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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第74話 説得


「それでは、説明させていただきましょう」

 ゲレオン准教授はソファの上で座り直し、丸くなった。

 問い詰められ、通常なら背筋を伸ばすところであろうに、話すにあたって逆にリラックスした体になっている。

 まるで、副司令兼艦隊旗艦艦長のバンレートが、この部屋では士官学校時代の後輩に戻るような変わり様である。


「敵の惑星では、こちらからの小惑星弾の1弾目と2弾目の間に事件が起きましたよね?」

 まずは、そう准教授は確認をとった。


「准教授が読まれた報告書のとおりだ。

 敵の最大版図の国の空飛ぶ獣に乗った兵士が、隣国に襲いかかって、そこの王族の皆殺しをやってのけた」

「たぶん、それをしておかないと、敵の惑星は一枚板にならなかったということですよね?」

「私は、そう考えている」

 返答するダコールの口調も、わずかに砕けている。


 これは、ゲレオン准教授の演じた心理的ミラーリング効果に、無意識に乗ってしまっているのだろう。

 相手に同意させるためのテクニックであるが、異民族と接触することが多いゲレオン准教授はこのような知識にも長けていた。


「1機、ドローンをお貸し願いたい。

 そこにスピーカーを仕込み、上空から大音量で再生したい」

 ゲレオン准教授は説明もしないまま、いきなり要求に転じた。


「なにを……。

 なるほど」

 そう言って、ダコールは声を上げて笑い出した。

 そして、自分もテーブルの上に足を上げて、リラックスした様子を見せた。


「ゲレオン准教授。

 軍人も佐官になると、『交渉』も『心理学』も教練科目に入ってくるのです。

 貴方の手には乗りませんよ。

 ですが、それはいい手だ。

 そして、私自身にその手に気が付かさせて、いい気分にさせるというのも、ね」

「失礼しました。

 ですが、浅知恵でも、総作戦司令、貴方に対抗するにはこれしかなかった」

 ゲレオン准教授は、器用に逞しい肩をすくめてみせた。


「それはそうと、効果的にドローンを使うには、5機は必要でしょう?」

「そこまでお借りするのは申し訳なくて……」

「妙なところで遠慮されますな」

「研究なんて、予算がつかないものですからね。

 ちまちまやる癖がついているのです」

 その言葉に、再びダコールは笑った。


「ドローンは、上空から拡声器として使うのでしょう?

 現地語で、『隣国に攻め込んだ王こそが、宇宙からの敵と内通している。それを見破られたので、隣国の王に濡れ衣を着せて皆殺しにしたのだ』とでもね。

 最大版図の王が、あの惑星の政治体制を一枚板にするために、ライバル国を先に潰したのを逆手に取るわけだ。

 潰した口実は、我々への内通のはずなのだからな」

「お見事。

 私は、そう考えています」

 ダコールの言葉に、自らの思考のすべてを一瞬で察せられたことを、ゲレオン准教授は思い知った。


「まあ、我々の立場から向こうの民に吹き込むとすれば、『2国の王が競って膝を屈してきて、内紛で片方がもう片方を討ったが、我々はその王のみの従属を望んでいるわけではない。他にも降伏を誓う王がいれば、民の虐殺もせず厚遇する』、あたりが落とし所だろうな。

 あとは、他の版図の支配者が自分で考えるだろう」

「……理想的です」

 ゲレオン准教授は目を(みは)って答えた。


 明確に、2つの案は同じことを伝えている。

 だが、その立場を考えたとき、ゲレオン准教授の案では伝える意味が相手から見えない。それこそ、敵惑星の民に対する告げ口なのだ。

 それに対し、ダコールの案は、明らかに征服者の物言いで脅迫である。


「なにを言っているんだ、准教授。

 我々の専門分野で、軍事としてはあまりに使い古された手だ」

「恐縮です」

 ゲレオン准教授は、ここで姿勢を正した。

 その顔に向かってダコールは言う。

「この情報を上空から人口密集地に拡声して回るぞ、というのは、間違いなく脅しにはなる。惑星降下したゲレオン准教授を、いきなり殺すことはできなくなるだろう。

 だが、その一方で……」

 そこで、艦橋へ通じる通信機が鳴った。

 ダコールは立ち上がって、それを手に取る。


「ドローンが着陸する直前からの、全センサーのデータの洗い直しができた

 異常は見られない?

 全データを見たのか?

 どんなことでもいい、特異点はないのか?」

 それに対してなにかを相手は報告しているが、受話器を使っているのでゲレオン准教授には聞こえない。


「着地時に、コモンモード・ノイズが発生するのは当たり前のこと?

 だから、それも解析するんだ。当たり前を当たり前と判断するな。他の記録と徹底して比較しろ。

 その違いを拡大し、徹底的に突っ込んで検討しろ」

 そう言って、ダコールは受話器を置いた。


「コモンモード・ノイズとはなんですか?」

 軍機に触れたら困ると思いながら、その言葉を知らないゲレオン准教授は聞いた。

「うーん、簡単なことなんですが言葉で説明するのは難しい。

 そうだ、こういうものと理解するだけなら……。

 電池とLEDを繋ぐと光りますね。これが瞬いたら、ノイズがあることになる。ノイズがあるから安定して光らない。

 これが通常のノイズです。

 それに対し、電池とLEDを繋いだループそのものに、冬のドアノブと手のように、外から静電気が飛んだら、これがコモンモード・ノイズです」

 ダコールの説明に、ゲレオン准教授は頷いた。


「なるほど。

 ドローンの、その全体に掛かるノイズなのですね。

 ドローンが、まるっと鹵獲されて移動させられたのであれば、たしかにここに異常が出そうです」

「こういう解析は、指示が難しいのですよ。

 コモンモード・ノイズなど、こちらから言葉を出して指示すると、謎の解析にならないことがある。指示に合わせるために、データの方を合わせようとする意識が働いてしまうことがある。それでは意味がない。

 向こうからなんらかの言葉が出るまで、辛抱するしかない」

「……なるほど」

「我々が謎の解明をするのは戦うためです。

 忖度が入った挙げ句、敵との戦いの中で答え合わせが間違っていたら、それは敗北に繋がります。

 言葉遊びをしている余裕はない」

「なるほど。

 肝に銘じます」

 ゲレオン准教授は再び頷いた。

これで、いよいよ交渉が始まるのかな……、と。

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