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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第84話 恐怖


 恐怖の声の主は、ゲレオン准教授の糾弾を鼻で笑った。

「そうか。

 あの空飛ぶからくりで、他の王都でそれを声高に叫ぶことがお前の切り札か。

 面白いではないか。存分に語るがいい。

 お前の生命と引換えの喜劇だから、お前自身は死んでいて見られぬのが残念だがな」

「ちょっと待ってくれ。

 それ以前に、私は使者として、なにか君たちの逆鱗に触れるようなことをしたのか?

 失礼なことをしたのなら謝りたいが、なにがどう失礼だったのかは説明してもらわねばわからない。

 私は、君たちの星で生まれ育ったわけではないんだぞ!」

 それに対しての答えは、含み笑いだった。


「お前たちのような原始人に、不意を突かれて10万人も殺された。

 強い者に殺されるのであれば、強者生存の理として諦めもつく。

 だが、これでは知れば知るほど無念ではないか」

「原始人?」

 他種族に使われることは耳にしていても、使われたことは1度たりとてなかった嘲りの単語である。


「宇宙を遍く征服している我々が、原始人だというのか?」

「違うか?

 お前たちは、自らの疑問に対し、答えるどころか疑問を提示することもできぬではないか。

 お前たちの種族は、愚かではないかもしれぬ。だが、本質を知ることのできぬ原始人だ。

 我々は報復する。

 手始めにお前からだ。

 覚悟するがいい」

 ゲレオン准教授は、着陸艇に乗る前にトイレを済ませていたことに感謝していた。おかげで漏らさずに済む。

 こんなことを考えているのは、心が逃避に入っているからだ。今起きている事態に対して、まともに向き合う心の余裕などすでにどこにもないし、それ自体に気がつけもしていない。


「報復の前に、聞いておこう。

 お前たちはどこから来た?」

「遠いところだ。

 2万光年ほど離れたところに都となる惑星を持つ、星間国家だ。

 人口は352億人、経済規模は……、ああ、貨幣価値が違うから、どう説明したら……」

 自失してしまったゲレオン准教授は、質問が始まったことに疑問も抱かず、素直に返答している。「答えている間は殺されないはず」と、頭の中にあるのはその思いばかりで、疑うなどという思考は生まれてこない。それどころか、1秒でも長く答えて、少しでも死までの時間を稼ぎたいと、必要以上に話している。


「それがなぜ、ここまで来た?」

 呆気なく黙殺されて、次の質問である。

「我々の総統は、人口減を防ぐため、他の星に移民を推奨している。

 暮らせる星を探して、全方位に艦隊を送っている。たまたまその先に、この星があったんだ」

 身も蓋もない答えである。だが、ゲレオン准教授に取り繕う心の余裕はない。威厳に満ち、冷酷で、恐怖そのものの声は、声そのものでゲレオン准教授の心を削っている。

 だが、その可怪しさにも気がつく余裕はない。


「お前たちの艦隊を殲滅するは、あまりに容易(たやす)い。

 だが、そうなったら次の艦隊が来るのか?」

「間違いない。

 全方面軍がすべて集結して、この星を襲うだろう。

 1000隻を超える大艦隊だぞ」

 その答えに、威厳に満ち、冷酷で、恐怖そのものを体現するような声が笑みを含んだ。

 嘲笑だ。

 数知れぬ星々を征服してきた艦隊群が、鼻で笑われたのだ。


「それで、お前たちはその艦隊で、どのような兵器を持ち、どのように戦っているのか?」

「私たちは強いぞ。

 この星の月より遥かに遠いところから、星全体を破壊するミサイルを撃つことができる。1発で地表の生物だけを破壊し、皆殺しにできる爆弾もある。

 メディ級強装駆逐艦の主砲を1発撃つだけで、都市はまるごと壊滅だし、アーヴァー級戦艦の主砲なら、山脈1つ吹っ飛ばすぞ!

 そして、それだけのことができる砲弾を、私たちがなんと呼んでいるか教えてやる。『対惑星地表用弱装弾』だ!

 征服すべき星が壊れてしまうから、弱くしているんだ。『対宇宙艦船反物質粒子カートリッジ』なら、1発でお前たちの月を蒸発させてやれるぞ!

 艦載機群だって、お前らの翼竜(ワイバーン)の部隊など問題としない!」

 死の恐怖を紛らわせるために、話しだしたら止まらなくなったゲレオン准教授だが、武装について話しているうちに冷静さが戻ってきていた。


 敵に対して、なにもできないから怖いのである。

 だが、積み上げてきた科学史が、すべて無効になるはずがない。現に、1回目の攻撃は成功したではないか。

 決して、自分たちは無力ではない。たとえこの場で自分が殺されても、報復は必ず艦隊を率いたダコール司令がしてくれる。

 ようやくそれに思い至ったのだ。


「なるほど。

 お前たちの考えは面白い。

 考えているうちに本質を喪うさまが、つくづく愚かしく、悲しくもあるがな」

「……どういうことだ?」

 ゲレオン准教授は、呟くように言った。

 声を張るだけの気力は、一気に奪われていた。艦隊の強大な戦力の説明をして、「愚かしい」と断じられれば奈落の底に突き飛ばされたような気持ちにもなる。先ほどの嘲笑を、まったく覆せていない。

 

「お前が死んだあとに、報復はされるかもしれない。

 だが、それとお前が苦しみ抜いて死ぬことは無関係ではないか。なぜ、それで慰めを感じることができる?

 報復は、いや、弔いすらも生者の自己満足に過ぎぬ。

 死者は応報されたことなど知る(すべ)はなく、苦しみは1つとして軽減されない。

 病が克服されたからといって、克服される前に死んだ者たちの苦しみが無くなるわけではないのと同じことよ。

 また、御大層な兵器を並べ立てたが、他の星を征服するのに、本当にそんな物が必要なのか?

 なにかと思考がインフレーションに向かうお前たちは、本質的に適正ということを知らぬ原始人なのだ」

 あまりの物言いに、ゲレオン准教授は反論もできない。

 自然科学の冷徹さは自覚していたが、死生観という人文科学の領域に至るまで冷徹さを通す種族がいるとは思わなかったのだ。


恐怖を肉体に、ではなく、心にダイレクトに与える拷問なのです。

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