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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第91話 端緒


 次は、ダコールが疑問点を指摘した。

「そして、交渉は続き……。

 話を打ち切りたがっていたマリエットが、円周率など数の話で初めて関心を示し、次に生命の話になって突然対応を変えた。まるで取って付けたかのような話の展開だ。

 彼女が交渉を続けようと思ったキーワードはなんだったんだ?

 また、何度か聞き返して思ったんだが、このあと武装解除を蒸し返した際の、不自然な間はなんだったのだろう?」

「その直前のゲレオン准教授の言葉は……」

 そう言って、バンレートが記録を再生する。


『……生命とはなにかを知ろうとして、自然科学だけでなく、人文科学も含めてさまざまにアプローチしてきた歴史が我々にはある。

 だが、生命は見えず、触れられず、失われたら戻らず、測定もできない。

 脈や脳波なども、肉体の動きから生命を推し量っていて、生命自体を計っているわけではない自覚はあるのだが……』

 と、部屋にゲレオン准教授の言葉が低く響いた。


「この言葉で、問題になる部分があるとしたら、あとの展開から考えても、『生命は見えず、触れられず、失われたら戻らず、測定もできない』の部分しかないのは確実でしょう。

 ここで、あのマリエットという女は黙り込んでいます」

 情報士官パウルの指摘に、全員が頷いた。


「となると、ここの彼我の考え方に大きな違いがあることになる。

 敵にとっては、『生命は見え、触れられ、失われても戻すことができ、測定できる』ということになるのではないか?」

 と、バンレートが仮説を提示する。議論の叩き台だ。


 早速、その言葉にギード軍医が反論した。

「1つだけは違うのではないでしょうか?

 おそらくは、『生命は見え、触れられ、失われたら戻らず、測定できる』かと。

 極端な話ですが、肉体を完全に破壊したら、当然生命は失われます。その破壊は事故に留まりません。アポトーシス、老化そういったものも含みます。

 医学は万能ではない。だが、『失われても戻すことができ』は能動ですが、『見え、触れられ、測定できる』のは受動です。観察しているだけですから。

 敵ができることは、ある程度能動ができるとしても、生きている人間の治療止まりでしょう。死者の蘇りは不可能なはずです。そもそも不死が実現していたら、人口の抑制要因が無くなって、社会が崩壊してしまう」

「少し待ってくれ」

 ギード軍医の言葉を聞いたダコールは、そう断ると立ち上がって通話端末を手に取った。


「相変わらずドローンは、敵惑星の人口密集地の上空に留まっているな?

 そこに映っている敵惑星の人間の、外見からの性別比と年齢比を出せ。あくまで、我々から見ての判断でいい。

 それから市街地の分析をして、医療施設に相当するものがあるか確認しろ。

 至急だ」

 配下の戦術分析班への指示である。


 そこへ、ゲレオン准教授が付け加える。

「なら、参考までにお伝え下さい。

 医療施設は、宗教施設が兼ねていることが多い。その場合、医薬品の生産も薬草等で同一敷地内で行われることが多いです。

 リモートセンシングで、農地にない植物が少量多品目で作られていることがわかったら、それは薬草です。

 さらにですが、街づくりの中核は行政施設になりますが、中核が複数あったら、それは宗教施設の可能性が高いです。市場は、一目瞭然ですから簡単に除外できます。

 宗教施設は、山中に独立して巨大施設として作られることも多いですが、その場合は当然のこととして医療施設の機能は併設される事例は少ないです。町中ほど患者がいませんから」

 ダコールは、その言葉を復唱して戦術分析班に伝えた。

 ゲレオン准教授は、自らの専門に関わることだったので、黙っていられなかったのだろう。


 通話を切ったダコールは、ゲレオン准教授に礼を伝えながら再び自分の椅子に座る。

「性別比と年齢比から、不老か不死かの推測ができる。

 医療施設の状態から、『生命は見え、触れられ、失われたら戻らず、測定できる』かどうかの仮説の裏付けができるはずだ」

 その言葉に、全員が頷く間もなく、通話端末が呼び出し音を立てる。


 ギード軍医が通話端末を取り上げたのは、ここが医務室だからという以上の意味はない。

 一言二言話して、すぐにダコールに代わる。

 ダコールの指示した解析は、すでに分析ソフトによって即座にわかる項目なのだ。ほぼ即時の返答は不思議ではない。


「間違いないな?」

 ダコールは1回念を押し、通話端末を置いた。

 そして、向き直って言った。


「あくまで外見からのみの判断だが、人口ピラミッドは釣鐘型。

 男女構成比は男子50.2%、女子49.8%。

 そして、どんな意味でも医療施設はないそうだ」

「間違いないのですか?」

 ギード軍医が即座に聞き返し、同時にそれがダコールも聞き返した内容だと悟って忸怩たる表情になった。まるで、総作戦司令の言葉を信用していないような形になってしまったからだ。


「王宮とされる行政の中心、食料等運び込まれるバザールなどの流通の中心、教育機関もあるようだが、医療に相当する施設はない。宗教に付き物の権威を示すような外観の施設もない。このあたりは偵察衛星からのデータも加えて、人の流動変化まで加味されているから間違いはないそうだ」

 ギード軍医の表情に気が付かない振りで、ダコールが説明を加える。

 別に気にするほどのことでもないからだ。軍医という立場であれば、医療施設が存在しないという事実を素直に信じられるはずもない。


「……確定ですね」

 バンレートの言葉に、他の者はうそ寒い表情になった。


 敵は、『生命は見え、触れられ、失われたら戻らず、測定できる』のだ。これはもう、確定しても良い。

 中世的外観の街並みなのに、人口ピラミッドが釣鐘型だというのは、不老不死ではないが、病死、事故死が極端に少ないことを示している。そして、どんな意味でも医療施設がないとなれば、医療に代わる高度な技術体系を持っていることは間違いない。


 敵の言っていることは、少なくともその一画はブラフではないのだ。

 同時にこれは、敵の技術体系の解明の糸口でもあるはずだった。

ようやく、証明できるような事例に行き当たったのです。

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