一
「極光役者のコロニーで次の人生を貴方に。お問い合わせはシェイプクリエーターズ社迄」
極光役者とは見た目を変える媒体な様ですが、私はその宣伝を見てそのコロニーに移住する事を決めました。コロニーに住むには色々な契約書類にサインを要求されます。私は契約書類へ一通りサインし、一定金額分を払えば、それこそアニメキャラの見た目にだって成れるのです。
申し遅れました。私の名前は河合二凪コロニー内での演じる側の見た目の予定の名前は、ネイト=エポニムです。
まあ、契約書類にサインする際の事前説明曰く、その便利さ故にある程度のゴタゴタは起きてしまうだろうと警告されたのですけどね。
私は契約書類にサインした結果、シェイプクリエーターズ社製の極光役者と呼ばれるナノマシンをある程度渡されました。どうやら見た目を変える理屈とは身体の周りに展開するナノマシンによる映像投影に寄り自分の見た目を別物にする、と言う物な様です。いわゆるナノマシンをベースとした光学迷彩、ですね。リアルタイムに何処でも自分に貼り付けた3Dモデルを動かす様な物と考えると良いと思います。
スタジオとかの場所に縛られない見た目変更手段ですか。……実現はかなり難しい物だったはずなのですけどね。
「最後に、シェイプクリエーターズ社のコロニーへ、ようこそ。ネイト=エポニムさん。良き別の人生を」
私はその言葉を背に受付を出ると、其処にジュエリービーストを名乗る狼男染みた見た目の人が来て、意訳でパワーストーンをあげる代わりにルクトさんの派閥に入信してくださいと言われました。……いきなり宗教勧誘か何かが来たと思い、一先ず断り、街並みを見て回る事にします。
街並みを見て思うのは流石見た目を自由に変えられる技術の有るコロニーだ、と言う事です。街並み自体は多少特殊な部分は有るとは言え、コロニーの入場ゲート付近と言う事も有り、観光客向けの建物等が沢山並ぶだけですが、多種多様な人外の見た目の方が大量に辺りを闊歩していて、異世界の街に来たのか? と思わされるレベルです。イメージとしては街を歩く人の大半が何かしらの特殊メイクをして居る街、でしょうか。
一部ナノマシンを展開していない人外の方が居る様に見えますが、私がナノマシンの制御に慣れていない為、ナノマシンが有る事を看破出来ていないだけなのだと思います。さて、入居先のマンションに向かうとしましょうか。
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そして道なりに三十分程進み住宅街へと移動し、事前に説明された住所に移動すると、其処には大きなマンションが有り、入口の門の両脇には阿吽像を模した様な大きな石像がセットで有りました。神社とかで有る狛犬的な物でしょうか? 建物の中に入る前に私はその二つの石像を暫くと見る事にしていると、その石像がいきなり喋り始めました。
《お嬢ちゃん、事前に話は聞いているから何時までも我々を見ていないで中に入り給え》
「あ、警備員の方でしたか、すみません。では入らせて貰いますね」
《……石像が喋り出したのに驚かないのか?》
「この場所の話の前提条件的に警備員が見た目を変えて景観を崩さない様にしていただけかと思いましたので、石像が喋る程度の事は別に」
石像にスピーカーが仕込まれて居たからと別に驚く程の事では無いですよね。
《……なら良い。じゃあ入り給え》
「それでは失礼しますね」
建物の中に入ると鍵付きのエントランスの中心に白銀色の水の塊が人の形を型取りながら浮いていました。
「……良く出来ていますね……」
私はそれをオブジェクトだと思い少し無遠慮にそれを凝視していると、目の前に浮かんでいた白銀の水の塊が何処から出したかも解らない声で答えます。……。ああ、天丼をしてしまいましたね。
〔ふふ、ありがとう。河合二凪さん。ようこそ、私が管理するマンション、ツバメの止まり木荘へ。荷物なら業者が先に部屋に運び込んで居ますよ〕
「あ、ありがとうございます、ええと、管理人さんの名前は」
〔……私? 私は甲原ミチルです。ま、甲原は勝手に名乗って居るだけだし、呼ぶならミチルで良いよ〕
「ではミチルさん。見た目、凄いですね……」
見た目変更でそう言う見た目にも成れる、と言う事なのでしょうが、完全に人外の見た目に成って居ますね。
〔私より凄い人も結構居るよ?〕
「……どんな魔境なのですか?」
〔……うーん、このコロニーには異能とか魔法とか普通に横行しているからね〕
「はい?」
〔……その反応と言う事は最初の勧誘を蹴ったって事で良い?〕
「ええ? 入信したらパワーストーンを渡します的な勧誘、ですか?」
〔アレ、実際に能力を使える様に出来る媒体をくれる奴ですよ。まあ、性能は低めな物しか最初はくれませんが〕
「またまたご冗談を」
其処でミチルさんは呆れた顔をしましたが、何かおかしな事を私は言ったのでしょうか? 普通に考えて宗教勧誘は論外だと思うのですが。
〔……色々と誤解が残ったまま此処に河合二凪さんは来た様ですね……いや、そう言うより聞いても信じなかった奴ですか……〕
「何ですか、誤解って……」
〔なら細かい説明が必要な物は説明を放棄しまして、現在このコロニー内では大体三つの勢力に分かれて生活しています。コロニー内での多数決的な取り決めをする上でルクトさんの関係者が大量に纏まって入居したため、住民の約四割強がルクトさんの派閥に属して居ます。後の二つは多数決的に対抗馬を用意するために結託している層と、我関せずの傍観者層、と言った所ですね〕
細かい説明を放棄されたとかどんな事情が有るのですかね。嫌な予感がしますけど契約書を事前に書かされて居ますし、何も無いはむしろ無い、か。だとしてもそれは余り朗報とは言えない情報な気がします、コロニー内部の自治に政教分離は必要な事だと思うのですよね。
「……嫌ですね。カルト宗教が巣くっているのですか」
〔教祖への信仰と言うより実益を得られるから集まっている集団以上の物は無いと思います〕
「……手品を魔法や異能と言い張って居るだけじゃ無ければ魅力的では有ると思いますが、眷属に成れ、つまり入信しろ、と言うのは胡散臭いのですよね……」
ミチルさんはその言葉に対して、満面の笑みで言葉を返します。
〔そう思うならそれはそれで良いよ。後でどうせ解るから。あ、ええと、ごめんなさい。わざわざ本名の方で呼んじゃって。それじゃ此処に来た意味無いよね〕
「……最初の手続きくらい本名でも問題無いですよ。ネイト=エポニムの意味は私としてはネイトと二次的に命名した、と言う意味ですし、ネイトは神様の名前から取った奴ですしね」
「ごめんね。じゃあ話もこれくらいにして部屋に案内するね」
「お願いします」