電動で動くアクセサリーを光学迷彩で見た目を良くしているようですけど、獣度は軽めで、体毛が濃い場所は少なく、見た目的には萌えアニメ風の美人が猫の獣人のコスプレしている感じ、ですね。
「ええと、前から聞いた話だと、貴女はエポニムさん、で、良いのだよね? 私は此処では海原毛布で通って居ます。宜しく」
「ネイト=エポニムです。今後宜しくお願いします」
「さて、挨拶はこれくらいにして、荷解き手伝うよ。速くやっちゃおうか」
「ありがとうございます。じゃあやっていきましょう」
それで海原さんの手伝いで荷解きを粗方行い、雑談を行う事にしました。
「エポニムさんは派閥とか何処に属するか決めた?」
「そう言う海原さんは何処に所属して居るのですか?」
「私? 最初は無所属だったけど、一応ルクトさんの所のパワーストーン財団かな」
胡散臭さ満載の名前ですが、まあそれはそれで雰囲気が有ります。そもそも力を配る集団ですしね。……力を配りますと言う売り文句で、長くやって居られるなら、流石に力を配ると言うのは目に見えたレベルでのはずですよね? 宗教は詳しくないのでどうかは知りませんが、入信すれば開運出来ますよとかの一目見ただけじゃ解らない類いの利益だけで騙してやって居る訳じゃ流石に無いはず……です。流石に、多分。
「宗教的な所なのでは無いですか? そこは……」
「宗教と言うか、アレはルクトさんが周りに力を配る上で対価として自分の派閥に所属しろと言っているだけだよ。……まあ、ルクトさんの派閥は後援団体に隣国の軍隊とかが居るらしいけど」
「国と癒着しているのですか?」
「そもそもルクトさんはコロニーの立ち上げの際の支援団体の内の一つの団体の重役だから、それに嫌悪感が有るならそもそも此処での立ち回りは面倒だと思うけど」
ああ、派閥と言うか後ろ盾を得られる機会と言う事でしょうか? 対抗派閥にもそう言う利点があるから対抗派閥たり得て居るはずですし、そちらも調べないと。
「……コロニー設立時の後援団体の重役、ですか。……ならルクトさんは立場的には運営側なのですね……」
「そうだね。まあ、別にコロニー運営側のトップと言うわけじゃ無いみたいだし、トップに近い方は有事以外には干渉してこない人の方が多いから、日常的に多々干渉してくる中では権限的にはかなり上の方っぽいけど」
「……ふむ……仮にコロニーを牛耳られても権限的には最上で無いので、訴え先は一応有るのは良いですね。……とりあえずもう少し様子見してからどの勢力に入るかを決める事にしますね」
「……そう、解ったよ。なら、ゆっくり決めると良いよ」
「勧誘して来ないのですか?」
「立ち回りの上で結構重要だからね」
「そうですか……」
この話で気になるのは仮にルクトさんの派閥の方は全員異能や魔法を使えるとします。すると結託し対抗している側の派閥はルクトさんからの供給が無いとしたら異能や魔法が無い事に成りますが、……武力衝突的な事が起きたら数の力に頼るくらいしかやりよう無くないですかね……。
それとも今明言されていないだけで対抗派閥側にも異能や魔法を与えられる方が居るのでしょうか? ……宗教紛いの所に入るのは嫌だから対抗派閥側に入りたい気持ちですが、自衛面でキツイ事に成りそうですし、結論を出すのはそう言う存在の有無を調べてからでも良さそうですね。……とりあえず、ミチルさんに話を聞いてみますか。ミチルさんに連絡を取るため入口の警備員さんの所に試しに行く事にして、連絡を取って貰い、またミチルさんと話始めます。
〔ああ、深い話まで聞く気に成ったの? ええと、ルクトさんの派閥の対抗派閥に魔法や能力を与える奴が居るか、だったね。居るよ。……只、その人は名前をかなりの数持っていて、本名は知らないけど、お父さんが言うには確か女性ですが、十津万象さん、だったはず。ちなみに派閥名はペルソナネーム、意味は別の人格の名前、だとか〕
別の名前を名乗る人生を始めた上ではまあ、現状を示すだけの派閥名……まあ、カッコつけて居るにしても拒否反応を出す程の盛りではない、か。悪くないですね。ゲーム名に有りそうですが、ペルソナはゲーム独自の造語では無い為問題無いはずです。
「その人に宗教色は有りますか?」
〔無い、けど、ちょっと問題が有りますね〕
「と、言うと?」
〔能力を他者に付与する方式上、十津さんの力、と言うかバフを常時受ける形に成るため、十津さんに逆らうと力を没収されます〕
「……それは十津さんの自衛の話ですし、普通の事では?」
流石にセーフティ皆無で能力をばら撒いているとかして居る方が信用ならないですよ。能力を使わせる事で他の利点があるとかの類いの奴だったらアレですし。
〔……力をどうこう出来る力を常時掛けられているみたいな物ですけどね〕
「宗教色は無いなら、入信を迫られる事は無いでしょうし、決まりましたね」
〔……一応両方の人が別々の国の軍所属ですけどね〕
「まあ、それはしょうが無いかと。十津さんにコンタクトを取りたいのですが、何処に行けば会えますでしょうか」
〔それなら私が連絡してあげるから明日にでも会いに行くと良いよ。だから今日はひとまず街並みを見て回れば良いと思います。そろそろ面白い物が見られると思いますし〕
「……面白い物、ですか? ありがとうございます。極光役者で見た目を変えた後、そうさせて貰いますね」
時間が出来たので私は見た目を極光役者で変えます。この見た目のデータは事前に購入した物。しかもオーダーメイドの一点物です。つける前に琥珀色の髪のウイッグと群青色コンタクトレンズを外して、と。……。胸は大体D寄りのC、身長は百六十五センチ、体重は、ノーコメントでスレンダー体型。他の特徴を挙げると髪色は萌黄色、髪型はゆるいウェーブの掛かったロング。目は桜色で、萌えアニメ風の美女と呼んで差し支えない顔付き。それで白を基調としたマーメイド・ドレスを赤色のリボンで飾り付けた服装です。まあ靴は普通のスニーカーですけどね。ガラスの靴の見た目に変更した靴を履くのは流石にちょっとシンデレラを自称するみたいで気後れしたので。
見た目の調整を終えて、街中に戻り、辺りを詳しく見ていきます。建物側は現代の日本的な普通の建物が多いです。五、六階のビルが混ざって配置されて居るとは言え、飲食店もある程度有り、バラエティー豊かです。豊か過ぎて日本と言うか多種多様な国の店が雑多に並ぶある種のカオスな街並みです。それと何故か極光役者で隠されている場所が散見されます。何を隠して居るのでしょうか? ……カオスな街並みと言うだけなら普通に事前に言及されるだろうし、面白い物、とは何、なのでしょうか、と思いながら移動していくと、一部の道が通行止めに成って居ます。情報を見ようと看板を探すと、地図のある程度の場所が色々な色で装飾されており、曜日に応じた色の場所には特定の時間には入るな、と書かれています。……祭りとかマラソン大会でも近々有るのでしょうか? 首を捻っていると其処で放送が流れました。
『後五分で景観の調整を行いますので、水曜日の立ち入り禁止区域からの退出をお願いいたします』
定期的な景観の調整で立ち入り禁止区域が設定されている、ですか。工事現場に成るから入るな、的な物だと予想していると五分が経ち、再度放送が入り、街並みが変動を開始しました。
「……は? え? 嘘……」
そして十分も経って再度放送が有った頃には街並みは西洋式の物に変わって居ました。……何で? いや、辺りに配置された店の国籍がカオスと呼べる程に沢山の国の店が配置されて居たのは街並みをどの国の見た目に変えても対応した店を配置させる為ですか。うーん……ひとまず帰る事にしたのですが、一部の道筋が変わっていてあわや迷う所でした。ミチルさんは帰ってきた私を笑顔で迎え入れながらこう言います。
〔どうだった? 街並みがいきなり変わってびっくりしたでしょ?〕
「はい、何であんな事が起きるのですか?」
〔一番の理由は敷地不足だね。色々な世界観の街並みを用意する立地の確保は流石に出来なかったから建物側に色々な細工がされているのだって〕
「……へぇ……」
建物側を移動させる仕掛けとか、光学迷彩(隠すではなく別の物を見せる為の使用)とかで、幾つかの街並みを定期的に切り替えて行う、ですか。街並みがホログラムと物理的な変動によって変わる街、と言う事ですね。道筋が変わるエリアの道を覚える事に必要な手間は単純計算で数倍と考えると……。
〔普通に考えて道を覚えるのが通常の道より面倒だよね〕
「はは……」
〔まあ、建物側が大幅に変わるのは一部エリアだけだけどさ〕
「確かに私はエアプにも程が有ったみたいです」
〔じゃあネイトさん。このコロニーには本当に人外の人も居るって言ったら信じる?〕
「……実在の異能や魔法の内容が解らないので、それが有るなら魔法生物生成的な物も有っても不思議ではない、ですし、……異能や魔法の現物まだ見てないのでアレですが」
街並みを変更する設備とか大規模な物も見せられましたし、科学でやって居る事を魔法や異能だと主張しても信じる人は信じそうなレベルですね。
〔それは明日にでも十津さんに聞けば良いと思うよ。あの人何でも能力使えるから〕
「つまり全能と言う事、ですか?」
〔能力を他者に付与する理屈を自分にも使えるってだけ。……ネタバレしていいならそれに付いても詳しく話すけど、どうする?〕
「なら、必要最低限の知識はください」
〔なら能力名はともかくとして、十津さんの能力は対象の名付けに依る契約能力だよ。名付けた名前を基準に能力が対象に付与される能力、だったかな〕
契約で相手に能力を与える、ですか。十津さんの力を皆に貸し与えるのか、それとも実際に契約する事で相手に能力が生えるのか。多分後者だとは思います。そうでないと色々とアレだと思いますし。
「……卑怯過ぎませんかね……対価が仮に必要でも、自己対象有りとか対価を名付け相手に渡す系とかの対価が両方本人だと無意味だからそう言う対価に設定出来る能力なら幾らでも盛れるじゃ無いですか……」
〔まあ、名前が沢山十津さんに有るのはそれが理由ですね〕
「……インチキ過ぎませんかね……」
もう何でも有りですよ、それだと……。
〔他にもシンプルに沢山の能力を持って居る方も居るそうですけどね〕
いや、他にも居るのですか。乾いた笑みを浮かべたのを自覚する羽目に成りました。
「……ま、まあ、変な対価を要求されなければ良いですけど……」
〔まあ、明日を楽しみにしていてね。明日の朝十時にまた私の所に来て。十津さんの所に案内するから〕
「……はい、では明日に」
その後マンションの近場に有った業務用スーパーで弁当を買って食べて夜食を済まし、風呂に入ってから初日は終わったのでした。