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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第81話 ハード・ネゴシエーター

 

「建物内に、赤外線探知。

 かなりの数が隠れています」

 AIがゲレオン准教授に注意喚起する。

 あまりに想定済みのことだし、今さら驚きもしない。

 だが、緊張はする。


「誰か、私と話してくれる人はいませんか?」

 さらにゲレオン准教授は、声を張り上げる。

「御使者殿。

 どのようにして言葉を覚えなされたかな?」

 ゆっくりと中庭に歩きながら入ってきたのは、栗色の長い髪を結い上げ、理知的な紫色の瞳の女性である。

 もっとも、異星の人類なので、女性の保証はない。とはいえ、ゲレオン准教授からしても、見惚れるほどに美しい。


「言葉を置き換えるからくりを使っています。

 なので、あなたの言葉を覚えているわけではありません」

 そう答えながら、ゲレオン准教授はほっとし、また内心困ってもいた。


 話の中で、武装解除していることは話さねばならない。だが、このような場である。嘘が前提とされるともなれば、丸裸になって見せることも必要だと考えてきた。

 ところが、現地人女性の前でいきなり異星人が服を脱ぎだすというのは、これはもう別ジャンルの話になってしまう。


「この度の戦で、双方に大きな被害が出ています。

 この辺りで、双方で意思を伝え合うホットラインを作っておいても良いのではと思うのですが……」

「なんの目的で、ですか?

 いきなり攻撃してきたのはそちらです。降伏してきたというのでもなければ、今さら話し合うこともないと思いますが」

「互いに、互いの風習を知りません。

 戦をするからには、停戦を持ちかける方法や降伏の方法について、互いに共通した知識を持っておくべきではないかと」

 もちろん、互いの言葉は不完全で、訳しきれていない所も多い。

 だが、空白部分は想像がつくし、量子コンピュータも急速に連想を働かせて翻訳精度を上げつつあった。


「簡単に殲滅できるはずが、予想以上に手こずったのでこのような申し入れに至ったのですね?」

 あまりに図星の問いである。

 図星過ぎて、ゲレオン准教授にはその問いに答える勇気が湧かなかった。


「お名前を伺っておきたい。

 私は、先ほども話したが、軍の人間ではない。

 ヴィース大学の准教授、ゲレオンと申します」

 露骨に話を逸したが、答えるのを嫌ったのを見抜かれても仕方がない。

 また、国の名前はあえて名乗らない。国という括りにしたら、軍も大学も同じ国だから、そのまま殺されかねない。


「ゼルンバス王国、内務省の長、マリエット」

 その答えは簡潔である。

 話を逸したことがわかっていて、ゲレオン准教授を泳がしているのだろう。相当なハード・ネゴシエーターであることが窺える。


「内務省の方とは驚きです。

 こういうのは、軍の人か、外務省の人が出てくると思っていました」

「学院の人間がわざわざ使者に立つのと、なんの違いがありや?」

 そう言い返されて、ゲレオン准教授は完全に1本取られた気になった。


 ゲレオン准教授が見るところ、このマリエットと名乗った女性の知性は極めて高い。

 その高い知性を持つ種族なのに、数学のレベルが他の多くの惑星から導かれた一定の枠内に収まっていない。

 つまり、ゲレオン准教授が今まで積み重ねたデータからすれば、中世の封建制レベルの文明であれば、数学は多次方程式、虚数や対数の概念まで達していてもおかしくない。円周率がわからないというのはありえないのだ。

 ということは、その分の知的リソースを食い潰しているジャンルが、この星にはある。


「ありませんでしたね」

 ゲレオン准教授はそう折れて見せて、逆襲に転じた。

「では、戦う2国の間での共通した知識は必要ない、と?」

「ありませんね」

 そう即答されて、再びゲレオン准教授は当てを外された気分になった。


「マリエットさん。

 あなたは、この国の意思を決定できる立場なのでしょうか?」

 再度、ゲレオン准教授は尋ねた。

 肯定でも否定でも、得られることの多い問いである。この星の人類がどのような社会を作っているのか、窺い知れるからだ。


「逆に聞きましょう。

 いきなり10万人を焼き殺されて、その敵と共通した知識を持ちたいと我々が思うと、御使者殿は思うのですか?」

「持たねば、皆殺しになりかねません」

 そう答えながら、ゲレオン准教授は内心焦りだしていた。

 質問に質問で返されていては、なんの情報も得られないではないか。


「少なくとも、私は軍の人間とは違う考えを持っています。

 他の文明を滅ぼしたいとは思ってはいない。私は、異星文明を研究しているのです。1つとして滅ぼしたくはなく、軍と話し合っています。

 このままでは、良くない状況になると思って、なんとかここに来る許可を貰ったのです」

「あまりに当然のことなど、言うに値しないでしょう」

 ゲレオン准教授は、その言葉に一瞬誤訳を疑った。


「どういう意味でしょうか?」

「わかりませんか?

 どう言われようとも、御使者殿を信用できないということです」

「……なるほど。

 私は、ここに丸腰で来ました。

 どんな武器も持っていません。

 それをもって信用していただけませんか?

 単身ここに来るということは、殺されるとなってもなんの手も打てない。でも、それを押してここまで来たのです。

 武装していない証として、ここで一糸まとわぬ姿となってもよい」

「不要です」

 マリエットの返事は短く、嫌悪感すらあった。


「ですが……」

「私たちがここで話しておかないと、問答無用の攻撃がされるとでも?」

「そういうことです」

「では、話せば、あなたたちは撤退するのですか?」

「特殊な、他にない文明として、保護の対象になるよう尽力します。それなら私にもできることです」

 ゲレオン准教授は、取り付く島もない相手に食らいつく。

 だが、正直ここまで難航するとは思っていなかった。

 今までどこの星でも、圧倒的軍事力を背景に、最終的に相手は折れてきたのだ。交渉というものについても、文明の力大きいのだ。


 だが、いくら状況が厳しくとも、『魔術』は話題にせねばならない。

マリエット、強いw

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